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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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 集落の北東部、魔鎧造りの職人たちが工房を構える一角で、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は一人の悪魔と対峙していた。
「は? プラチナを返せだと?」
 集落に潜入する為に、魔鎧であるパートナーのプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)をフルフェイス状態で装着していたが、それも今は解除している。唯斗プラチナムは並んで男と向き合っているのだが、男はプラチナムを指差して言った。
「何度も言わせるな、それは私の造った作品だ、私に返せと言っているんだ」
「断る、プラチナは俺の女だ。誰かに渡す気は毛頭無い」
「お前の意志など関係ない。もう十分に自由を与えた、我が子に帰って来いと言っているだけだ」
「子供がいつまでも自分の物だなんて思うなよ、『居たい奴の傍に居る』それ以外に幸せになれる方法なんて無ぇんだよ」
「隣の男はそう吠えているが?」
「私は……私もマスターの傍に居たいです」
 マスター、つまり唯斗の傍に居たいのだと、そう彼女ははっきりと言った。
 聞いた男は観念したのか「合格だ」「悪いが試させてもらった、我が子も、そして今の主人の事もな」などと言ってのけた。娘の彼氏を迎え打つ父親のような言い種だったが、それが男なりの愛情表現だったのかもしれない。
「来い、案内してやる」
「は? 案内ってどこへ」
 唐突に男は2人を別の建物へ案内すると言い出した。自分とプラチナムの再会を祝うべく『もてなしの会』を開くのだという。
「食事くらい共に食べても良いだろう?」
「いや、俺はアンタが嫌いだ」
 人を試すなんざ、ろくな奴じゃ無ぇ。唯斗は心からそう思っていたが、男は間違いなくプラチナムの生みの親、であるようだし……。
「お前たち、他に親しい者は居ないのか?」
「親しいもの?」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)の2人が集落の外で待機している。もしもの時に退却がスムーズに行えるよう連絡役兼撤退支援を行うのが彼女たちの役割だった。
「その娘たちも呼ぶといい。我が子が親しくしている者たちだ、ぜひ会って話がしたい」
 突っぱねたい、拒否したい。唯斗は思っているはずなのに、何だろう、父親力? いや親子の情だろうか。断ろうとすればするほど自分が外道に成り下がるような恐怖心が芽生えてくる。
「わかった。プラチナ、2人に連絡しろ」
 男に連れられて、2人は先に『窓のない平屋』へと足を踏み入れた。



「へぇ、上手いことやるもんだ」
 風通しの良い部屋、というよりほぼ壁のない建物のなかでグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はそれに感嘆の声をあげた。
 砕けた魔鎧、その兜に空いた穴を職人は見事な手つきで塞いでみせた。「こんな事は誰にでも出来る」なんて男は言ったが、手元でその様を見てもグラキエスには手順も仕組みも全く理解できなかった。
「だからどうしてそこからそうなる。なぁ、アウレウス―――って、おい」
 男の横でアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が頭を下げて跪いていた。
「どうか、どうか俺を! 修理してはくれないだろうか」
「おい、アウレウス」
 微動だにしなかった。良い返事が貰えるまでテコでも動かない、そんな決意が表れているような跪き方だった。職人は職人で元から寡黙なのか邪険に思っているのか知らないが、あれから何一つ言葉を発しなくなってしまった。
「………………」
「………………」
「………………」
 ダメだ。停滞状態に耐えきれずにグラキエスエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)を『召喚』にて呼び出した。
「おっと、これは」
 黙々と手を動かす職人とそれに頭を垂れる魔鎧。突然の光景にもエルデネストは「なかなか面白い画ですね」と笑って見せた。
「急に呼び出して悪かった、実は―――」
「結構です、状況は理解しました」
 エルデネストは何も聞くことなく職人へ話しかけた。
「実は彼、魔鎧状態になるとロングコートのみの形になってしまうんだ」
 人型は白銀の鎧を纏った金髪金瞳の騎士の姿。元来は魔鎧状態もそれと同じであった。
「それってもはや鎧と呼んで良いのかぃ? 私なら呼ばない、あえて呼ぶなら、そうだなぁ……『魔巾』! そう、『まきん』と呼ぶのがふさわしい」
 パチンと指を鳴らして言っていた。反応は無くとも彼は続ける。
「哀れだとは思いませんか。生まれし命、宿りし力、しかしそれらが活躍する場はごく僅かな一部分、人の肩からぶら下がる、そんな事しか彼には出来ない」
 消えることの無い劣等感、それでもアウレウスは向上心を捨てたことはない。
「どうか彼を男にしてやってはくれないだろうか、あなたの力で、彼に『主を守る力』を与えてやってはくれないだろうか、そのためならば彼も、いや私も何だってする、させてはくれないだろうか」
「俺もだ! 俺に出来ることなら何だってする!」
 最後は2人ともに頭を下げた。そんな様に根負けしたのか、男はスッと立ち上がると、
「ついてこい」
 とだけ言って部屋を後にした。
「ありがとうございます!」
 涙ぐんだ声で叫んだアウレウスを連れて、2人は男の後に続いた。
 そうしてしばらく歩いた後。3人は男に続いて『窓のない平屋』に入っていったのだった。