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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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●24

 麓の村。
 もう『村』と呼んでいいのではないか。もうそこは『かつて村のあった場所』ではなかった。それほどに復興は進んでいた。
 埋もれていた建物が、ふたたび日にさらされていた。新築の建築物も、以前のものに劣らず風景に溶け込んでいた。建造中、再建中の建物の作業は活発に進んでおり、明るい雰囲気があった。教導団に対する村人の不信も、いくらか薄れているかもしれない。
 しかし桐生円は明るい気持ちにはなれなかった。彼女は山小屋からの報を受け、動揺していた。
「……最悪の展開になったみたいね。死体を隠していた……ということは、発見を遅らせたい理由が下手人にあったということ」
 アリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)が円の発言を継いだ。「とすれば、ここに何か仕掛けてくる可能性も高いのではないでしょうか」
 二人は現在、教導団のリシュトマ少佐に報告を行っていた。折良くクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)大尉もいる。事態はすでに、自分たちだけで秘めておけるレベルではない。
 ここは村の中央広場である。再建中の集会所を除けば身を隠せるものは少なく、大量の村民が行き交っていた。円の報告が終わるか終わらないかのうちに、「クレア様……?」ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)がいち早く反応した。そのとき、村の長老がヨタヨタと少佐に近づいてくるのに気づいたのだ。
「大変なことが……大変なことが……」老人はあわてふためいた様子で、彼に出来る最大速度でやってくる。老人は右腕を懐に入れていた。まるでその内側で、何かを握っているかのように。
 ハンスは自分から老人に近づくと、丁寧な、しかれども有無を言わさぬ口調で告げた。
「失礼、右の懐に入れた手を出していただけますか?」
「え……?」長老は足を止めた。
「出していただけますか?」ハンスは言葉を落として繰り返した。大声ではないが、周囲にいるすべての人間に届く声量である。
 緊張した空気が流れた。仕事の忙しさで忘れていた『制服組』への反感が一気に戻ったような、突き刺さるような敵意、あるいは戸惑いを感じながらも、ハンスは身じろぎひとつしない。
「クレア様」と、彼は言った。
 かちりと音がした。銃の安全装置が外される音だった。
 すでにクレアは、ハンスの意図に気づいている。彼女は星輝銃をを向けた。村長とは正反対の位置にいる村人に。「今、この状況でうろたえもせず、一人我々との距離を縮めているそこの人。両手を挙げてもらおう」
 一方でハンスは、村長に丁重に詫びていた。「……申し訳ありません。あなたが片手を懐に入れる癖があるのは、以前お会いしたときから存じ上げておりました」
 クレアに銃を突きつけられているのは中年の男性だった。浅黒い肌に口髭、この村では一般的な服を着ており、とりたてて印象に残らない地味な容貌である。平凡で、村人が集団で歩いていれば、その中にすぐ埋没しそうな姿だった。
「敵を炙り出すための」銃を突きつけられたまま、男は薄笑みを浮かべていた。「ブラフだったというわけか」
 クレアは直接その言葉には応えなかった。「繰り返す。両手を挙げてもらおう。抵抗するつもりなら……」クレアの言は続かない。村人が予想外の行動に出たのだ。彼は身を低くし、資材の山に飛び込んだ。
 直後資材の山が爆発した。C4爆薬だろうか。粉塵が飛び散り、目を開けていられないほどになる。無論、たちまち謎の村人は姿を消していた。
「少佐は退避願います。クローラたちは少佐を守れ」クレアは両腕を伸ばして銃を構えた。
 リュシュトマの補佐官クローラ・テレスコピウムは、短く敬礼して少佐をかばうようにしながら退避行動に入った。「セリオスは……」
 クローラの考えていることなら、パートナーのセリオス・ヒューレーが判らないはずはない。「エアカーを出した。クローラは少佐とこれで離脱して! 僕はそれを護衛しながら併走する。ラックたちも呼ばなくちゃ」
「私たちは暗殺者と思わしき姿を追う。逃がすな」クレアは、円に視線を流して短く告げた。「同行頼めるか」そして返事も待たず走り出したのである。
 了解、と円も続いた。
「塵殺寺院の暗殺者? 村の人間に変装していた……!? アリウム!」円はすぐさまパートナーに呼びかける。魔鎧アリウムは鎧の姿へと帰し、「頑張って行きましょう円様ー」と彼女に装着されるのである。
 まったく、と円は呟いた。(「復興くらい平穏無事に終わらせてあげようという気もないのね……塵殺寺院には」)