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第3章 アルカンシェル格納庫探索

「お宝争奪戦にしちまった方が楽しそうなんだけどな〜♪」
 若葉分校に到着したゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)は、分校生に声をかけて、急いで大荒野へと出発する。
 携帯電話が使えれば、電話で呼び出す事も可能だったが、若葉分校には電話やネットなどの通信手段は今のところないのだ。
「お宝争奪戦って……」
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は軽く眉をひそめる。
 ゼスタらしいセリフだとは思うけど、彼の明るさも含めてなんだか違和感を感じる。
 ゼスタは分校に、打ち上げの準備をさせる為にと、黒崎 天音(くろさき・あまね)を連れてきていた。
 だけれど、一緒に相談をしていたはずの、他の友人の姿はない。
(気にしていてもしょうがないよな。言いたいことも色々あるけど……)
 上手く、言葉には出来そうもなかった。
 尋人はまだ本調子ではない。
 多分、ゼスタもそうなんだろうけれど。互いに、そのことも今は触れなかった。
「人員を集める時間はなさそうだが、個人として協力しておこう」
 分校生の他に、恐竜騎士団に所属するジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)ゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)ザルク・エルダストリア(ざるく・えるだすとりあ)の4人も協力姿勢で、ついてきていた。
 ジャジラッドは話を聞き、恐竜騎士団と若葉分校間での取引を成立させるチャンスとも考えたが、副団長の地位は持っているとはいえ、団からは何も指示が出ていない。個人ではなく、団としての取引を持ちかけては越権行為になってしまうことと、ゼスタとの会話で誤解があることに気付いたため、今回は個人の協力に留めて、個人として恩を売っておくことにする。
 農業と喫茶店を営む農家に神楽崎優子個人と友人達がお願いをして、パラ実の分校とさせてもらっている。それが若葉分校だ。
 パラ実の分校といっても、パラ実運営者が建てた分校ではなく、一般的なパラ実の分校……つまり、若者のたまり場だ。
 授業の一環として、喫茶店や農業を手伝わせてもらったり、手伝うことで分校を維持させてもらっており、農家を支配下にしているわけではない。
 ちなみに、現在の生徒会長は農家の四女だ。
 ゼスタ・レイランはパラ実の講師であり、一応正式な講師だが給料は出ていないし、パラ実の教諭ではなく。
 若葉分校でも、教師として保健体育を中心に教えてはいるが、ほぼ同レベルで騒ぎ、遊びに来ているようなものだった。
 ただ、タシガンの貴族として財力があるため、分校運営上の足りない資金は彼が補っていると言ってもいい。
 優子も現在は彼に若葉分校の管理を一任している為、分校の運営について一番権力を握っているともいえるが……あくまで、若葉分校は、若者達のたまり場、であって。
 少なくても、百合園女学院の分校ということは全くない。
(とはいえ、百合園生が多く所属しているのは事実。恐竜遊園地が出来た時には、筋脳のパラ実生より、若葉分校生の方がバイトに適任だ……ふふふふ)
 ゲシュタールが怪しい笑い声を上げた。
(百合園生も雇えれば、人気スポットになるかもしれない……くくくくく)
 一人、変な妄想に耽っていた。

○     ○     ○


「まだ通信は出来ないか」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)は、手配した通信機器を用いてゼスタとの通信を試みてみるが、まだ連絡を取ることは出来なかった。
 白竜の意見により、ゼスタ達は無線の受信機を持ってこちらに向かっているはずだが、電波の届く範囲には入っていないようだ。
 通信機器を搭載している車の中で、待機しつつ、白竜は窓から外の様子を確認する。
 自分達教導団員を中心とした隊を率いてきた神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は、機晶姫の攻撃らしき爆発を見た後、格納庫を占拠しているパラ実生を助けるために、向かって行ってしまった。
(どう交渉したらいいのか。助けても恩を感じそうな連中じゃないなー)
 優子達と共にいかせた、パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)からはそんな連絡が届く。
 団員と彼女の技量ならば、問題はなく対処できるはずだが。
 それは、あくまで戦闘行為で解決するのなら、だ。
 今回の司令部からの命令は、交渉による円満解決だ。
「それには、パラ実生の協力が不可欠と思われるが……」
 白竜は眉間に皺を寄せる。
 少なくても、作業員の格好をしているとはいえ、自分が彼らの中に向かって行っても、拗れるだけだということは解る。
 神楽崎優子も、印象としては相違ない……軍人気質の女性なので、彼女と団員達だけで治めるのは無理だろう。
 仲間を案じながら、白竜は通信を試み続ける。

「機晶姫……それとも、機晶ロボットか!?」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)は、優子が向かうと同時に格納庫へと走り、彼女よりも前に出る。
 実質優子が率いてはいるが、これは元々国軍の仕事のようなものだ。彼女の国軍での立場は留学生。
 東シャンバラのロイヤルガードにして、ニルヴァーナ探索隊の部隊長でもある彼女に何かあっても困る。
「下がれ。技で抑える!」
 鉄心は敵の姿は見えずとも、積極的に前へと出る。
 パラ実生を名乗る者達の大半は下がる。
「この攻撃でドアを開かせれば……!」
 だが、チャンスとばかりに、格納庫に入り込もうとする者もいた。
「離れて! 命を失ったら、手に入るものなんてないのよ」
 パートナーと共に黒髪黒目に変装したルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、駆け込んできた。
 光の薙刀を、こちらに武器を向ける相手――機晶ロボットに繰り出して牽制。
「壁を破壊したのか」
 鉄心は軽く状況を確認する。
 格納庫の一部の壁が破壊されている。
 隣室に続くドアが開かなかった為に、誰かが爆弾で破壊したようだ。
 機晶ロボットはその破壊された壁から、出てきたと思われる。
「すまんが、大人しくしてくれないか……っと」
 魔道銃を近距離から撃って、機晶ロボットの腕を破壊し、武器を落させる。
「優子さんは下がって。状況をゼスタさん達に連絡してくださいます?」
 次なる機晶ロボットに武器を繰り出して、足を砕きながらルカルカが言う。
「わかった」
 と、優子は教導団員にその場を任せて、少し後ろへと下がる。
「……念のため、な」
 ルカルカのパートナーの夏侯 淵(かこう・えん)が、ちらりと優子を見る。
 密かに盾としてフラワシに彼女を護らせておく。
 自身も殺気看破とイナンナの加護の能力で、警戒を払っている。
「なんだてめぇらは! ぞろぞろ来やがって。ここはもう定員オーバーなんだよ!!」
 パラ実生を真似たモヒカンの男が、優子にボウガンを向けてきた。
「まて、俺らはお前達の宝を奪いに来たわけじゃない。対価は払う」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が優子の前に出て、モヒカン男にそう言った。
「人数が増えれば、取り分が減るだろ! ただでさえ、西の奴らが邪魔してんのによ!」
「うーん……」
 モヒカン男の言葉に、志方 綾乃(しかた・あやの)が唸り声を上げる。
 どう考えても、中にいる機晶姫やら機晶ロボットに、彼らを皆殺しなり追い払って貰ってから、悠々と部隊を送り込んで、機晶姫と格納庫を制圧するのが一番楽だし、確実だ。
 彼らの言い分は一方的だし。
 ここは、キマク家が治める領地でもない。国有地、格納庫も国のものと言える。
(古代遺跡の危険性を知らなかった、あるいはあえてリスクを取ったかのどちらか。大荒野の「何をやってもいい」は「何が起きても自己責任」と表裏一体。例え見殺しにしようがこっちが責められる筋合いなどない)
 とは思うものの。
「奪い合うつもりはない、まずは一緒に危険を排除し、それから話し合おう。キミ達を含めた、パラミタに生きる者達を護るために、必要なものがあるんだ。協力しよう」
 そんな風に、説得しようとしている優子を見て、綾乃はふぅと吐息をついた。
 彼女はそんな方法は許可しないだろうから。
 提案して心象を悪くされるのも癪なので。
「ま、いくら効率的と言えども、人の死なんて見てて大して気持ちいいものじゃないですからね」
 たまには人助けも悪くないか、と。
 綾乃も前に出て。
「機晶姫の攻撃だ、回避しろ」
 鉄心の声と共に、飛んできた擲弾を確認。
「優子さんの方針。愛の鞭ー!」
 即座に、モヒカンパラ実生を殴り飛ばしてどかす。
 そして、格納庫に飛び込んでいく。
「これ持ってて。他にも気にかけてる人はいるだろうけれど」
 巫女装束姿の大岡 永谷(おおおか・とと)が、優子に禁猟区のお守りを差し出した。
「ありがとう。キミはその姿でいれば、大丈夫かもな。可愛いし」
 優子は永谷に軽く笑みを見せた。
 それからまた真剣な目で、格納庫の方を見る。
「私服とはいえ、機晶ロボット数体に引けを取るとは思えないが、パラ実生を巻き込むと、交渉に持ち込めなくなる」
 優子はそれを案じて、機晶ロボット以外は決して傷付けないようにと、仲間達に注意を何度も促す。
「加勢しても構わんのだが」
 第七龍騎士団の副団長であるルヴィル・グリーズが優子に近づき言う。
「いや、貴方は存在だけでも、威圧感を感じますし……魔法で動きを封じることも、極力避けたい」
 申し出に礼を言い、優子は龍騎士団にはまだ下がっていてもらう。
「退け! 上から狙えばいい」
「バカな奴らだぜ! やらせておけばいい。後から攻め込んで、一網打尽だ!」
 パラ実生を名乗る者達は、口ぐちにそう言いながら、離れていく。
「まあ、そうなるだろうな」
 優子の傍で、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は苦虫をかみつぶしたような顔をする。
『力で制圧するのではなく、取引を持ちかけて説得せよ』
 その国軍上層部からの方針は、ケーニッヒも聞いていた。
 無茶をいいやがると不満を感じていた彼だが、口には出さず、指揮を任された神楽崎優子を見守りながら、この場にいた。
(東シャンバラのロイヤルガード隊長、パラ実の四天王、若葉分校の長、百合園の元生徒会役員……色々聞く女だ……友に出来れば、これ程頼もしい味方もいねぇだろうな。だが……)
 優子は怪我人の治療に関して、指示を出した後、携帯電話でパートナーのゼスタに状況の説明を始める。
(電話なんかしてる場合か? パラ実の奴ら、背後から格納庫に入った契約者を狙ってやがるぜ)
 今までの経験から、彼らの全てがシャンバラ政府や国軍に敵対的だ、とまでは思っていない。
 しかし、パラ実生の中には、政府や国軍への敵対を何とも思わない輩がいることも紛れもない事実だ。
(奴らが取引に応じて、交わした約束をきちんと履行する? そんな風には思えねぇな)
 見える範囲にいるパラ実を名乗っている現地人よりも、ケーニッヒが危険視しているのは、主に契約者の一部のパラ実生だ。
(取引自体まったくできそうもねぇじゃねぇか。言葉が通じてない)
 この任務、達成は無理か?
 そんな風にも思えたその時。
「大丈夫ですか?」
 波羅蜜多ツナギ姿の少女が駆け込んできて、爆発で負傷した者達を魔法で癒し始めた。
「何やってんだよ、お前ら」
 ガラの悪い猫――猫井 又吉(ねこい・またきち)も、ジェットドラゴンで到着を果たす。
 箱を抱えて降りて、優子に目を向ける。
「武尊の代理で来てやったぜ」
「そうか、ありがとう」
 優子は少し、ほっとした表情となり。
 逆に隣にいたケーニッヒの眉がピクリと揺れる。
「くそっ、アルカンシェル内であんだけやったのに、まだ出て来るか……!」
 レッサーワイバーンの【ブランド】を空中に待機させ、尋人は格納庫へと飛び下りた。
 天馬の槍を用いて、龍飛翔突。
 パラ実生を狙っていた機晶姫の首を貫いて断つ。
「意思ある者は敵ではない。明らかな敵を打つことを優先しないか!?」
 言いながら、尋人は機晶ロボット、機晶姫の対処に当たっている者達を歴戦の防御術の技能で、守っていく。
「やめろって、まあ俺も元パラ実生だから、気持は分からないことはない」
 ラルクが機晶姫の攻撃で負傷しながらも、契約者達を排除しようと狙ってくる男の腕を掴んで、武器を落させる。
「下がって。悪いようにはしない。上に若葉分校生が来ている。話し合おう。それで決着がつかないのなら、全部外に持ち出してから争奪戦すればいいんじゃないか?」
 尋人が、ラルクが助けた少年を歴戦の回復術で治療した。
「そうですね。交渉が決裂したら、その時はその時……ですね」
 にこっと綾乃は微笑んだ。直後に、機晶姫の中に飛び込んで、七曜拳で機晶姫数体の四肢を砕く。
「!!」
 飛び散った破片が、少年の足の上に落ちる。それだけで、少年は足を抱え込んで涙目に。
「おたからはこくぐんにうりはらえー、ひゃっはー。つよいにんぎょうはアルちゃんにちょうだーい、おにんぎょうさんあそびするのー」
 小さな女の子が、天使の笑顔を浮かべて駆け込んでくる。
「静まれ! パラ実生ども! こちらに御座す方を何方と心得ますの!?」
 一緒に駆け込んできたのはナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)
「畏れ多くも故ドージェ・カイラスの妹君と謳われる、マイロード・アルコリア様でございますわ」
 ナコトは天の炎をアルコリアの背後に落して、演出する。
「まさにその御姿はパラミタに降臨したもうた、破壊と創造のウェ・ヌ・ス……っ!」
 炎の光で赤く染まりながら、わーいと女の子は機晶ロボットの方へと駆けて行く。
「ドージェの妹ぉ? このちみっこいのが!?」
 不良達は誰も信じない、が。
「おにんぎょうさんあそびに、ぶきはいらないのー!」
 機晶ロボットに抱き着いたかと思いきや、小さな女の子――ちぎのたくらみで子供化した牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、ぶち、ぶち、と。小さなお手てで、機晶ロボットの腕をもぎ取り。
「にごったおめめもいらないのー!」
 レーザーのついている目をもぎ取る。
「これもこれもつかわなーい」
 ぽいぽいと投げた、機晶ロボットの破片が飛んで、不良達の足下に落ちた。
「ひっ……ま、まさか本当に妹!?」
 握りつぶされ、鉄塊と化した機晶姫の部品を見て、不良達は目を丸くする。
「わかったら、早く避難だ。機晶姫も怖いが、アレを怒らせたら全て終わるぞ」
 などと、ラルクも言っておきながら、機晶姫を殴り飛ばしていく。
「ぐぅ……ドージェの妹を味方につけるなんて、くっ……」
 不良達は納得のいかない表情で、ぎりぎり歯軋りしている。
「基地を荒らしてごめんなさい! でも、アルカンシェルを修理したいだけなんです!!」
 素早く動き回り、攻撃を避けながらティー・ティー(てぃー・てぃー)が大声を上げた。
「修理ぃ?」
「宇宙での戦いで、制御に必要な装置が、壊れちゃったんです。アルカンシェルが飛べなくなってしまったら、ニルヴァーナの探索に遅れが出ます。パラミタを……ここにいる皆を護るためにも必要なんです!」
 話が通じるかどうか分からないけれど、ティーは機晶姫と戦いながら、パラ実生達に訴えていく。
「みんなも、ここを守りたいと思ったり、生きていくためにお金が必要だったりして、頑張っているんだと思います。でも、生きれる場所がなくなってしまったら全て終わりなんです。皆さんのことも、守るために私達は来たんですよ!」
「嘘ではない。手に入れた物を持ち逃げするような者がいたら、その者を撃てばいい!」
 鉄心もそう言いながら、機晶姫用レールガンを向けてきた機晶姫の前へ飛び出して、機晶シールドを展開し、攻撃を一身に受ける。
「爆弾を放たれたら、身体だけでは防ぎきれない。外へ出てろ」
 傷を負いながら振り向いて、鉄心が少年達に言う。
「くそ……っ、よし、ハッチで狙わせてもらうぜッ!」
 パラ実生を名乗る者の何人かが、逃げるように縄や梯子を上ってその場から退散していく。