校長室
【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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夜を迎えたクレタ島の迷宮の前では、ミノタウロスを倒したセルシウス達を祝して、盛大な宴が開かれていた。 島民達は最初、「肉等持ちだしてはプリオンの感染が広まるのではないか?」と、恐れたのであるが、既に事切れたミノタウロスの肉には、その影響が無い事がわかった。 彼らは、島の食材やワイン等を出して、盛大に迷宮から帰還した者達をもてなした。 そんな宴の端で、一部の者達が見守るのは、グツグツ煮えるミノタウロスの牛鍋である。 クロセルがタイラントソードで食肉加工したミノタウロスの肉が綺麗に皿に盛りつけられている。 「煮えたで! クロセルさん!」 社が言うと、クロセルが鍋を遠巻きに見つめる仲間達と村民に呼びかける。 「さあ、一緒に牛鍋と洒落込みましょう! 大団円に鍋は付き物ですからねぇ? ……どうしました?」 「いや……やっぱり、何か食うのは色々……ねぇ?」 「お、おう」 鍋の傍では、待ち切れないマナが鍋を摘み食いしようとし。シャーミアンが必死に「マナ殿、待って下さい、毒見がまだです!」と止めている。 「はぅ〜☆。社ぉ、本当に食べるのぉ?」 「当たり前や! 寺美! 据え膳食わぬは男の恥と言うやろ!!」 「はぅ、いいけど、ボクはミノタウロス鍋なんて食べませんからねっ!」 「こないな鍋食わへんとか……人生の30%は損してるでぇ……見てみぃ! この美味そうな……」 鍋を見た社が言葉を止める。 「誰や……鍋にズッキーニ入れたんは……」 みすみと一緒に野菜を切っていた朔がピクリと肩を震わす。 「え? おかしいかな?」 朔は牛鍋の準備を手伝っていた。 「材料が激しく不安ですが、まあ……何とかなると思います」 「朔さん、エスカルゴってどうやって料理するんでしょうか?」 「ああ、殻ごと入れちゃいましょう」 朔がその辺で採取してきたカタツムリを不安気に見つめるみすみ。 「……大丈夫! 私はそこまで料理下手じゃないから!!」 「……スキル【謎料理】持ちの人が言う台詞じゃないわね」 ミノタウロス退治に貢献したエリヌースが鼻血のため詰めていたティッシュを引きぬいてポツリと言う。 余談であるが、エスカルゴとはカタツムリそのものを指す言葉ではない。そして、食用となるカタツムリは、何を食べているのか分からない野生ではなく、人工的に養殖されたモノである。そして、ここはイタリアである。フランスではない! セルシウスも興味を持ったのか、ヒョイと鍋を覗き込む。 「く……こ、これを食うのか……やはり蛮族だな……」 そんなセルシウスに声をかけたのは、マナを抑えていたシャーミアンである。 「セルシウス殿」 「ん?」 「此度の一番の功労者ですよね?」 「え……い、いや私は」 「ここで、エリシュオンの美食に鍛えられたセルシウスさんに毒味、もとい、テイスティングをしていただきたいのです。さ、「あーん」してください。」 「貴公! 今、毒見と……!?」 シャーミアンはセルシウスの発言を無視し、 「慎み深いエリシュオン人の鏡ですね。しかし、遠慮は要りません!」 「……」 「それとも……勇猛果敢で知られる従龍騎士とは所詮はこの程度ですか。ガッカリですね」 「ぬぅ! 私が恐れているだと!? ふん! 鍋の一つ、ミノタウロスの肉一枚等!!」 「……という訳でセルシウスさん、あーん!」 「むぅおッ!?」 セルシウスの口に箸で無理矢理肉を突っ込んだのは、「……鍋! これは弄るチャンス!!」と、虎視眈々と機会を伺っていた花琳であった。 ―――モグモグモグ…… 「どうや? セっさん? 腹を壊したらナーシングで治療したるからな」 社がセルシウスの顔を見つめる。 「……ふむ。肉は至って普通だが……」 「ホンマか!? よぅし、クロセルさん、俺らも食うでぇぇ!!」 「社さん、食べ過ぎてお腹を壊さないで下さいね」 社とクロセルも箸を伸ばし、シャーミアンはマナに鍋をよそってやる。 セルシウスの感想を聞いて、「……なんか、激しく不安な鍋だけど」と様子見に徹していたエリヌースも箸を伸ばす。 「えーい、種もみ戦士は度胸! それがあたしの生き様だ〜!」 ―――モグモグモ…… 「意外と……美味し‥…あら、でもこれ、お肉というか……カタツム……」 様子を見に来たみすみが顔が固まったエリヌースを診て驚く。 「はぁ……何で私が料理番を……」 朔が今度は『つみれ』を作ろうとしていると、みすみが飛んでくる。 「朔さん! え、エリヌースさんが、苗床に!!」 「……私のせい? アテフェフに診て貰おうか」 「そ、それが私がお願いしたら、『クスクス………鍋で食中毒? まあ、治療してあげてもいいわ。朔が今夜一緒に寝てくれるなら』と……」 「……放っておこう」 「えぇ!? 朔さん!」 「エリヌースはクレタ島の風になって生きて行けるさ」 「そ、そんな綺麗にまとめないで下さい!!」 「わかったわかったよ、みすみ……てか、何か歌が聞こえない?」 朔が軽快なリズムが聞こえる方へ目をやると、宴に集まった村民たちの前で未散と衿栖が歌っている。 「音痴脱出記念にリリカルソング♪で魅せるぜ!」 「みなさーん! 楽しんで行って下さいね?」 未散と衿栖が呼びかけると、サトミ、朱里、他にも迷宮でミノタウロスと戦った者達全員で歌って踊りだす。 これが二人の映画のエンディングに採用されるという事が、統とレオンから後ほど伝えられ、ある者は赤面し、またある者は喜ぶという表情を見せたが、ここでは割愛する。何はともあれ、次第に豪華になる宴と牛鍋に舌鼓を打つメンバー達は充実した時間を過ごした事だけは間違いない。 そんな中、撮影中の事故による名誉の負傷をし包帯を巻いて貰ったカイだけは、夜空を駆ける流れ星を見つめて、『待遇改善待遇改善待遇改善……』と三度願いを言うのに必死になっていた。