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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)
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 『紫銀の魔鎧』を手にしたとき、桐生 円(きりゅう・まどか)は正直躊躇った。これを装着してよいものかどうか迷ったのである。
 先に装着したジバルラの変貌を見れば、それは自然な事だろう。しかしそれでもは装着した。野心や願望を増幅させる魔鎧を、自分の意志でその身に纏ったのである。
「ねぇ、ボクの声が聞こえるかい?」
 装着した直後、赤紫の光りに包まれる中ではその子に問いかけた。
「ねぇ、君も生きているんだろう?」
 の願望は『大切な人が安心して暮らせる居場所をつくる』こと。この地でそれを成すならば、『パイモンを撃退して功績をあげる』ことが求められるだろう。
「ボクに力を貸してくれないかな?」
 集落のすぐ外にパイモンが居る。戦場を目指し駆けながらもは『紫銀の魔鎧』に呼びかけた。それでもたったの一言も返事は返っては来なかった。
「寝起きは機嫌が悪いのかな? それとも元々話せないとか?」
 反応が無くても焦らない、だって今はもう一つになっているのだから。「力を貸して欲しい」そう願ったの想いに応えてはくれるのか。その答えはパイモンと対峙した時に示されることだろう。
 そして同じく『紫銀の魔鎧』を纏った男がここにも一人、
刀真……やっぱりその魔鎧……脱いで」
 魔鎧を纏った樹月 刀真(きづき・とうま)は、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に腕を掴まれ、揺らされていた。
「脱いで、お願い……刀真……」
「それで敵が死ぬなら幾らでもしてやる」
刀真……」
 彼は言った「侵攻を止めるには……ふっ。ザナドゥの奴等を皆殺しにすればいい、単純な話だ」と。
 その時の刀真からは迷いや罪悪感は微塵も感じられなかった。他人との過度な干渉は避ける傾向にあるが、それでも何の躊躇いもなく人を殺すような、またそう口にするような事は決してしなかった。
 やっぱりあの魔鎧は良くなかった! そう思った時には刀真の腕を月夜はしっかりと掴んでいた。
「そんなのいつもの刀真じゃない! お願いだから『殺す』なんて言わないで……」
 このまま行かせたら、きっと刀真刀真じゃなくなってしまう。
「皆殺しよりも頭を潰すのが先か。まずはパイモンだな」
「ダメ! 刀真! ダメだよ―――ぅっ?!!」
 不意に唇を奪われた。口を塞ぐ事が目的の強引な―――それでも唇への咀嚼は温もりを伝えあうような優しくも柔らかいものだった。
「ぁ…………」
「黙って俺についてこい」
 ささやいて、笑みを一つ見せて、行ってしまった。月夜は一歩たりとも動けずに、ただただその背を瞳で追っていた。
「変よ……絶対変……」
 小さくなってゆく刀真の背中にそう呟いた。やっぱりいつもの刀真じゃない。刀真はあんな事、それも強引に……。
 カァーッっと頬が熱く赤らむ。ふと我に返るまで、もう少しばかり時間が必要なようだ。
 その隙に刀真はと言えば、
「なっ……」
 目の前に広がる光景に絶句した。刀真が目にした光景、それは血にまみれて倒れるドン・マルドゥーク(どん・まるどぅーく)ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)、そしてボロボロの体でどうにか立っている五十嵐 理沙(いがらし・りさ)の姿だった。
「貴方がパイモン……かな?」
「その姿……なるほど、奪われてしまったというわけですか」
 『紫銀の魔鎧』、刀真が纏うそれを見つめてパイモンは言った。
「人聞きの悪いこと言わないでよねぇ〜」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が『怯懦のカーマイン』を王に向けた。
「略奪愛なんてしてないわよぉ〜、刀真さんもうちのも運命的な出会いの果てに結ばれたのよぉ〜」
「えぇっ! 運命なんですか? では様とあたしも運命的な仲ということに―――で、でも様にはパッフェル様がいますし……」
 のパートナー、魔鎧であるアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)に、オリヴィアは「運命の赤い糸は一本だけとは限らないのよぉ〜」なんて適当な事を言ってからかっていた。
 はもちろん、もう一人のパートナー、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)も到着して、これでようやく勢揃い。
「俺たちの目的は同じだ。パイモン、早速で悪いんだが。死んでくれ!!」
 刀真の言葉をキッカケに、一斉に飛びかかった。
 『光学迷彩』と『ベルフラマント』で姿を消すミネルバ。まずパイモンに斬りかかったのは刀真だった。
「ふっ!!」
 マルドゥークの怪力を受け捌いた『邪蛇の双剣』でパイモンはこれを受け止めた。
「ほぉ、これはなかなか」
「余裕か? ふんっ、まだまだこれからっ!!」
 相手は初見、だから戦い方を見極める為にも攻めてこさせたい、そう思ってのラッシュだった、その気にさせれば攻めてくるだろうと。
 しかしパイモンは攻めてこなかった。宙から僅かに浮いた状態で、ただ刀真の剣を受けている。
(同じ事を考えている……? ならば……)
「あたーっく!!」
 パイモンの背後からミネルバが斬りかかる。『殺気看破』でも使っていたのか、パイモンはこれを二本目の双剣で受け止めた。
「ありゃりゃ、気付かれちゃった」
ミネルバ! そのままだよ!!」
「りょうかーい! かい!!」
 不意打ちが通じなくても手は止めない。『れっど懐中電灯ソード(ヴァジュラ)』と『ミネルバちゃん懐中電灯ソード(ヴァジュラ)』を思いきり伸ばして斬りかかってゆく。刀真の『トライアンフ』を入れればこちらは3本。
「3対2だからー、ミネルバちゃんの方が有利ーだよねー!!」
 ミネルバが「くればー」な戦況分析をしていた。アホの子といえど国家神クラスの敵と普通に戦っては勝てない事くらいは容易にわかる。だからこその連携、だからこその波状攻撃、相手を休ませてはならないのだ。
「………………ッ」
 の銃弾がパイモンの脚部に被弾した。
 弾が貫通した様子はない。右足首にめり込んだままなのだろう。何にせよの銃撃が通ったのだから、二人の剣撃がパイモンを捕らえる事だって可能なはずだ。
 パイモンが高速で後方に退いた。そのまま宙に舞い上がる。
「ああーっ!! 空に逃げたー!!」
「慌てなぁいの」
 オリヴィアが唱えた『空飛ぶ魔法↑↑』がミネルバ刀真に飛行能力を与えた。
 再び包囲網を構築するべく、三人は宙へ飛び出した。今回はこれにオリヴィアも加わる。
 このまま一気に畳みかける、そう意気込んで飛び出したのだが―――
「大丈夫ですか」
 よろけて膝をつく五十嵐 理沙(いがらし・りさ)アリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)が添いた。魔鎧である彼女だったが、この戦いはに纏っては戦えない。一人の人間が二つの魔鎧を装着する技術や手法は今はまだ無いのだから。
「とにかくここを離れましょう、あたしの『神速』で―――」
「マズイ!! あのままじゃ……」 
「え?」
 見上げた先、理沙の視線の先ではパイモンが『邪蛇の双剣』を交差させていた。
「あの構えからの『迅雷斬』が強力なの! あれでマルドゥークも……あのハーティオンもやられたの」
 身長20mの巨体を誇る魔鎧ドラゴランダー、その装甲を一撃で粉砕してみせた。奴が双剣を擦りあわせたら要注意、というより一目散に退散することをお勧めする。
「それが魔族を統べる力、ですか?」
 到着したばかりのレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)も同じに空を見上げた。
「もちろん、それも力の一端なのでしょうが」
 パイモンは未だ剣を抜いていない。ミネルバの剣撃を受けるではなく、空中という空間を上手く使って大きく避けてゆくという戦法をとっている。
「状況は……というよりここは分が悪いようですね」
「今のうちに負傷されている方たちを避難させましょう、ここは危険です」
「えぇ、ですが―――」
 アリウムの提案はもっともだ。しかしレリウスは辺りを一様に見回してから次いで提案した。
「避難ではなく『撤退』を考えるべきでしょう」
「撤退?」
「おいおいレリウス、何言ってやがる」
 意外にも反論したのはパートナーのハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)だった。まぁ、彼を知っている者からすれば、この反論は意外でもなんでもないのだが。
「来たばかりだってのに、もう帰るのか? つーか逃げるんだろ? 冗談じゃねぇ」
ハイラル、俺は状況を見て言ってるんだ、逃げ腰になって言ってるわけじゃない」
「状況って……確かに負傷者は出てる、でもここは戦場だぜ、死人が出たっておかしくは無ぇ」
グラキエスとも連絡が取れない。集落内に向かった自軍にも危機が迫っている可能性がある」
「だからってすぐ逃げるのか?! 戦ってからだって遅く無ぇだろ、状況だって変わるかも知れねぇ」
「その状況を見るのは誰だ?」
「あん?」
「刻々と変わる戦況を見て判断するのは―――」
「んなもん、大将であるマルドゥークが…………………………っあ……」
 言葉を止めて、辺りを見回す。そうしてから携帯電話を取り出した。
グラキエスにかける。今なら出られるかも知れねぇからな」
「あぁ。頼む」
 レリウスが「全軍撤退!」と号令をかけようとした正にその時だった。
様っ!!」
 アリウムの声が空に響いた。レリウスたちの上空ではパイモンの双剣が振られた所だった。
「きゃっ!!」
「ぐっ……」
 の悲鳴の他にもう一つ、刀真の鈍声も同時だった。
 守りに徹していたパイモンが攻撃に転じた。身の丈ほどもある双剣から放たれた『迅雷斬』は、の『魔道銃』の銃身を一瞬で砕いて消した。そしてもう一つ、刀真の『トライアンフ』も容易に砕き、まるで木枝の如き様にしてしまっていた。
 狙いはパイモンの狙いと初動に刀真が誰よりも早くに気付き、飛び出した。
 の体前に『トライアンフ』を滑り込ませ、迫り来る雷剣には『光条兵器』で迎え打った。『トライアンフ』の幅広い刀身を盾に、矛の役割は『光条兵器』に担わせた。結果、雷剣の軌道は僅かに逸れ、盾は砕けども、見事に二人の命を守ってみせたのだった。
「こんのー!!」
ミネルバ待って―――いや、」
 オリヴィアは刹那に迷った。ミネルバを止めるべきか否か。今のパイモンに斬り向かうは危険か、それとも「攻撃は最大の防御」の戦法を継続させるか。
 オリヴィアを迷わせる要素がもう一つ。地上でレリウスが「全軍撤退」を宣言し叫んでいたことだ。
 戦況を鑑みれば妥当な判断だろう、しかしつまりこの次の一手は「味方の撤退を援護する一手」でなければならない。
「仕方がないわ」
 選んだ道は「攻撃は最大の防御」。オリヴィアは『天のいかづち』をパイモンに放った。とにかく今は少しでもパイモンを食い止めておくことが重要になる。
 撤退が宣言された地上では、
グラキエスと話したぜ! 撤退しろって事も伝えてある!」
「無事だったか。よし、俺たちも急ごう!」
「おぅよ!! 手ぇ空いてる奴は手伝え!! マルドゥークたちを運ぶぞ!!」