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マレーナさんと僕~卒業記念日~

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マレーナさんと僕~卒業記念日~

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11.閑話休題:カラオケとか食うダイとか

 受験や再教育に没頭する者達もいれば、
 彼等や従業員達の生活を心配する者達もいる。
 
 何事も、世の中は「持ちつ持たれつ」だ。
 
 ■
 
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は、『食ウダイ』メンバーであるレッサードラゴン達に招集をかけた。
「ゴブリンやら、モヒカンヤンキー(元鏖殺寺院連中の事)やら、俺達のメンツがふえた!
 しかし、そうなるともっとメシが必要なんだぜっ!」
「肉ダ、ニクッ!」
 レッサードラゴン達が思い浮かべたのは、うまそうに味付けされたロザリンド・セリナの肉料理だ。
 じゅるじゅるとよだれをぬぐう。
「俺達ハグルメダ! 旬ナ物ガ食イテー!」
「恐竜だな!!!」
 キング・王・ゲブー喪悲漢に跨って、彼らを大荒野へと誘う。
「よし、腹ごなしにいこうぜ!
 なんかえらそうな恐竜騎士団のや野良を狩るぜ! ヒャッハァー!」
 
「……おっと! その前に、イカスモヒカンはどうだい?」
「お! やっと、来たか!」
 ゲブーは二ィッと笑う。
バーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)!」
「ピンクモヒカン兄貴。
 どこ行っちまったかと思えば、こんなトコに最近すんでるんだねっ!」
 へー、とモヒカン頭の少年は珍しそうに下宿とレッサードラゴン達を眺める。
「受験するレッサードラゴンなんて、はじめてみたよ。
 さすが、ピンクモヒカン兄貴!」
 フラワシの毛神『理髪師バリバリカーン』を呼び寄せて、くいくいっと指先でレッサードラゴン達を誘う。
「ピンクモヒカン兄貴みたいにピシッと決めたい奴は、こっちへ来いよ。
 フラワシを召喚。
「いっけー、バーバーモヒカンの毛神! 理髪師バリバリカーンっ!」
 次々とモヒカン頭にされてしまった。
「じゃ、サッパリしたところで、狩りに行こうぜ! 兄弟!」
「その前に、デジカメで撮っていい?」
「おもしれー頭のコレクション、か。好きにしな」

 かくして、ゲブー&レッサードラゴンの「食ウダイ」作戦は幕を開けたのであった。

 ■
 
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は洞穴をカラオケ屋にしていた。
 携帯音楽プレイヤーとダウンロード音楽データを用意し、歌う本人だけがイヤホンで音楽を聴きつつ歌――早い話が「アカペラ」だ。
「カラオケ機材が無いから、とはいえ、よく考えついたものですな」
 機材の持主たるアイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)は、がらんどうのそれなりに広い会場を見渡す。
 確かに音響効果は有りそうだが、出入り口の傷みが目立つため、音漏れも激しそうだ……。
 
 ある程度設備を整えた所で。
「ヒャッハァー! イケメンのワンマンステージだぜェ!」
 マイクを取ろうとしたところ、アインがうおっほんと咳払いをした。
「疲れた受験生に優しくするのが、イケメンの役目では無いですかな?」
「……さすがは、アイン。
 C級四天王になったオレは、受験生にも優しい男になったんだぜェ!(忘れてたけど)」
 竜司はマイクをおく。
 携帯電話を操作し、夜露死苦荘にいる元カツアゲ隊の舎弟達を呼び出した。
「おう、テメェーら、たまには息抜きも必要だぜェ。
 場所はてめえらの拠点だった洞穴さ。
 ……はぁ? メイドが怖い? 一緒に連れてきやがれ!
 唯我独尊だろうが調教だろうが、オレは心が広いんだぜェ!」
 
 程無くして、舎弟達が集まった。
 メイド達もかしこまって参上する。
「何でも、『音楽』の勉強、とか。
 素晴らしいですわ、このような会場を設けて頂けるなんて!」
「はっ? 『音楽』? 勉強?」
 あたふたとして、舎弟達が竜司を取り囲んだ。
「竜司さん、と、ととととと、とにかく!
 そ、そう、とっとと歌ちまいましょうよ!」
「あー! 久しぶりに竜司さんの歌も聞きたいッスねぇ!」

 ……実のところ、彼等は「歌の練習(つまり『音楽の勉強』)」と偽ってここに来ていた。
 夜露死苦荘ではふらっと遊びに行こうにも、【出張メイド】達ばかりでなくオーナーのフラワシや、【用務員】や、監視カメラの目があるのだ。
 そうそう突破口を開くのは難しい……。
 
 何も知らぬ竜司達は舎弟達の心酔しきった言葉に感心して、当初の計画を進めていく。
「まぁ、なんだ。
 開店したばかりさ。座るところもねェし、まずは掃除でもしてくれや」
 
 一方――。
 アインは夜露死苦荘近くにいた。
 荒野を1人で行くのは危ないのだが、なぜか無事だった。
「ふむ、イコン無しでも大丈夫とは……」
 小首を傾げつつも、彼は下宿の前まで来た。
 
 彼が無事だったのは、ゲブーとレッサードラゴンの軍団が近くを行動していたためだが、そんなことは知る由もない。
 当面アインが考えることは、両手に抱えた「カレー水」を売りまくることと、その為に「アカペラ屋」を宣伝して出来る限り多くの客を引き込むことであった。
 
「ストレス発散に大声を出し、疲れた体にはカレー水。
 これは良い商売になりそうですな、ぐふふ」
 彼は竜司に呼ばれた舎弟を数名捕まえると、竜司の了解を取った上で、カレー水をつくらせる。
 水は夜露死苦荘には井戸があるので、下宿前であれば困らない。
 そうしてたっぶり在庫を作った後、宣伝に力を入れるのであった。
「さぁ、洞穴のカラオケ『アカペラ屋』、本日開店!
 メイドも、学生も、従業員も、ストレス発散に!
 歌い終わったら、このカレー水! おひとついかがですかな?」
 
 アインの宣伝効果で、主に下宿生達とメイド達の客が竜司の「アカペラ屋」に押し掛ける。
 数は多く、満員御礼。
 元々自由が好きな元カツアゲ隊の隊員達である。
 出入口の扉がふさがらなくなるくらいの人だかり。
 ましてC級四天王のプレゼンツ、だ。
 ただの「洞穴」は「竜司のカラオケ屋」として、主にパラ実生達の間で広く知れ渡ることとなった。
 
 休憩時間を見計らって、アインが「カレー水」を勧める。
 だが、メイド達は逆に、アインに自分達の「唯我独尊」に来るように勧めた。
「私どもの店には、宝石の如く貴重な『ミネラルウォーター』がございます。
 アイン様も、どうぞお帰りの際はゆっくりされればよろしいかと」
「はぁ、わしはどうも。それより、こいつらの方が良いのではないですかな?」
 アインは足下で恨めしそうに見上げている舎弟達を顎先でさす。
 彼等は金銭がなく、カレー水を購入することが出来ないでいた。
「カレー水は嫌だ! というのですからな」
「まぁ、それでは、私どもの店に連れてまいりますわ。
 アイン様のご協力に、この上なく感謝いたします」

 ……連れて行かれた学生達は、高額なミネラルウォーターを飲まされて、借金持ちになってしまったとさ。
 
「ヒャッハァー!
 勉学して、空大に入れば、発明発見で一攫千金だろうさ!
 それまで、タダ働きで頑張るこったなァ!」
 メイド達の高笑いが、大荒野の空に木霊すのであった。
 
 洞穴では竜司がラストを飾るべく、マイクを手にしていた。
「野郎共、思う存分歌ったか?」
「ヒャッハァー!」
「んじゃぁ、イケメンでモテモテの俺様がイイ声聞かせてやるぜェ!」
「ヒャッハァー!」
「いっくぜェーっ!」

「カラオケ屋」で夥しい数の学生達が失神騒動を起こすのは、いま少し後の事。

「ここが引き際ですな……」
 扉の隙間から中をのぞいていたアインは、忍び足でその場を去るのであった。
 手元の金を勘定しつつ。
「まずは遠ざかることが先決!
 診療所の先生方を呼んでくるとしますかな?」
 
 ■
 
 ……さて、肝心のゲブー達はと言うと。
 不覚にも竜司のアカペラに気を失って、狩りが出来なかった。「耳栓」が必要だったようだ。
 
「くそ! こうなったら、元恐竜騎士団の野郎共に『恐竜』の行きそうな場所を探させるぜ!
 奴らだって、今は仲間だろう?
 同じ穴のムジナなんだ! ごちゃごちゃいわせねーぜ!」
 
 きょーりゅー、ぜってぇー食うぞーっ!
 
 魂の雄叫びが、大荒野に響くのであった。
 
 そして、夜。
 ゲブー達が下宿に戻ってくると、心配そうにマレーナが玄関前で彼らを待っていた。
 
「無事にお帰りでしたのね?」
 胸に手を当てて、ホッと息をつく。
 下宿の奥で、元恐竜騎士団の姿が見える。
 ゲブー達が獲物をもってないことを確かめると、安心したのか部屋に引きさがって行った。
 マレーナが様子見であり、彼等の盾と言う訳らしい。
「なんだよ、マレーナまであいつらの味方なのかよ!」
「お怪我が無くて、なによりですわ」
 無視して、そっとゲブーの額に触れた。
 ドージェの姿が浮かぶ。
 ゲブーはマレーナの手を払いのけて。
「あの野朗は、なにも言い返さずに行っちまったぜー!」
「あの野郎?」
「ドージェの大馬鹿野郎さ。
 くそ、別れて正解だぜっ!」
 ゲブーはちらっと横目で見る。
 マレーナはくすくすと無邪気に笑っていた。
「ゲブーさんは、本当にお優しいのですね?」
 そのまま管理人室に向かう。
 ゲブーはチッと舌打ちして、マレーナの背に向かって叫んだ。
「なんだよ、別れたくなかったんだったらついてけば良かったじゃねぇか!
 てめぇのおっぱいはスゴイんだぜ?」
 
 だがいくら待っても、マレーナからの返答はなかった。