天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

Zanna Bianca II(ドゥーエ)

リアクション公開中!

Zanna Bianca II(ドゥーエ)

リアクション


●34

 教導団、執務室。
「お前か」
 イルミンスールからの特使として現れた神代 明日香(かみしろ・あすか)を一瞥すると、別段、面白くもない顔をして玉座から降り、金 鋭峰(じん・るいふぉん)は執務机についた。
 事件翌日、早くも報告会が行われているのである。部屋には鋭鋒の他、数人の女官とリュシュトマ少佐という初老の軍人の姿があった。鋭鋒はあいかわらずむっつりと不機嫌そうな顔だが、もう今では明日香は、彼がもともとそういう顔なのであり、案外、怖い人ではないということを知っていた。問題は、同席しているリュシュトマ少佐だ。彼は本当に微塵も表情を緩めない。何を考えているのかわからない厳めしい顔つきということもあって、明日香はあまり彼のほうを見ないようにしていた。
「団長……」明日香は鋭鋒に呼びかけた。
「何か」
「前回、『しかし次はない。そのつもりでな』とおっしゃいましたね?」
「言ったと思う」
「でもあれは、『もう来るな』とか『もうやるな』という意味ではなく、私を励ましてくれた言葉だと思ってます。『見習い気分の勉強で情報を持ち帰るだけと言うおんぶ姿勢はダメだ、次はちゃんとしろ』という激励ではなかったのかと」
 ですから、と身を乗り出して明日香は、「今回は前以上に務めを果たすつもりです!」と力強く宣言したのだった。笑われるかも、と瞬時不安になったが、杞憂に終わった。
「その意気や良し。国軍の者にも見習わせたいな」なんとあの鋭鋒が、褒めてくれたのである。彼の三白眼が優しく弛んでいた。
 嬉しくなって思わず、明日香はたたみかけるようにしてお菓子の包みを開いた。
「お茶請けにどうぞ。前回の反省を活かして、今日は辛いお煎餅を用意してきました。私が焼いたんですよ。甘くないのでどうぞ安心してお召し上がりください〜」
 するとそれまで彫刻のように不動だったリュシュトマ少佐が、出し抜けに煎餅を手にして一枚口に入れたのだった。「毒はないようです」
(「そんなぁ……! 毒なんか入れてないですよぅ〜!」)と、抗議したくなった明日香だが、やはりポジティブシンキング、あの少佐すら思わず手が伸びるくらい美味しそうな仕上がりになったんだと考え直すことにした。
「それでは団長もどうぞ〜」

 次々と報告が続く。明日香は集中して聞き取り、メモを取った。
 最後の報告者は沙鈴中尉だった。
「……以上、教官としての報告になります。団員の昇進・降格に関する意見書は詳細レポートに添付しました」
「降格?」そのとき鋭鋒は、獲物を狙う蛇のような目で沙鈴を見た。
「はっ、功ある者ばかりではありません。懲戒に値する行動も、一部見受けられました」
「中尉らしい上奏だな。考慮しておく」それから、と鋭鋒は言い加えた。「氷雪の下を流れる川を発見したのは貴官のパートナー秦良玉であったな」
「その通りです。相談せず行動に出たことは懲罰に値します」
「いや」鋭鋒はやや言葉を和らげた。「大いによろしい。村から届いた感謝状にも、そのことが真っ先にしたためてあった。大儀だった」
 沙鈴は敬礼して執務室を出て行った。
 そして鋭鋒は、続けてリュシュトマに問うた。
「まとめに入るとしようか。少佐、概要について述べよ」
 すると軍人は、資料の分厚い冊子を取り出して告げたのである。
 以下、それを箇条書きする。

 ザナ・ビアンカ:消滅。少なくとも当分、村に被害をもたらすことはない見通し。
  追記・正体については目下調査中(霊的ないし魔法的存在?)

 クランジΛ:村人一名に犠牲を出すも、死亡

 クランジΚ:捕獲されるも対象誤認。逃走したと思われる

 クランジΡ:重傷。治療のため蒼空学園へ引き渡された

 クランジΠ:逃走


「諸手をあげて称えていい戦果ではないが、当初の目的は果たしたと見ていいだろう。無事、村の復興も済んだようだな」
 金鋭鋒は椅子に体を沈めた。彼も付かれているらしかった。いたわるように明日香は言い添えた。
「村の、教導団に対する印象も良くなったようですねぇ」
「それは、今回の作戦の主目的ではない」
 しかし、ぴしゃりと鋭鋒は応えたのである。
 ところが、なんとも明日香が不服そうな顔をしているので、彼は軽く咳払いして一言加えたのだった。
「といっても、喜ばしいことではある」



 『Zanna Bianca II――ザナ・ビアンカ・ドゥーエ』 完

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介です。ご参加いただき、本当にありがとうございました。
 まずは今回、少し遅刻してしまったことをお詫び申し上げます。
 言い訳はしません。ごめんなさい!

 さて、このシナリオは前シナリオの流れを組んでいるだけあって、プロット構成にも大変苦労しました。
 皆さんのアクションを読んで調整した結果の展開ですので、期待していた部分があってもご容赦願います。(シチュエーションが変わっていても、本来のアクションの主旨は酌み取って反映するようにしています)

 クランジΠ(パイ)、Ρ(ろー)、Λ(ラムダ)、Κ(カッパ)、そしてザナ・ビアンカや村の人々、それぞれに対し、皆さんが練りに練ったアクションを展開してくれたことに、厚く御礼申し上げます。

 それでは、また新たな物語でお目にかかりましょう!
 桂木京介でした。