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【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

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【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

リアクション

 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、引き手の救世主を一部交代させた後、湖へと突っ込む。もはやスノーマンは見えなくなっていた。
「薄情ですね。しかし雪だるま王国の威光が輝けば、それで良いのです」
 しかし少し進んだところで、救世主達が止まって、なにやら話し込んでいる。
「どうしたのですか?」
 クロセルがソリを降りて、救世主達の言い分に耳を傾けた。
「何ですと! 雪以上に氷の上は足が冷たい? だからボーナスが欲しい?」
 しかしそんな状況も予定のうちだったクロセルは、救世主達にボーナスを出した。しかしこれが失敗の始まりだった。
 ごねると何がしかが得られると気付いた救世主 ── もはや、そんな風には呼べないが ── は数十メートル進んだところで、再度ボーナスを要求した。
「しかし先ほど……」
 クロセルが言いよどむと、救世主たちはソリを見捨てて走り去ろうとする。
「わかりました」
 湖を渡りきる頃には、クロセルの財布は空っぽになっていた。
「北都、ちょっとペースを落とすぜ」
 操縦していた白銀 昶(しろがね・あきら)清泉 北都(いずみ・ほくと)に声をかける。
「うん、いいよぉ。でもどうかしたのぉ」
「パラミタセントバーナード2頭じゃ、オーバーペースみたいだ。ここは体力を温存させて、下りに備えておく」
「りょうかーい」
 湖面も氷を選んで安全を考慮しつつ進む。他から妨害行為の無かったのは、2人やペットにとって幸いだった。
「競争はともかくー、大人しいレースになったねぇ」
 禁猟区で警戒している北都は、辺りを見回す。
「ろくりんピックだけに、勝負にシビアになってるのかもな」
 少し遠くを追い越すソリがあった。あちらでも警戒しているのか、追い越しても同乗員が、北都達の様子を伺っている。
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)達は、交代ポイントで引き手をパラミタセントバーナードに代えた。
「バイバーイ」
 メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)は剣竜の子供やシボライオンに手を振ってお別れすると、パラミタセントバーナードに「がんばってねー」とエールを送る。
「シャロン、聞こえますか?」
「こちらシャロン、聞こえます」
「いよいよ湖ですので、よろしくお願いします」
「了解です」
 シャロン・ヘルムズ(しゃろん・へるむず)は籠手方HCを操作して、湖面のデータを取り出した。
「安全なルートで良いのですよね」
「ええ、氷も他の参加者も」
 現在の状況も含めて、一番安全と思われるルートをロザリンドに伝える。受けたロザリンドはメリッサに伝える。
「わかったー!」
 パラミタセントバーナードを操って、右方向へとソリを進めた。
「それと上から見ていましたが、妨害行為は見当たりませんでした」
「そう……様子を見ているのか、それとも最初からしないつもりなのか……」
「全員が全員しないと決めているのなら、楽なのでしょうけどね」
 いくらか楽観的なシャロンに対して、ロザリンドは気を緩めない。
「そうね……でも、まだ分かりません。引き続き、ナビをお願いします」
「了解です」
 シャロンはロザリンド達の乗ったソリに先行して舞い上がった。
 湖に入り、引き手を犬と小さなクモワカサギに切り替えたクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)達は、ある程度スピードアップさせる。
 しかし安全第一のコース取りを行っているために、大きな順位の変動はなかった。
「雪玉はともかく、ここまで妨害行為なし……か」
 防衛計画で東チームの攻勢予測を立てていたが、被害を抑えるどころか、かする気配すら感じられなかった。
「このまま、ゴールまで? そんなわけはないと思うが、逆に悩むぜ」
 クレーメックは下りでの体当たりを想定していた。されるのもするものである。しかしここまで他のチームが動かないのを見ると、いささか決意が鈍る。
「東チームが十分に備えているとすれば、妨害行為はかえって時間のロスになるだろうな」
 迷いを抱いたまま、初めての氷上でソリを滑らし続ける。
『慎重すぎたかも?』
 自分でもそう思えるくらいにクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、スピードを押さえてソリを進める。交代ポイントで取り替えたシルバーウルフと賢狼は、どちらも意気盛んだったが、あえて安全を重視した。
 薄い氷を避けようとしたクレア達のソリの横を、アキュート・クリッパーやラブ・リトルのソリが駆け抜けていく。
「ボス……」
 エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)はいくらか不満な顔をみせるものの、クレアは冷静さを失わなかった。
「ここは勝負するときではない。それよりも回復を忘れるな」
「分かった」
 エイミーは歴戦の回復術で、ペット達の疲労に配慮した。
 湖面を走るシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)グリム童話 『白雪姫』(ぐりむどうわ・しらゆきひめ)を頭の上に乗せる。
 シャーロットの行動予測セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)殺気看破をフル活用して、湖面の危険を察知した。
「あそこ!」
 シャーロットが指差すと、グリム童話『白雪姫』が氷術で湖面を補強する。そのおかげでほぼ最短距離を進むことができた。
 湖の上をアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)達は快調に滑っていく。ただしコース取りは慎重だ。
 氷の薄そうなところは避けて、確実に厚いところを選択していく。もちろんイナンナの加護も忘れない。
「なにぶん、わしの体重が重いからのう。いやぁ、貴様には苦労させて、すまんと思うとる」
 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が皮肉を言いつつ、アキラのわき腹を箒の柄でグリグリとえぐる。
「いい加減、忘れろよ」
「いーや、5000年生きてきて、これ程の屈辱は初めてじゃ。孫子の代まで言い伝えねばの」
「気にするなって、ルーシェはそれで可愛いんだから」
 ルシェイメアがアキラの顔を見る。アキラの肩に乗っていたアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)も、アキラの顔を覗きこむ。2人はいつもの眠そうな顔ではなく、どこか恥ずかしそうにした顔をみつけた。
「もう一度言ってみてくれんか? よう聞こえんかった」
「聞こえてるんじゃねえか。何度も言えるかよ!」
「同じソリに乗るパートナーとして、指示が聞こえんでは、万一の事故につながるかもしれん。ホレ、もう一度」
「うるさい!」
 アキラはソリを加速させる。ルシェイメアは振り落とされまいと、アキラの腰に手を回した。
「くっつくなって!」
「嬉しいんじゃろ!」
 ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)はケンタウロスをDSペンギンに交代させる。
 ソリに傷もなく、そこそこの順位につけたが、付いてくるはずのジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が心配だった。
 ジャジラッドは待ち構えていたゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)に親衛隊員からDSペンギンにつなぎ代えさせる。
 それでもソリが湖面に乗り込むと、氷から危なそうにきしむ音が聞こえた。
「ここまでヤワだとはな」
 ジャジラッドは歯噛みしたが、ここまで来て後には引けない。ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)に先行させつつ、なるべく氷の厚い湖面を選んだ。ジャジラッドとジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)を乗せたソリの重量は200キロを超える。乗員2人ではトップの重さだ。
 ブルタとジャジラッドの横を次々にソリが追い越していく。しかし勝負はこれからとボゴルは腰を落ち着けていた。
「行けい!」
 ボゴルの合図でブルタがDSペンギンを操る。ジャジラッドのソリもそれに続いた。
 白波 理沙(しらなみ・りさ)達のソリもようやく湖にたどり着く。
「ちょっと離されちゃったわね」
 気落ちしかける理沙を、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が「まだまだこれから」と励ます。
 ランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)ピノ・クリス(ぴの・くりす)も、それを聞いて元気を取り戻した。

 スクリーンが解説のイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)に変わる。
「なんと言っても、ここはコース選択が肝心だろう」
「そうですネ。氷が割れて落っこちたら、タダじゃすみませんからネ」
「救護班がいるので、大事にはならないと思うが、それでも途中棄権はあり得るな」
「小鳥遊選手、宇都宮選手、ジャジラッド選手は夏季ろくりんピックで水球にも出てるシ、泳ぎは得意なんじゃないかナ」
 イーオンは大きく首を振った。
「夏のプールと冬の湖を一緒にするべきじゃない。しかも着衣泳法を知らなければ、泳ぐのは難しいぞ」
「無茶はしない方が良いってことだネ」

 交代ポイントに先回りした火村加夜が柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)にインタビューする。
「曹丕さんや大助さんはいかがですか?」
「うーん、まぁまぁかな。一皮向けたみたいだけど、もうちょっと頑張ってくれると嬉しいね」
「最終セクションの計画はありますか?」
「順位にもよるけど、ここまで来たら、もう全力で行くだけかな。それにアレも……」
「……あれ……ですか?」
「ああ、いや、こっちの話」
「じゃあ、最後に一言お願いします」
「西チームの皆、気合いを入れていくよ!」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)にマイクを向けている。
「ここまでの順位についてどうぞ」
「わたくしの予想では、もう少し上だったはず。ですがまだこれからですわ」
「するとまだ入賞を狙えると?」
「はい、入賞どころか優勝だって……」
「えー、それは無理じゃないの?」
 いきなりセレンフィリティが邪魔をする。
「フ、失礼な。参加しているものにしか分からない感覚があるのですわ。余計なことをいわずに見ていらっしゃい!」
 何か言い返そうとするセレンフィリティをセレアナが遮る。
「そうかもしれませんね。じゃあ、最後に一言」
「東チームの方々。優勝はわたくし達が頂きます。2位以下をお願いしますわ」