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春は試練の雪だるま

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春は試練の雪だるま

リアクション

                              ☆


 ツァンダの郊外に、遊園地が一つオープンしていた。
 ホテルとショッピングビルが隣接する、中規模だが気軽に入れるその遊園地は、オープン初日ということで多くの人で賑わっている。
 その中に、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)はいた。
「さあさあ、このマントの中には何も入っていませんが……ほぉら!!」
 マント翻すと、中からわたげうさぎが現れて、観客の子供たちの歓声を浴びる。
 この遊園地では、オープン記念としてツァンダの孤児院などの児童養護施設の子供達を無料で招待していたのだ。
 ウィンターに人助けの手伝いを頼まれたクロセル達は、それならたまにはイイ事するか、とその子供たちの相手をすることにしたのであった。
 そんな中、クロセルが行なっているのは各種魔法やスキルをこっそり使用した手品ショー。
 手品というものは、タネがあればできるものではない。魔法やスキルを使えば確かにいくらでも仕掛けは作れるだろう、しかしそれを『見せ』、『楽しませる』ことはスキルや魔法だけではできない。
 その意味では、クロセルは手品師役にはうってつけであった。

「わー、すっごーい!!」
 子供たちは一斉に拍手をする。クロセルの周りにはパラミタペンギンがアシスタントとして華を添え、その中にはウィンターもいた。手品師クロセルのお手伝いである。
「……なんか、普通にイイ事してるでスノー。……意外でスノー」
 その言葉に、クロセルは呟き返した。

「いや別に、売名行為じゃないですよ――とでも言っておきましょうか?」

 見上げると、物質化スキルでマントの裏側から出したわたげうさぎをウィンターに手渡し、クロセルは微笑む。
 ウィンターは、わたげうさぎのふかふかの毛に顔を埋め、呟いた。
「別に……そのままでいいでスノー」


 ところで、その様子を横目で眺めながら感涙の涙を流すのはルイ・フリード(るい・ふりーど)である。
「うう……あのクロセルさんが純粋に人のために働こうとするなんて……ここは私も張り切らねばなりませんねぇ!!」
 そうしてルイが子供たちに披露するのは『鉄パイプアート』であった。
「ふんっ!! せいっ!! とあぁあっ!!」
 気合と共に手に持った鉄パイプをぐにぐにと曲げていくルイ。本当にタネも仕掛けもない、自前の筋肉のみで披露される芸であった。
「はっはっは!! さあ、これは何の動物かなー? 当てられた子にプレゼントしますよー?」
 子供たちは、その鍛え上げられた筋肉が躍動し、鉄パイプがまるでバルーンアートのように形を変えていく様を見て、歓声を上げるのだった。
「わー、すっげー!! ねこ、ねこ!!」
「たぬき、たぬきだよ!!」
「えー? くまだよ、くまー!!」

「……ふむ……犬のつもりだったのですが……腕力はともかく造形センスの方は問題ですねぇ……まあいいでしょう、ウィンターさん、次の鉄パイプをお願いしますよ!!」
 ここでもアシスタント役のウィンターの分身は、よたよたと鉄パイプを持ってくる。
「当たらなくて正解でスノー……プレゼントされても子供には持てないでスノー……」


 鬼崎 朔(きざき・さく)もその近くで『雪だるま王国印のかき氷屋さん』の屋台を開いていた。
 氷術で作ったかき氷にシロップをかけて販売されたかき氷は、最低限シロップ代の原価程度でしか料金を取らない安価設定のため、大人気。
「一段落してきましたね……カメリアさん、休憩して下さい」
 そのかき氷屋さんを手伝っていたカメリアに声をかけた朔は、ウィンターの『雪だるマー』を装着して客寄せをしている。
 全身の各部を雪玉で覆うようなデザインの『雪だるマー』は、たしかに『雪だるま王国のかき氷屋さん』の看板塔としてはもってこいであった。
「うむ、そうさせてもらうかの……ウィンター、儂にも一杯くれ」
 屋台を覗きこむと、朔の所にやってきたウィンターの分身があっというまにかき氷を作りだした。
 元来雪の精霊であるウィンターにこの程度の氷を作ることは造作もない。なるほど、適材適所と言うべきだろう。
 受け取ったカメリアは、ずらりと並んだシロップを眺めた。
「ほう……イチゴにメロンにブルーハワイ……ブルーハワイって何じゃ?」
 そこに、朔がまた別のシロップを取り出した。
「おすすめは練乳ですよー、さ、どうぞ」
 たっぷりとかけられた練乳のかき氷を一口食べて、微笑むカメリアだった。

「うん……こではうまい……ところで朔、どうしてカメラを持って待機しておる?」
「いや別に……かき氷を可愛く食べるカメリアさんを撮影したいとか、謎の白い液体をうっかり顔に引っ掛けたカメリアさんを激写したいとか思っていませんよ?」


 そんな微妙な空気の中、ルイのパートナー、ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)は丸型ロボットにしかい見えない自らの機晶姫ボディを活かして、風船配り&マスコットとして子供達の相手をしている。
「ほぉーら、風船でありますぞ〜、マジックショーも筋肉ショーも楽しいでありますぞ〜、喉が渇いたらかき氷もありますぞ〜」
 腕力不足のため、ルイのアシスタントを続けることが困難になったウィンターも、その頭の上に乗って風船を配っていた。
「風船は、ふわふわしていて可愛いでスノー」
 そんなウィンターに、ノールは一つ風船を手渡した。
「……ウィンター殿も皆と共に遊び、楽しんでほしいであります。
 人助けの宿題も難儀ではあろうけれど、悲しい顔をされると我輩も悲しいであります」
 身長3mのノールの頭部からするすると降り、ウィンターは風船を受け取った。


「……ありがとうでスノー。うれしいでスノー」


 そんな微笑ましい光景を尻目に、童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)の腕とマフラーを取って歩くのは魔鎧 リトルスノー(まがい・りとるすのー)である。
「あれあれ、リトルスノー殿? クロセル殿から離れては手伝いができないでござるよ?」
 だが、そんなスノーマンの言葉はリトルスノーの耳には届かないのだ。
「まあまあそう言わずに。効率よくスタンプを集めるためにも、ここは分散して人助けをすべきですの。ちょうどあちらのホテルの方に助けを求める声が聞こえる気がするのですの」
 騎士道を重んじるスノーマンは、女性の手を乱暴に振り払うこともできずに、そのままホテルの方向へと誘導されていく。
「そうでござるか。ところで、ウィンター殿も同行しなければスタンプの助けにならない気するでござるよ?」
 ぎく、と冷や汗を流したリトルスノー。
 もちろん、人助けというのは真っ赤な嘘で、単純にスノーマンを口説き落としたいだけなのだ。


 手始めに、あそこに見えるホテルで既成事実作り、とか考えているのは秘密なのだ。


「だ、大丈夫ですの。あとからウィンターさんは合流する予定ですの。心配無用ですの」
「なるほど……さすがにリトルスノー殿はソツがないでござるな……ところで、拙者第六感に身の危険を感じるのでござるが……」


 逃げてスノーマン、超逃げて。


 と、リトルスノーに引きずられていくスノーマンの耳に、ウィンターの分身の元気な声が響いた。

「みんなーっ!! こんにちはでスノーッ!!」
 マイクを手にしたウィンターが元気良く叫ぶと、遊園地に作られた特設会場に集まった子供たちもあいさつを返した。
「こんにちわーっ!!」
 もう一度返すウィンター。
「声が小さいでスノー! もう一度、元気よく、こーんにーちわーっ!!」

「こーんにーちわーっ!!」

 今日は遊園地のオープンに合わせ、風森 巽(かぜもり・たつみ)がヒーローショーを行なう予定だったのだが、事故があったらしく怪人役やスーツが大幅に遅れていた。
 このままでは舞台に穴が空いてしまうと困っていたところ、ブレイズとウィンターが通りがかり、渡りに船とばかりに助けを求めたのである。
 パートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)はアクション用のスーツを着込んで『仮面ツァンダー・ソークー1』の役。ウィンターは司会のお姉さん役。ブレイズはそのまま正義マスクとしてお助けヒーローだ。
 で、当の巽はというと。

「マーッマッマッマ!! オーレは怪人雪だる魔!! 暑い夏なんか大嫌いダールマ!! この俺の雪だるまパワーでカチンコチンの真冬にしてやるのダールマ!!」


 雪だるマーを装着しての怪人役だったという。


 お約束どおり怪人として会場の子供たちを襲い始める巽。お姉さん役のウィンターは叫んだ。

「たいへんでスノー! このままでは会場のみんながかき氷にされて食べられちゃうでスノー!!」
 そこに、スーツを着たティアが登場した。
「待てぃっ!!」
「ぬぅ、何ヤツ!!」
「蒼い空からやって来て! 皆の笑顔を護る者! 仮面ツァンダー・ソークー1!」
 もとよりヒーロー大好きのティア、のりのりのヒーローっぷりであった。


「はぁ……困りましたねぇ……」
 とそのヒーローショーを眺めるでもなく、テルミ・ウィンストン(てるみ・うぃんすとん)はため息をついた。
「どうしたでスノー?」
 テルミについたウィンターの分身は聞いた。
「……だって、人助けとか言われても……たしかに助けてあげたいのはやまやまですが……さてさて……」
 街でいきなりウィンターに人助けの手伝いを頼まれて、途方に暮れるテルミであった。