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リアクション
「ダメです!」
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の『ヴァジュラ』が悪魔兵の頬を殴打した。殺すつもりはない、ただ邪魔をしないで欲しいだけ。『オートガード』と『歴戦の立ち回り』を駆使して、烏合の悪魔兵の前に立ちはだかる。
「円さんたちの所へは行かせませんわ!」
同じ志を持つ桐生 円(きりゅう・まどか)と樹月 刀真(きづき・とうま)がパイモンと会話を成せるように。
「ここは任せて平気そうだな」
辺りを見回して刀真はそう判断した。ここは彼女に任せて、自分たちはパイモンの元へ―――
「私はここに残るわ」
言ったのは漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、刀真のパートナーだった。
「一人にするのは、やはり危険よ。私も残って奴らを食い止める―――」
「何言ってんだ」
「きゃっ」
不意に刀真に抱き寄せられて、
「どんな理由も、俺から離れる理由にはならない」
「えっ……ちょっ……」
思わず押し退けようとしたが、かえって強く抱き寄せられる羽目に……。
「離れるな。俺の傍にいろ」
「なっ、何言ってるのよ」
やっぱりいつもの刀真じゃない。これもどれも全て『紫銀の魔鎧』である十五夜 紫苑(じゅうごや・しおん)のせい。装着者の野望と願望を増幅させるという効果が刀真をオカシクさせてるんだ。
「わ、わかったから、一緒に行くから」
そう約束すると、ようやく解放してもらえた。刀真の事は……その、腕の中も嫌いじゃないし…………でも人前でされるのはやっぱり恥ずかしい……。
「それに、一人じゃないみたいだしな」
「え?」
よく見るとロザリンドの背後で、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が『バニッシュ』を放っていた。彼女の背中を守るようにピタリと張り付いて。
しかしこれが実に効果的だ。ロザリンドの死角から襲いかかる悪魔兵の視角を奪い、動きを止める。例えそれが一瞬だとしても、それで十分。敵の存在に気付く事も、迎撃する事もできる。
「ほら、行くぞ」
「あっ、ちょっと、引っ張らないでよ」
言葉遣いも荒くなってる。紫苑が与える影響の大きさに戸惑いを覚えながらも、月夜は手を引かれたまま西の戦場の隅、南よりの戦地へと駆け行く、そこに魔神 パイモン(まじん・ぱいもん)と龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が対峙していた。
「来ないのですか?」
魔神 パイモン(まじん・ぱいもん)は余裕たっぷりに龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)に告げた。
「今日はずいぶんと慎重ですね。それとも何かを待っているのでしょうか」
どうにも小馬鹿にした物言いだったが、ドラゴランダーはこれに冷静に応える。
「ガァォン!」
「『パイモン、聞くがいい。貴様がすべき事は戦ではない、ザナドゥの魔族を解放することだ』と言っている。おっと、通訳は要らないんだったな」
言葉を話すことが出来ないドラゴランダーに代わり、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が訳して伝えた。もっとも、ドラゴランダーが魔鎧だからであろうか、パイモンにはその言葉が通じているようなのだが。
「魔族の解放? 何を言っているのか。これはそのための戦ではありませんか」
「「いいや違う、貴様は魔族を煽っているに過ぎない。貴様の考えを我らの総意として騙り、駒として使おうとしているだけだ!」」
「我が同胞たちはそんなに愚かでしょうか。いえ、愚かなのは人間に飼われたアナタたちの方です」
「「飼われてなどいない! 我らは自分の意志で人間と共に生きているのだ、気に食わん奴なら潰す、気に入った奴がいれば仲良くやる、それを自分の意志で決めている、だが! 貴様がそれを同胞たちにさせているとは到底思えん!」」
「あなたこそ、我々のなにを知っているというのです」
「「目を覚ませ! 我ら魔族をお前一人が背負う必要など無い、そんな事は望んでいないのだ!!」」
「…………やはり、全ては「いまさら」でしたね。言葉を交わすことなど何の意味もない」
「そんなことないと思うよ」
幼さの残る声が横入りした。
「少なくともボクは、キミの言葉に心動かされたんだけどな」
声の主は桐生 円(きりゅう・まどか)、その身に纏っているのは『紫銀の魔鎧』のエレクトラ・ウォルコット(えれくとら・うぉるこっと)である。
「あれから調べたんだ、5千年前の戦争の事とかキミらの事とか。でも、キミらの事を知れば知るほど今のキミらの行動は自然なんじゃないかって思えてきたんだよね」
ザナドゥの魔族が「人間と争うための存在として」生まれたこと。それは「人類発展のための踏み台にするため」、そして「人間同士の殺しあい避けるため」。過去の戦争の経緯と戦歴は多岐に渡るが、結局は手に負えなくなった人間が魔族をザナドゥに追いやったという事実。
「理不尽、だよね。ボクがザナドゥで暮らしたいかとか考えると……やっぱり辛いかな。いつも暗い所よりは、明るい太陽の下で過ごしたいって思う」
「…………同情など、何の意味もない」
「違うよ、それは違う。ボクが言いたいのは魔族も人間も、考えてることはそう変わらないんじゃないかってことなんだ」
装着しているエレクトラは『紫銀の魔鎧』、今の円は「気に入らない事態をねじ曲げ、変えたい」その為に言葉を連ね、想いをぶつけてゆく―――
「………………同じなものか」
「え?」
「人間と魔族が…………同じ? ふざけるな!!!」
「えっ……きゃあっ!!」
刹那。魔王の剣が円の胴体を薙ぎ裂いた――――――
「いきなり斬りつけるなんて、行儀の悪い子ねぇ〜」
「うぅー、やっぱり重いねー」
艶っぽい声はオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)、ルンルンなのはミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)。パイモンの狂刃をミネルバの大剣が受けて、円を守った。
「せっかく円がいつもより流暢に話してるんだから〜、最後まで聞きなさいよねぇ〜」
「同じなものか!! 同じであるはずがない!!」
「あら……? 聞いてないわね」
反応も反論もない。目は剥かれ、紅く血走っている。
「あなたたち人間が! 殺したいほどに誰かを憎んだことがあるですか?! 憎き相手を殺せるのですか?!!目的のために同族の命を奪えるというのですか?!!! 我々は出来る、そうさせたのは人間!! 人間です!!」
「だからそれは個人によって違うであろう!」
ハーティオンが反論するも、魔王はそれをかき消すように双剣を薙るとミネルバの大剣を力で押し切った。
「我々の歴史は憎しみの歴史! 個人の精神も血肉も全て人間への憎しみから成っているのです!! ただ生きているだけの人間と同じはずがない……同じはずがない!!」
闘気と殺気がはっきりと見えた気がした。『ディテクトエビル』を発動していたオリヴィアにはより鮮明に恐怖を感じ取った、と同時に悪寒を感じた我が身を投げ出すようにパイモンの眼前へと飛び出していった。
「オリヴィア!!」
今のうちに円を安全な所へ。自分が盾になる、だからその隙に。
オリヴィアの覚悟。これにミネルバはもちろん、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)も受け止めて反応した。
円の手を引いて月夜に渡す。彼女の腕の中に円が収まったのを確認してから、ミネルバは視線を戦地へと戻す。
―――その光景に目を疑った。
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