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リアクション
●●● 冥府魔道
「あれが夏侯 淵(かこう・えん)、その隣にいるのが契約者のルカルカ・ルー(るかるか・るー)と、そのパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)です。
ルカルカはなんでも教導団最終兵器と呼ぶものもあるとかで」
アウナスが珠代にざっと説明した。
「へえ。
それじゃ関羽はどうなるのかな。『最終鬼畜兵器』とか?」
「『最強武将』かと」
珠代の危険なボケを軽く流すアウナス。
大石は「三人がかりで打って出るべきだ」と唱えたが、近藤は「己の腕を試しにきた、此度ばかりは小細工はなしだ」と断ったので、大石も無理は通さなかった。
マイトもおとなしく観戦を決め込んでいる。
さて夏侯淵の側だが、こちらは実質三人がかりの構えである。
元を正せば将軍として軍を率いていたのであり、応援が二人というのはむしろ少なすぎるくらいであった。
姿を現した夏侯淵だが、世のイメージとは大きくことなり、まだ10かそこいらの少年少女のように見えた。
英霊にはしばしば見られることである。
「ふぁぃとっ、淵!」
ルカルカが声援を送る。
試合の様子を記録しようと、手にはビデオカメラを握っている。
夏侯淵の総身に力が湧いた。ルカルカの「クライ・ハヴォック」であった。
近藤は愛用の虎徹を抜く。
夏侯淵はジェットドラゴンにまたがり、愛用の「呪縛の弓」を構える。
史実の夏侯淵は知略に欠けるきらいがあり、主君である曹操に注意を受けてもいた。
しかし今の夏侯淵にそのような隙は微塵もない。
智謀に長けたダリルが、夏侯淵の弱点を補ってくれる。
夏侯淵は過去のことを考えていた。
俺たち英霊は皆、一度は死んだ身だ。
すでに国の滅びた英霊とて少なくない。
そうした過去に囚われることなく、俺はさらに先をゆくのだ。
そう思うからこそ、夏侯淵はかつての敵将とも共に戦えるのであった。
夏侯淵は間合いをとったまま、弓を射掛ける。
「とどめの一撃」だ。
夏侯淵は的に4本の矢が刺さった状態で、その4本の矢の中心に矢を命中させることもできたという。
その正確無比な矢を、近藤勇はさっとかわしてみせた。
いかな秘術を用いたかといえば、「スウェー」であった。
剣士が身につける初歩的な技術であるが、超人的な感覚と身体能力を持って行われるこの技術によって、必中の矢ですら避けてみせたのである。
近藤は虎徹を手にして夏侯淵との間合いを詰める。
夏侯淵はジェットドラゴンを駆り、距離を保ちながら次の矢を構える。
夏侯淵が距離を保ちながら射撃を繰り返せば勝つ、そう思ったものは少なくない。
しかし武訓に長けた英霊のなかには、夏侯淵の隙を見て取るものもいた。
元来、騎射というのは困難なものだ。
夏侯淵の並外れた技量ゆえに目立たないが、それでも射撃の際にはわずかにドラゴンの動きが遅くなり、また狙いも不確かになっていたのである。
次の矢を、近藤は虎徹の刃で受けた。
「ブレイドガード」である。
これにはさしもの夏侯淵も堪えた。
自慢の弓が二度までも防がれたのだ。
「おまえの命運もここまでだ!
『弓神』と呼ばれた俺の矢、もはや避けることはできないぜ!」
夏侯淵はドラゴンを止め、みたび弓を引き絞って矢を放った。
近藤は臆することなく走る。
まさしく必殺の矢が近藤勇の胸に的中した。
「呪縛の弓」が命中すれば、わずかだが相手の動きを封じることができる!
この機を逃さず、夏侯淵は矢を放ち続ける。
二発、三発、四発、五発、六発、七発、八発、九発、十発!
都合10本の弓が、ことごとく近藤の胸に突き刺さった。
近藤勇は膝をつく。
勝負は決した。
誰もがそう思ったが、それから数秒後。
むくりと起き上がった近藤は、そこからさらに駆ける!
虎徹が振り抜かれ、夏侯淵はジェットドラゴンもろともに切り伏せられた。
「……なぜ俺の矢を受けて……?」
意識が薄れるなか、夏侯淵は問うた。
近藤は懐に手をやると、一冊の書物を取り出した。
彼の愛読書、『三国志演義』であった。
本には十の穴が穿たれていて、本のなかほどまで届いている。
近藤が本を開いて検分すると、矢はすべてあるページで止まっていた。
そのページには、老将、黄忠の挿絵が描かれていたのである。
ルカルカは夏侯淵に駆け寄り、医務室へと連れていった。
マイトもまた近藤に近寄り、大丈夫かと声をかける。
近藤はこう答えた。
「しくじった、次は剣客と勝負がしたい」
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