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リアクション
☆
「そう、オイラ今日で10歳になるんだ〜♪」
クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はスキップしながら言った。
その日、5月15日は偶然にもクマラの誕生日で、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と共に買い物に来ていたクマラは、ウィンターの分身に遭遇したというわけだ。
「おお、それはすごいでスノー……お誕生日おめでとうでスノー……でも人助けを手伝って欲しいのでスノー」
というウィンターの言葉を受けて、エースは微笑んだ。
「そうだねぇ、人助けといえば、今ちょっと困って入るんだよね、良ければウィンターちゃん、助けてくれないかい?」
エースはやや大仰に渋面を作り、ウィンターに相談を開始する。
「もちろんでスノー!! カヌーに乗ったつもりで任せるでスノー!!」
「それはまた、微妙な選択だね。
……で、クマラの誕生日なんだけど。毎年一緒にお菓子を作ってお祝いすることにしているんだ。けれど今年はパウンドケーキとクッキーのどちらを作ろうか悩んでいるんだよね。
まず、どちらを作るか決めなきゃいけないんだけど……」
すると、思いのほか真剣に悩み始めるウィンター。さらに、エースは言った。
「それともうひとつ、ココアを生地に混ぜるかプレーンにするかでも悩んでいてね、どうしたものかと」
うーんうーんと悩むウィンター。その結果として、ウィンターは一つの答えを出した。
「分かったでスノー! どれも美味しそうだから一つを選ぶということはできないでスノー!! 全部作ったらいいでスノー!!!」
その答えに、エースは笑う。
「はははっ、それはいいね。でも、それだと二人で作るには人手が足りないんだ。
……良ければウィンターちゃん、手伝ってくれるかい?」
「もちろんでスノー!!」
二つ返事で引き受けるウィンターに、クマラもまた笑った。
「へっへーん、何しろオイラの誕生日だからなっ!
とびっきりのお菓子を作ってお祝いしようぜ!!
ところで、オイラの誕生日なのに毎年オイラも作ってるんだよな……? まいっか!!」
クマラとウィンターがどんなお菓子にするか談義しているところに、エースは声をかける。
「あ、そういえば。せっかくだからウィンターちゃんには何かお菓子のアイディアとかはないかい?
たとえば……ウィンターちゃんの故郷のお菓子とかさ」
何気ないエースの一言だったが、ウィンターはぽつり、と答えた。
「あ……故郷……は、ない、でスノー……」
突然、クマラはウィンターと腕を組んでスキップを始めた。
「んなつまんない話はいいからさ!! 行こうぜ、まずはあの店からだっ!!!」
「う、うん! 行くでスノー!! 突撃でスノー!!」
二人は高速スキップで製菓店へと突撃していく。後ろから眺めたエースは、少しだけ、微笑んだ。
「……なら今日は……楽しい一日にしなくちゃ、な」
☆
「いいかですかスノーさん、ここにある薔薇の束をバラすのを手伝って欲しいんです」
と、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)はウィンターの分身に告げた。
「わ、分かったでスノー」
ぐ、と軍手をはめた手で握り拳を作って気合を入れるウィンターに、リュースは忠告した。
「――あまりがんばり過ぎなくていいですよ。単純作業ではありますが、何しろ量が多いですから、あんまりはりきすぎるとバテてしまいます。
それに、これから美しく飾ろうとする花を、万が一にも傷つけたくはないですからね」
確かに、そこには大量の花があった。
リュースは以前、蒼空学園に通っていた時に住んでいた家の大家に頼まれて、大家の屋敷を薔薇で飾る仕事に来ていたのだ。
その大家の家は特に貴族でもない一般人の家では珍しく、小さな庭と家を美しい花々で飾っていた。
「これから夏ですからね、白い薔薇で飾ろうと思いまして」
と、リュースは言った。
空京で花屋を経営するリュース、その日持ち込んだ花は店のバンに入りきらないほど大量で、確かにこの花をひとつひとつバラバラにするのは大変だ、とウィンターは思った。
とはいえ、作業は始めなければ終らない。ウィンターは手元の白い薔薇を手に取って、丁寧に解き始める。
「リュースは、毎月このお屋敷を薔薇で飾っているのでスノー?」
作業の傍ら、ウィンターは口を開いた。
「いや、毎月というか……季節ごとって感じですかね。
とはいえ細々とメンテナンスもしますから――まあやっぱり月に何度かは来なければいけませんけれど」
と言って、リュースは笑う。
「それに、季節に合わせて花も変えますから、薔薇ばかりじゃないですよ。
ただ、来月は6月でしょう? 大屋さんの誕生日が6月で――薔薇は6月の誕生花なんですよ」
ウィンターは、感心したようにリュースの言葉に頷いた。
「へぇ……色々考えて大変でスノー」
「そうですね……でもねスノーさん、オレ、蒼空学園にいたとき、ここの大家さんにすごいお世話になったんですよ。
だから、お花も最低限の代金しかもらわないし……これくらいは少しでも恩返しできればね。
それにここのお花をメンテすることで、大屋さんもうちの店のことを人に話してくれるから、ここの大屋さんに話を聞いて空京の店を訪ねてくれるお客さんも多いんです」
それを聞いて、ウィンターはまたため息をついた。
「はー、リュースはエライでスノーね」
「いやあ、持ちつ持たれつじゃないですか。それに、偉いというならスノーさんだって偉いでしょ。
わざわざ人助けをしようなんて、今どき珍しいじゃないですか?」
「う……私は、宿題だから……仕方なく……でスノー」
急にウィンターの歯切れが悪くなったのを見て、リュースは作業を続ける。
「そうなんですか? 仮に宿題だからと言っても、人助け自体はいいことですよ。
……ああそうですねぇ……強いて言えば、宿題だから、で終らせてしまうと、確かに意味なく終ってしまいますね」
きょとんとした顔をして、ウィンターはリュースの顔を見た。
「ああ、ちょっと難しかったかな……ええと。オレもそんなに喋るのは上手くないんでアレですが。
例えばね、オレが大屋さんの家を花で飾っているのは昔の恩を返したいから。
大屋さんがうちの店のことを宣伝してくれるのは、オレがサービスしているから。
世の中ってね、そうやって少しずつ絡み合っていくものだと思うんですよ」
「ほうほう……なるほどでスノー」
「だからねスノーさん。今回、いくらスノーさんが人助けをがんばっても、宿題が終ったら人助けもおしまい、では意味がないと思うんですよね。
今回スノーさんが人助けをした人が感謝の気持ちを忘れてしまったり……スノーさんを手伝ってくれた人への感謝の気持ちを忘れてしまったりしたら……また同じようなことになるとは思いませんか?」
言葉に詰まるウィンター。思い当たる節が多すぎるのだ。
「……た、確かに……その通りでスノー」
そんなウィンターの頭をぽんぽんと撫でて、リュースは笑った。
「まあ、そんなに気負わなくてもいいですけれど。
ただ覚えておいて下さいね、同じように育てているつもりでも、いつも同じように花は咲かないんです。
だから、スノーさんもその時その時で、皆さんへの感謝の気持ち、ありがとうを忘れないで下さいね。
それは、必ずスノーさんのところへ帰ってきますから。今日は、手伝ってくれてありがとうございます」
と言って、リュースは白い薔薇を一輪、ウィンターの胸元に差す。
「さあ……がんばって終らせてしまいましょうか」
その笑顔に、ウィンターもまた感謝の笑顔を返すのだった。
「……がんばるでスノー、ありがとうでスノー!!」
☆
「雪だるマー、装着でスノー!!」
ウィンターの分身は気合を入れてミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)に雪だるマーを装着させた。
その瞬間、ミシェルは各関節を雪玉型のアーマーで覆われる。
「へー、これが雪だるマーかぁ、ブーストを使わなくても滑るように動けておもしろいね」
ミシェルは雪だるマーの機能を確認する。足部分も雪玉で覆われていて、スケーティングの要領で平地を高速移動できるのが特徴だ。
矢野 佑一(やの・ゆういち)も、その様子を見て微笑む。
「へぇ……面白そうだね。それに、見た目もまぁ……かわいいし……」
何か含むところがあるような佑一の言葉に、ミシェルは自分の姿をもう一度確認した。
胴体や手足をまるまるとした雪玉で覆われた格好は、確かにかわいいと言えば言える。
が、実の所は見た目も『面白い』というのが実際のところではないだろうか。
「むぅ……佑一さんってば、なに笑いをこらえてるのさ、面白かったら笑えばいいでしょ?」
ぷくーと頬を膨らませて怒るミシェル。
佑一は、ミシェルの頭をぽん、と撫でてそれをなだめた。
「はは……ゴメンゴメン。もう笑わないよ……それより、今日中にその五目いなり寿司、カガミさんに届けたいんでしょ? がんばらないとね」
むくれる様子も面白いし可愛いとかって言ったら――また怒るだろうな、とか考えながら。
「あ、うん……この間ちょっとお世話になったから……お礼にと思って……」
ミシェルはカナンの映画事件の際に、カメリアのお供のカガミと少し話し込んでいくつかの誤解を解いていた。
「そういえば、特に聞いてなかったけど――カガミさんには何でお世話になったの?」
何かパートナーが世話になったのなら自分からも礼を言わなくては、と佑一は言う。
普段はぼんやりしているが、こういう所は律儀な男なのだ。
だが、ミシェルは首を横に振りながら誤魔化した。
「な、何でもないったら!! お礼っていうのもあるけどホラ、お嫁さんもお子さんもいるそうだからみんなで食べてもらうと思って!!」
「あ、そう? まあ――ミシェルがそう言うなら」
と、とりあえず佑一も言葉を引っ込めた。
まあミシェルとしても、カガミが佑一に気があるのではないかということを確認しに行って、奥さん子持ちであることを確認してきたとは言えないわけだが。
「それでねウィンターさん、ツァンダの街に良く来ているカメリアさんのお供の、カガミさん――狐の獣人の――を探してるんだけど」
と、ミシェルはウィンターの分身に相談した。
いろいろあってミシェルとしては胸のつかえが取れたし、佑一とのことも励ましてくれたし、疑って悪かったという個人的な贖罪の意味も込めて、カガミとその家族に五目いなり寿司を作ってきたのだ。
ところが、今日に限ってカメリアとカガミが見つからない、というわけだ。
だが、そこまで聞いたウィンターは、えへんと胸を張った。
「カメリアとカガミなら知ってるでスノー!! 今は遊園地にいるでスノー!!!」
「え、本当!? どうして分かるの!?」
「今、私の分身はツァンダの街のあちこちに散らばっているでスノー。全員が私と同じ存在で、精神的にも繋がっているので、お互いの情報をすぐに知ることができるのでスノー!!」
「へぇー、冬の精霊とか、季節の精霊はみんな、そういうことができるの?」
そのミシェルの問いを、ウィンターは否定した。
「できないでスノー。たぶん私だけでスノー。私はそういう生い立ちなのでスノー」
さらに自慢気に胸を張るウィンター。その様子が微笑ましくて、ミシェルはウィンターの頭を撫でて、言った。
「あ、それじゃ早速カガミさんにこのお寿司を届けにいかなくっちゃ、佑一さん、しっかりつかまってて!!」
「え? あ――うん」
佑一は、ミシェルの肩を後ろから掴んだ。ウィンターが気を利かせて佑一の足元だけを雪だるマーで覆って、滑りやすくする。
「いくよーっ!!」
ミシェルはツァンダの街を、雪だるマーのスケーティングで滑って行く。
「ゴーゴーでスノー!!」
あくまで脳天気なウィンターを背中に乗せて。
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