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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)
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『『俺は別にイコンを止めるのに一役買う為に調査したのではない、天才科学者である俺の頭脳がザナドゥのイコンという新たな技術に興味を示したが故に調査に乗り出したわけで、全ては己が欲を満たすため、そしてその技術を後世に残すためにこの俺自らが動いてやったにすぎないのだ』』
 長い言い訳の後にハデスは『精神感応』での通信を続けた。それを咲耶が言葉にして伝えてゆく。
「え、と……イコンが動き出す前、それは立った状態だった。もし上半身の調整をしていたなら……イコンは……!! 寝かされていたはず! だそうですよ皆さん!!」
「あぁそうだな、続けろ」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)が先を促した。確かにこれだけでは何も分からない。
「つまり、調整をしていたのは腰部か脚部、もしくはそれに付随する制御プログラムってところだろう、そう考えるとイコンのフラついた動きも説明がつく」
「前置きはいいから」
「あ、はい。えぇと」
 咲耶は口振りまで忠実に伝えているが、彼女からハデスへの呼びかけはしていない。敢えて口を挟まないようにしているのだが、それ故に緊迫した状況もまたハデスには伝わっていない。能書きや己の推理と検証、その裏付けと根拠などなどが長々と続くものと思われたのだが、
「結論から言おう。図面は発見できなかった……えぇ?!! し、しかし? コックピットの位置は判明した?! 判明したそうですよ皆さん! え? 職人を捕まえて吐かせた? ふえっ? あぁ、コックピットですね、コックピットの位置は………………ぁ……」
「どうした? コックピットはどこにある!!」
「えっと……あの、その……」
 咲耶が急に言葉を濁し始めた。しかし悠長に構えている場合ではない。コウの追及に咲耶は顔を赤らめながらに答えた。
「コックピットは、その……恥部に……」
「は? 恥部?」
 何だってそんな所に……。サタナキアのコックピットはコックに……いや、よりによってそんな所に作られていた。捕らえた職人がそう白状したのだという。
「俺たちが乗り込もう」
 斎賀 昌毅(さいが・まさき)が名乗りをあげる。これに草薙 武尊(くさなぎ・たける)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)も続く。彼らもまたイコンの破壊を狙うのではなく停止を狙った方が現実的だと考える者たちのようだ。
「コックピットが股間だとすれば……」
 昌毅の胸元でカスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)が機体を見上げて言った。魔鎧状態ながら彼の目が鋭く光って見えたのは……もちろん気のせいだろう。
「ハッチも前面だろうな」
「そいつは真面目な見解か?」
「もちろん。おぬしは尻穴から搭乗したいと思うか?」
「なるほど、そりゃそうだ」
 訊いた昌毅も思わず笑った。言い口は不真面目でも彼の特技『イコン整備』に基づいた知識は本物だ。「数枚の装甲を破壊すればコックピットが露わになる」という見解も十分同意できるものだった。
「当ったり前じゃ。ほれ、急がんと集落が壊滅してしまうぞ」
「分ぁってるよ。行くぜ!!」
 サタナキアを止めるべく、コックピット強奪を目指す面々が飛び出していった。まずは「数枚の装甲を破壊する」べく瓜生 コウ(うりゅう・こう)レイヴン・ラプンツェル(れいぶん・らぷんつぇる)が動いた。
「コウ、一度上空へ、右腕に注意して」
「了解」
 『宮殿用飛行翼』で一気に上空へ。イコンを操縦する者たちの目には「一筋の光が空へ昇ってゆき、そして直後に画面が煙幕に覆われる」という画が見えたはずである。メインカメラの位置は不明でも、飛び過ぎながらに『煙幕ファンデーション』を放てば、それこそ幕状になった煙幕がパイロットたちの視界を奪う。
 その隙に―――
 Uターンして急降下。対象の箇所に『機晶爆弾』を設置したら待避。
「失敗する要素など……Nevermore」
 レイヴンからの合図。周囲に巻き込むような人影は無し、『破壊工作』を発揮して爆発させるなら今!
「Go To Fire!!」
 煙幕を吹き飛ばすような大きな爆発。そしてそれを合図にエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が飛び出した。
「退け退け退け退きやがれ!!! 俺様のお通りだぁ!!」
 何やら妙なテンションのエヴァルトがイコン『サタナキア』の脚部を駆け登ってゆく。
「さぁてイクぜ、ギア全開! ご開帳!!!」
 コウが爆破した箇所に『戦闘用ドリル』を突き立てた。そのまま全開、一気に貫く。
「くぉっ……うぅぅぉおおおぅぅぅぅ……」
 さすがに硬い。しかし引くことなど片隅にも無い。
「ぅぅうぉおおおおおおおおおおお!!!」
 螺旋力……いや気合い全開でドリルを押し込み、そして装甲を破り貫いた。
「だぁりゃぁあっ!! どうだあっ!!」
「はーい! 突貫したら、さっさと退いてっ!!」
「ん? うおっ」
 破口部にロートラウトが追撃を入れる。『則天去私』による拳撃と『固定具付き脚部装甲』のスパイク部分での脚撃を連続で叩き込んでゆく。
「たぁああああああっあっあっ!!!」
 ドリルが開けた湾曲部を砕いて砕いて砕いてゆく、そして遂にコックピットハッチをぶち破ってみせた。
「よっしゃー! おら! 退きやがれ!!」
 決してさほど広くない開口部からエヴァルト草薙 武尊(くさなぎ・たける)が突入、
「動くな」
 と武尊は『呪鍛サバイバルナイフ』を首もとに這わし、
「退けと言っただろうが! というか代われ」
 とエヴァルトは蹴り退けて操縦席にドカッと座った。
 席間に立つ悪魔には、
「動くな」
 と斎賀 昌毅(さいが・まさき)が『カメハメハのハンドキヤノン』の銃口を向け構えた所で、コックピットの制圧が完了した。
「動くな、手荒な真似は……したくない」
 一瞬躊躇したのは、ご愛敬。冷徹な一面はあれど決して好戦的というわけではない……今はナイフを突きつけているが……。動きを止めろと命じたことで、イコンのメイン動力と肢体の動きを停止させる事に成功した。
「イヤー、中もフツーだネー」
 拍子抜けだ、と言いたげにゲルヴィーン・シュラック(げるう゛ぃーん・しゅらっく)が言った。そして直後に「拍子抜けネー」と本当に言っていた。
「外もフツーなら中もフツー。だから調整してたネ?」
「それもかもだけど、確か制御プログラムがどうとかって言ってたよね?」
 ロートラウトが身を乗り出して機器を見つめた。桿を握るエヴァルトと共に、生きている機械とモニター、それからイコンの四肢を動かしてみる。
 サブ動力だけとはいえ、少し手足を動かそうとしただけで二人はそれに気付いた。
「全く……こんな状態で良く動かしたものだ。大西洋の海原に『屋根無し木造船で出国する』くらい無茶で無謀だ」
「……んあ? うん、日本にたどり着いて良かったね」
 いつの時代のどの事件のことを言っているのか微妙に分かりづらい例えだったが……そしてロートラウトのツッコミはツッコミの役割を果たしていなかったが……まぁとりあえず。
「とにかく、機体データを吸い出そう。構造が似ているなら『ギルガメッシュ』の修繕にも役立つだろうからな」
 イコン『ギルガメッシュ』の修復はエヴァルトの悲願。そして更なる機能向上は希望になると信じている。その手掛かりになるであろう機体データを、彼は『銃型HC』へと転送して持ち帰るつもりだという。もちろんウイルス等の検閲をした後にデータは全て【カナン諜報室】に提出、情報は皆で共有するという。
「とりあえずここは一件落着かー。………………おや?」
 ホッと一息入れた時だった。ロートラウトが『それ』を見つけた。
 お日様マークと言えば分かりやすいだろうか、園児でも書けるような太陽のマーク、それが描かれたボタンが一つ、足下の壁面に埋め込まれている。
「何だろう。ねぇ、エヴァルト
「ん? いやそういうものには触れないのが一番だ―――って、おい!!」
「へっ? ―――痛っ!!」
 気付いた時には、済んでいた。床に転がっていた悪魔が脚を振り、爪先で、ボタンに添えていたロートラウトの指ごと蹴りつけていた。
「ぁあー!!!」
「お、お前っ!! 何をしたっ!!」
 けたたましく鳴るサイレンの音、そして室内を照らす赤い光。聞くまでもなく『非常警報』そして悪魔が言ったのは「自爆装置が作動した、あと20秒だ」という警告だった。
「20秒?!!」
「急転直下、見事なのだよ」
「いいから早く出やがれ!!」
「どうして自爆ボタンが付いてるのさー!!」
「わしらみたいなのがいるからじゃろうて」
「慌てない慌てない、ひと休み、ひと休み」
「んな事してる場合かっ!!」
 先に開けたコックピットハッチの穴から次々次々に一行が外へ飛び出して―――
「ふっふんふ〜ん、ふんふんふ〜ん」
 愛用のペンを片手に師王 アスカ(しおう・あすか)は『サタナキア』をスケッチしていた。距離にして30mは離れた位置で、やっぱり「止まっている方が美しいこと」を実感しながら顔を上げた時だった。
「ぬぉぁああああああああ!!!!!!」
 ―――イコン『サタナキア』の股間から、ワラワラと人影が溢れてきた。
「ぇええっ!! なに何っ!! 何なの?!!!」
 何かから逃れるように皆一様に慌てふためいていた。まぁ、その高さから飛び降りたところで死にはしないだろうが、「足の一本くらいならくれてやる!」位の気概で飛び降りている、そんな風にアスカには見えた。
「あ……あれ? 爆発、してない?」
 ただただ瞳を丸くしているロートラウト。そして同じく脱出組の面々も。
 一体何が起こったのか。結果からお伝えするとコックピットで爆発など起こってはいない
 補足をすれば、『自爆ボタン』と思われたものは『爆発物を起爆させるためのボタン』ではなく『サタナキア』の起動プログラムを消去するためのもので、サイレンと光はただの演出。爆発物を使ってコックピットや機体を爆破するといった類の装置では無かったわけだ。
 それでも、起動プログラムが消去されてしまっては『サタナキア』を動かすことは出来ない、強奪者はもちろん自分たち悪魔兵にだって動かせなくなってしまう、つまり『自爆ボタン』と言った事はまながち間違っているとも言い切れないのだ。
 エヴァルトが転送した『機体データ』も、あの僅かな時間では「有益な情報」は殆ど転送出来ていないだろう。ドクター・ハデス(どくたー・はです)と連絡を取り、再び職人を問いつめてみても、起動プログラムのバックアップデータは工房が崩壊した時に機材と共に潰れ壊れてしまったらしく、再びプログラムを組み直すにもまずは機材が、そしてそれを組むだけの時間が必要になる。それを待っているだけの時間は契約者たちには無かった。集落外で起きた戦。戦いの余波は彼らにも襲いかかる事になるからである。
 『サタナキア』の暴走を止めたこと、それは何よりの成果である、しかし『サタナキア』を再び起動させる事が出来なければ、集落外で戦う仲間の元へ駆けつけることも味方の退路を確保することも出来ない。
 手詰まり。
 決死の思いで『自爆ボタン』を押した悪魔兵を誉め讃えるべきだろうか。…………いや、それは腹が立つから是非やめておこう。