天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

リアクション公開中!

【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

リアクション


第五章 凍った湖面に要注意

 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)を乗せた宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が頂上近くへとやってくる。スクリーンに映るのが最初の交代ポイントだ。
 坂道を登りきった選手たちが、次々にその交代ポイントへとやってくる。引き手や乗員の交代をするソリもあれば、そのまま通過して湖へと突き進むソリもあった。
 司会のヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は、相変わらずテンションが高い。
「ボンバー! みんな力強い走りをみせてくれた。しかしまだ3分の1だ。妨害行為もなかったようだが、油断しちゃいけないぜ」

「頑張ってねー」
 ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)の声援が聞こえたかどうか。リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は交代ポイントで止まることなく走り抜けた。
 乗員は1人でチルー4頭に引かせているので、スピードは十分。凍った湖面を飛ぶように走っていく。
「チルーの調子は良いようですし、このまま行けば優勝も夢ではありませんわ。まずはわたくしの運だめしですわね」
 湖面の状況を確かめることなく、勢いのままに突っ走る考えだ。
 気がかりは他からの妨害行為だが、引き続き女王の加護で警戒に当たる。
「氷の薄いところも避けられれば良いのですけど……」
 さすがに望み過ぎかもと苦笑した。
 湖面に入ると、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)はシボライオンを滑らせる。
「華麗…………かな?」
 見かけは思ったほどではなかったが、スピードは出る。
「十分ね。無駄なダイエットもしなくて良かったですわ」
 ふと、スタート前に聞いた30キロが脳裏に浮かぶ。自分は何キロだったか……。先日、風呂上りに乗った体重計で液晶数字が60と出たのをまざまざと思い出した。
 湖に突入しても、わたげうさぎは快調だった。そして酒杜 陽一(さかもり・よういち)も、相変わらず腹を空かせていた。
「あー、美味そうだー」
 駆けているわたうさ達を見てよだれを垂らす。そんな陽一の顔がスクリーンに大写しになると、観客から笑い声が起こる。
「やっぱり無理させるべきじゃなかったかなぁ」
 酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は、同じように思い、同じようにため息をついた。
 フラワシにソリを引かせた中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は、楽々と湖を走破していく。
「でもここまで何もないと、逆に退屈ね」
 綾瀬の着ている漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が軽口を叩く。
「贅沢なことを、妨害行為がなければ、その分レーススピードが厳しい物になりますわ」
 やや距離が離れているが、綾瀬と変わらないスピードで走り続けるソリが何台か見える。この距離では体当たりなど考えられないが、油断はできない。
「ところで綾瀬、ろくりんピックに参加賞って、なかったかしら」
「…………まさか駄菓子の詰め合わせとか言う気なのではないでしょうね」
 ドレスは口を閉ざした。
 2頭の賢狼、“はやて”と“いかづち”は凍った湖面でも、足を十分に発揮した。
「やっぱり私が軽いからよね」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)の言葉に荀 灌(じゅん・かん)はカチンと来る。
「私だって」と言いかけて、いつだったかの身体測定で10キロ以上の差があったのを思い出す。
『背は私の方が5センチくらい高かったはず。でも5センチで10キロは……』
 複雑な表情で、自分達を引っ張っている“はやて”と“いかづち”を見た。
「うーむ、クロセル殿の犠牲は無駄にはしないでござるよ。しかしこれもポッと出の新参者を頼ったためでござれば……」
 単に遅れただけのクロセルに向かって、神妙に手を合わせると、童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)はシルバーウルフと賢狼を操った。
 まさに滑るように凍った湖の上を滑走する。先頭を確保したと人参の鼻を高くしたところで、ハーフフェアリーの乗ったソリに追い抜かれた。
「いかん! 油断大敵でござった!」
 あわてて手綱を振るうが、100キロの体重が災いして、氷の薄い箇所でソリが引っかかる。
「拙者、水は大敵でござる。やむを得ぬ」
 ブリザードで気温を下げて、氷を厚くする。引っかかったソリも凍ってしまったため脱出にでまどったが、なんとか湖水にはまることは避けられた。
「しょうがないでござる。ここは少々遠回りになっても……」
 氷の厚そうな場所を選んで進むことになった。
 冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)を乗せたソリは軽々と進む。
 登りで働いてくれたウェンディゴと不滅兵団は、先ほどの交代ポイントで外れていた。
「重いと危ないですからねぇ」
 ソリを引くのは、サンダーバードとフェニックス。これなら氷を踏み割る心配はない。
「あっ!」
 サンダーバードとフェニックスが羽に力を入れすぎたことで、日奈々が乗ったソリごと浮いてしまった。
 たちまち競技を監視している運営委員からチェックが入った。
「日奈々選手! 一旦止まってください!」
 観客席にもリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の声が流れる。
「百合園女学院の冬蔦日奈々選手、飛行行為により後退が指示された模様です」
 観客席がざわめいた。スクリーンには運営委員の指示に従って、氷の上を戻る日奈々の姿が映し出される。その横を何台ものソリが通り抜けていった。
「ふえーん、わざとじゃないですのにぃ〜」
 しかし違反であることには間違いないので、大人しく指示された場所から走り始める。今度は浮かないように慎重に手綱を握った。
「ティセラ! お願い!」
 乗員をティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)に、引き手をティセラの選んだパラミタペンギンに切り替える。
「はい」
 多少手間取ったものの、まずまずの順位で交代できた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)は、満足してティセラを見送った。
「一緒に乗るのは、ここからでも良かったのではないですか?」
「楽しむだけなら、それでも良いけどねー。順位や勝敗があるから」
 祥子はそう言いつつも『惜しかったかも』との表情をみせた。
 ティセラはパラミタペンギンと共に快調にソリを滑らせる。いくらか氷の薄い湖面もあったが、重量の軽さによってトラブルは避けられた。
「祥子の選択は間違ってなかったようですね。でも競技でなければ2人で乗りたかったな」
 一緒にソリに乗っているところを思い浮かべる。ちょっとボーッとしたことで、危うく転倒しそうになったが、寸前で立て直した。
「ふー、危なかった。気を引き締めて行かないと、祥子に申し訳ないですね」
 身軽さもあってか、ティセラはじわじわ順位を上げていった。
「騎沙良、頼むぜ!」
 清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)から騎沙良 詩穂(きさら・しほ)に乗り変わる。引き手もカピパラとパラミタペンギンに交代する。
「任せてよ!」
 交代に多少手間どったものの、騎沙良詩穂は上位を維持して湖に滑り込んだ。
「入賞できれば良いかなって思ってたけど、優勝できちゃうかも」
 心を弾ませながら、ソリを滑らして行った。

 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)の操縦する箒で、トップ選手を追っている。
 いずれもスピードに自信があるのか、氷の上を飛ぶように駆けて行く。
「ねぇ、もうちょっと近づけない?」
「無茶言うなよ」
 蕪之進はギリギリまでソリに近づいていく。
「最高のドキュメンタリーになりそうね」
「ただ働きだけどな」の声を蕪之進は飲み込んだ。

 最初の交代ポイントで待機していたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)命のうねりで賢狼を回復させる。
「ソリは……無事のようですね」
「うん、妨害行為は全然なかったよ」
 賢狼の様子を確認すると、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は「行くねー!」と凍った湖へと走り出す。美羽は賢狼達の俊敏さ機敏さに身を任せて、湖面の最短距離を突き進んだ。
「なかなか良い調子。もしかしたらもしかしちゃうかも」
 美羽は手綱を絞ることなく、狼達に走行を任せる。いくらか闊達なところはあったが、自然に危機も避けてスムーズに湖面を走破していった。
 交代ポイントで馬 超(ば・ちょう)から乗り換えたラブ・リトル(らぶ・りとる)は猛スピードで突っ走る。
 ハーフフェアリーの軽さと激励で、わたげうさぎやジャンガリアンゆるスターは、負担を感じることなく走り続けた。
「ガンバレー!」
 肩まで雪に埋もれたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が応援する。周囲では運営委員やボランティア有志が「暴れないで」と掘り起こそうとしているが、レースに夢中になっているコアは、意に関せず応援を続けていた。
 あっと言う間にトップに立ったラブは、落ち着いて周囲を観察する。
「先頭って気分良いのね。でも油断はできないわ」
 すぐ後から猛追してくるソリがいくつも見えた。
「妨害行為もなかったし、これならトップで鈿女に渡せそう」
 少しは無駄遣いを見逃してくれるかなと考えたが、『あの鈿女に限ってそんなことないか』と頭を振った。
「クシュッ」
 交代ポイントで待つ高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)がクシャミをする。
「風邪かしら……」
 自慢?のオデコに手を当てたが、特に熱はなさそうと不思議がる。来るべき交代に備えて、シルバーウルフや賢狼の世話を続けた。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)夏侯 淵(かこう・えん)風術を後方に発動する。加速したソリは湖面を勢い良く滑っていく。
「これってさー、ジェットエンジンのようで格好いいけど……」
 ルカルカが言いかけると、夏侯淵が「何だ?」と聞いた。
「おならみたいね」
 夏侯淵は呆れたが、前からかすかに噴き出した音が聞こえる。
 ルカルカと夏侯淵が覗き込むと、羅 英照(ろー・いんざお)が真っ赤な顔をして堪えていた。
「ようやく笑ってくれたんだ」
「笑わせたんだろう。……下品な」
「おならみたいって言っただけじゃない」
「……どうだか」と羅英照がかすかに微笑んだ。
「そうかもな」と夏侯淵もうなずく。
「もう、失礼ね!」
 ルカルカが如意棒で2人の頭を小突く。
 ルカルカのおなら発言効果か、その後はいくらか話が弾んだ。しかしプライベートについて羅英照の口が固いのは変わらなかった。