|
|
リアクション
■ 過去の鍵 ■
神楽坂家は平安から続く名家だ。
表の仕事として要人警護を、裏の仕事として術の解除と占い師をしているが、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は表の仕事の当主だ。
「久しぶりに帰省しましたね……」
紫翠は一旦足を止め、しばらくぶりの屋敷を眺めた。
「しかし、大きな屋敷だな」
シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)の漏らした言葉に、紫翠はそうですかと首を傾げる。パラミタに行く前まではここでずっと暮らしていた紫翠だから、自分の家が大きいかどうかなど気にしたこともない。
「ただ古いだけだと思うのですが……」
「いや、かなり大きいだろう」
そんな会話をしながら門を入れば、玄関までの道筋にずらりと出迎えの人々が並んでいた。
「毎回来るたび思うが、出迎えの人、気配が凄いよな。それに……増えて無いか?」
「ええ、増えてますね……いつも姿見せない方までいます」
事も無げに答えると、紫翠は慣れた様子で玄関へと足を運んだ。
玄関の正面では、出迎えの人を左右に従えるかのように、不知火 香織が待っている。
「のんびりしたい所ですが……そうも行かない気がしますね」
紫翠はこっそりと呟いた。
「お帰りなさいませ」
紫翠を出迎えた香織は挨拶もそこそこに、すぐ切り出した。
「早速ですが、依頼が数件来ております。どういたしますか?」
「ええ、帰りました……そうではないかと思っていましたが、休む暇は無いんですね……」
「何か問題でも?」
「いえ、良いのですが……シェイド、先に部屋行ってもらえますか?」
紫翠は傍らにいるシェイドに聞いた。
「忙しそうだな。あ〜、じゃ、お前の部屋にいる」
「ではご案内を」
香織が合図すると、控えていた使用人がシェイドを紫翠の私室へと先導していった。
紫翠は覚悟を決めて執務室に入った。とにかく仕事を終えてしまわないことには、解放してもらえそうに無い。
部屋に入れば、紫翠の顔はたちまち仕事時のものに変わる。
「現状はどうなっている?」
「こちらです」
香織に渡された書類に目を通し、紫翠はふっと息をついた。
依頼は常連からのものがほとんどだ。
世界各国に派遣している一族の情報を確認すると、人員の配置や決めねばならない懸案事項の処理等を紫翠はてきぱきとさばいていった。
ようやく仕事を片づけて紫翠が私室に戻ったのは、もうかなり遅い時間だった。
「やっと終わったのか?」
「ええ……やっと」
「お前、また無理しただろう」
「いえ、無理はしてませんけど……かなり厄介なものもあって……」
紫翠は疲れたようなため息を吐いた。
「時々は休めよ。倒れるぞ」
まずは少し横になった方が良いと、シェイドが布団を出そうとすると、押入に入っていたアルバムが落ちてきた。
そのはずみで挟んであった写真が飛び出す。
紫翠はその写真を拾い上げた。
「あれ……これは……」
写真を見た紫翠の身体はがたがたと震えだし……意識を失って倒れた。
その身体をシェイドは素速く支える。
「おい、どうした?」
「失礼しま……紫翠様、どうされたのですか?」
そこにちょうどお茶を運んできた香織が、蒼白な顔で目を閉じている紫翠の様子に慌てた様子で入ってきた。
「すまないが布団を敷いてくれ」
「あ、はい」
香織が敷いた布団にシェイドは紫翠を寝かせると、先ほど紫翠が見ていた写真を拾い上げた。
写真は2枚。
1枚目には着物を着たの金髪の子供が部屋にぽつんと座っているのが写っていた。部屋にある格子はまさか……座敷牢?
2枚目の写真は端があちこち焦げていた。金と銀の髪の子供が並んでいて、その後ろに銀髪の着物姿の青年がいて、子供たちの頭を撫でている。
「この写真は何だ?」
シェイドが写真を見せると、香織は目を伏せた。
「詳細は存じません……兄様なら知っているかもしれませんが……知らない方が幸せという事もありますわ」
何か知っていそうな……けれど答えたくない様子で香織はそう言うと、写真をアルバムに戻す。
そしてシェイドと香織の2人はそれ以上は無言のまま、酷く憔悴した様子の紫翠が目覚めるのを枕元で待つのだった――。