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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

リアクション


●29

 最初に予告しておこうッ! 不本意ながら逆方向へ逃走せざるを得なくなったΚ、彼女はここでさらに、不本意な目に遭うことになるとッ!
「今、貴様は歴史的瞬間を目にすることになる! それは、転がる! 魔王! ロォォォォリング魔王ーーーーーッ!」
 どすっ、ごろごろごろごろ、まさしくそう呼ぶしかない大迫力の突進で、土壁を破り魔王がΚの前に転がり込んできた。魔王、その名はジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)である。
「ちなみにその壁はこのショックを与えるためだけに短時間で大至急建造したものですからね! 村の人たちの再建活動の妨害なんてしてないんですって! ていうか真面目にボランティアしてましたって!」と、一気にまくし立てて喉が渇いたのか、ジークフリートを追って飛び出してきたクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)は、ぜえぜえ荒い息を吐き、「メフィストフェレスさん、何かドリンクもらえます? さむしんぐ・とぅ・どりんく・ぷりーず」と片手を出した。
「はいどうぞ」メフィストフェレス・ゲオルク(めふぃすとふぇれす・げおるく)がコップ入りの茶色い液体を差し出した。「ああどうもありがとうございます。んごんごんご……ぶはッッッ!!」ブーッ、と漫画みたいに液体を吐き出してクドは悶えた。「ゴゲガガガ、なんですかこれはッ! この生ぬるくて塩辛い液体はッッ! お兄さん死んじゃいますッッッッ!」
「ふふふ、それはラーメンのスープです」まったく悪びれずメフィストは言った。「私が最近ハマっている東村山どさん子ラーメン(葱多め)の! 美味しいでしょ〜?」
それは東京の店なのか北海道の店なのかどっちなんですか!? じゃなくて! ラーメンスープを飲料にはしないでしょ! ていうかこのやりとりで多分Κさん引いてますよ。ドン引きですよッ!」
「ふははははっ、ドン引きかどうかは知らないが、足は止まったようだぞ!」猛烈に転がったので、あちこち雪まみれ泥まみれになりながらジークフリートは立ち上がった。「俺はジークフリート・ベルンハルト、わけあって魔王をやっている!」
「おっと、というわけで変態紳士が三人で参上! お兄さんはクド・ストレイフと申します! そこの黄金仮面のクランジよ、慌てふためくがいい!! そして呆れるがいい!! ですよー!」クドもびしりとΚを指さす。
「あの……その変態紳士『三人』っての、私も入ってるんですか……?」メフィストフェレスは心底嫌そうな顔をして言ったのだが、ジークもクドも全然聞こえないふりをしていた。見た感じは清らかな乙女の姿したメフィストであるが、パンツスーツを着こなしており男装の麗人といった様相なのである。なお、本当の性別は秘密だ。「ええと、そこの魔王様ことジーくんのパートナー、メフィストフェレス・ゲオルクと申します」
 じりじりと間合いをはかりながら、Κは出し抜けに仮面を取った。するとそれは、メフィストフェレスの顔に変わっていた。いつの間にか服装もタキシードに替わっている。
 ところが効果は小さかった。そもそもメフィストフェレス自身が、「あービックリした! いっしゅん、どうしてこんなところに女優がいるのかとおもっちゃったわ…」などと言ってけろりとしている。
 それを聞いてクドは、「いやいやいや、メフィストフェレスさんが二人になってしまいましたよ!」と、実に白々しい演技で述べると、「はてこれは、どちらが本物なのかわかりませんねえ。しかしメフィストさんは不感症だったはず。これは触診してみて、無反応だったほうが本物でしょう。そうでしょう」などと平然としめくくり、丸腰つまり素手で、クランジΚが化けたほうに抱きついたのである。
「っ!」Κが拳銃に手を伸ばすもクドは気にしない。
「触診、それは、愛!」クドの二つの手が、二匹の女郎蜘蛛であるかのように、メフィスト(に化けたΚ)の白い肌を撫でまくる。ときには揉み、ときには指を立てて刺激し、弄った。手は滑り込み、敏感な場所を探るように蠢くのである。しかもクドは唇まで使った。吐息、舌、それから……。
「誤解しないで下さいね。これは痴漢ではなく触診ですから! べたべたべたべたもーみもみ、ふぅむ……お嬢さん、バストなかなかありますね」
 なんか判らんが許せん! そもそも誰が不感症ですかっ! と、暴れそうになるメフィストを、ジークがしっかり押さえていた。
「やめ……」あまりの非道(!)にΚはたじろぎ、か細い声で抗議した。「なぜ自分がこんな目に……あンっ
「おや? 何か甘い声が聞こえたような? ビクンビクンしたら偽物確定ですよ! しかし、磨き抜かれた変態式――もとい紳士式スキンシップにどこまで耐えられますかな!? お兄さんの変態もとい紳士スキルは108式までありますよッッッッッッ!!」
 クドが彼女の上着を剥ぎ、ネクタイをむしり取ってシャツのボタンにまで手を伸ばすのを、唾を飲み込み物欲しそうな顔でジークは見ていたが、「丸腰でここまでやる……まさに命懸けの変態、変態の鑑といえような!」ぶんぶんと首を振った。「だがうらやま……いや、いい加減けしからん気がしてきたのでここはジャーマン紳士の出番だ!」と、ようやく理性(??)と取り戻したか、てえい、と駈け込んで、Κが落とした黄金の仮面を彼は拾い上げた。
「これがあれば威厳溢れる超魔王になれるはずッ! 借りるぞ!」バシッ、と仮面を顔につけ、ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン! とジークはポージングして叫んだ。「俺は人間をやめるぞ!クドーーーーッ!」
 無論、何かが起こったりはしなかった。
「……何も変わらんではないか? くっ、不良品か!」怒りにまかせてジークは仮面を足元に叩きつけ、ガシガシと踏みしめて真っ二つに割った。
「放せ!」とうとうクドを背負い投げで放り投げ、Κはジークに拳銃を抜いた。
「まあ待て。Κよ」しかしジークフリートはさすがの沈着っぷりであった。「仮面を粉砕したことは申し訳ない。謝る。少し興奮してしまったが、俺は元々お前を害そうとは思っていないのだよ」
 銃を手にしたままメフィストは……いや、Κは、「続けろ」と言った。
「どのみち任務に失敗したお前は寺院から処分される運命にあるだろう。かといって、このまま教導団に引き渡すのも忍びない……村の復興が名目で他校生は集まったのだから、今回俺たちが団の要求に従う理由はないからな。だがΚよ、単独で逃げてもいつ捕まるかわからぬぞ? お前もむざむざと死にたくはなかろう? 後ろ盾を用意してやる……そう、地獄の紳士たちが保護してやろうというのだ! ちょっとしたトリックでな!」
 Κは引き金を引いた。ひとつ、銃声が轟いた。
 ジークフリートのこめかみを銃弾は掠めていった。しかしジークは動じなかった。
「この落ち着き方、嘘ではないようだな」Κは言った。
「ふっ、この期に及んで嘘をつく必要がどこにある? 俺は純粋だ。そして。俺はお前のことも信じている」ジークはまるで動じていなかった。まさか本当に撃つとは思わなかったから、驚きすぎて動けなかっただけなのか、それとも言葉通りΚを疑っていなかったからか。それは誰にも判らない。
「具体策は私が解説しましょう」メフィストが、自分そっくりに化けたΚに言った。「まートリックといっても簡単です、ジーくん、つまりジークフリートが私と貴方にペトリファイをかけて石像にしちゃうんですよ! 貴方を狙う輩がいるでしょうから、カモフラージュの為ですねっ! ふふ、貴方を奪取しようときた者がいたら私が身代わりになるのですよ! 捕えた人はきっと石像になった私を元に戻そうとするでしょう。ふふふ、石像は二体あったというのにね……」
「面白いアイデアだが」言葉とは裏腹に、Κはまったく楽しそうではなかった。「貴様が仮面を壊したせいで、予備も尽きて自分は元の姿に戻れない。同じ顔をした石像が二つあればどう思われるだろう?」
「あっ、ほら、魔王様、やっぱり大事なものだったんじゃないですかッ! 踏んで割るなんてダメですよッ!」クドがジークを叱ると、ジークはふんぞり返って「人間たまには間違いもする。いわんや魔王をや! ほら、よく言うであろう。弘法にも筆の誤り。猿も木から落ちる。河童の川流れと。……いや、ここでいう『かっぱ』とはお前のことではないぞΚよ」
 ジークとしてはここは笑いどころのつもりだったのだが、Κはくすりともしなかった。「どうでもいい」そして、メフィストの姿格好をしたΚは投げ捨てるように言ったのである。「いずれにせよ、石化するまで身を任せるほど貴様らを信用はできない……どこを触られるか判ったものではないのでな」
「それなら」ジークはさっとペトリファイの魔法を発動した。するとメフィストは、なにか言う暇もなく石になってしまったのだった。「俺のパートナーに化けた不埒なクランジを捕らえたということにしよう。クランジKよ、脱出するまでは我がパートナーの演技をするのだな!」
 さすがのΚも驚いたに違いない。彼女は声を失っていた。いくら作戦だからといって、自分のパートナーをいきなり石にしてしまう契約者があるのだろうか。
 クドも言う。「Κさんが脱出したら、魔王様とお兄さんは口裏を合わせて『村を出るまで気づかなかったー。本物のメフィストさんのほうを石化させちゃってたんですね〜、てへっ♪』と抗弁するのでご心配なくですよッ」
 クドはさっさとトナカイを呼び出し、トナカイが引くソリにメフィストの姿を放り込んでしまった。
「ほら、さっさと行くぞ。紳士として家まで送ってやりたいところだがそうも行くまい。村を出て安全になったら解放してやる」
「せっかくだからラーメン食べて帰りませんか? メフィストフェレスって人はラーメン大好きなんですよ。メフィストさんに化けるならラーメンも押さえておかなければッ!」
 二人は無防備な背中をΚにさらしてどんどん歩き始めたので、Κは二人を追わねばならなかった。
「なぜお前たちは、自分やパートナーの命の危険を冒してまで私を助ける……?」
 すると、待ってましたとばかりにジークフリートは言ったのである。
「さあな、そこんとこだが……俺にもようわからん」