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マレーナさんと僕~卒業記念日~

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4.早朝:唯我独尊にて

 同刻。
 荒野のメイド喫茶「唯我独尊」側でも、来る「ヤキ」にそなえてオーナー達が孤独な戦いを強いられている。
 
 【唯我独尊のオーナー】は現状3名、空大生の湯島 茜(ゆしま・あかね)南 鮪(みなみ・まぐろ)土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)
 いずれも候補として手を挙げた後、厳しい審査を通り抜けて晴れてこの日デビューする新人オーナーだ。
 このうち、鮪とはにわ茸は夜露死苦荘に戻ったが、茜はオーナーとしての務めを果たすべく、店に残ったのだった。
 
 オーナーとしての務め――それは、「夜露死苦荘と唯我独尊の知名度を上げ」、且つ、「優秀な従業員達を獲得すること」。

「その為にも、まずは宣伝かな?」
 うんと頷くと同時に、溜め息が漏れたのは、何からしようかな、と言うことだ。
 茜は空大生であるからには、賢い。
 ゆえにいくつものパターンが思い浮かぶが、そのどれもが有効な方法のように思えて仕方が無いので。

「あああああああああああああ、金なら、ある!
 資産家スキルで、ほら! 20万Gも!」
 目の前の資産をかき集めた。
「でも、どうすればいいのおおおおおおおおおおっ!!」
 ありったけの金を抱えたまま、茜は絶叫する。

 天の声は思わぬところから降り注いだ。
「全部やってしまえばよいのであります!」

「へ?」
 茜は驚いて見上げる。
 そこには名も知らぬ神――ではなくてパートナーの魔法少女・エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)が控えていた。
 メイド服の裾をぱたぱたとはたく。
「出張でもなんでも構わんでありますが。
 このあたりは物騒なので、トラックでメイドを運搬するであります。
 輸送用トラックの使用許可を?」
「え? あ、うん……」
「許可を頂けましたので、メイドを集めてくるであります」
 用件だけ告げると、エミリーはメイド達の控室に向かった。
 茜は、それはそうかもしれない、と思う
「そうだよね……迷うくらいなら、全部やっちゃえばいいんだ!」

 かくして、スキルを駆使した「大宣伝作戦」が展開されることとなった。
「宣伝広告」と「名声」と「熱狂」で、唯我独尊の従業員と、夜露死苦荘の入居者達を募る。
 20万Gの大金に物を言わせてやるだけやった、その結果は――。
 
 1案:漫画雑誌などの裏表紙に漫画を載せる。
 キャッチフレーズ:「いままでは貧弱だった僕も夜露死苦荘に入ってからはみるみる筋肉が! これで空大入学もカンタンだ!」
 結果:筋肉自慢の野心だけは強いパラ実生達が集まった。
 
 2案:近くの施設・イベントにチラシを置く。
 キャッチフレーズ:「プリントシール機に季節限定背景設置!」
 結果:空大に入って欲しいと彼女にせがまれた色男学生達が集まった。
 
 3案:のろしを焚いてみる。
 結果:ひそかに地下活動していたと思しき「元鏖殺寺院の下っ端学生達」が、仲間達がついに立ち上がった、と勘違いして殺到した。
 ついでに地下で仕事をしていたドワーフ達も、つられて参戦!
 
 と、まぁ、それぞれに効果は有ったようだ。
 ただしドワーフ達は、非常に賢い種族であり、また彼らにもその自負がある。
「空大、か。
 まぁ、面白そうだが、今のとこは入る必要も感じないし、
 入ろうと思えば、入れるからな♪」
 彼等はすまなさそうに、誘ってくれた茜に詫びを言う。
「夜露死苦荘には留まらない、と。
 そう、残念ね」
「わりぃな、オーナーのねーちゃん」
「気が向いたら、頼むわ。
 部屋は管理人さんが確保してくれたから、いつでも行けるしさ」
「元鏖殺寺院の野郎どもと同じ、地下施設だけどよぉ」
「へ? 地下施設?」
「玄関前に作っちゃったらしいからなぁ、連中。
「なんでも、下の方が落ち着くって」
「わしら手伝わされて、大変だったぜぇ!」
 あいた口のふさがらぬ茜にドワーフ達は一礼すると、また自分達の世界へと戻って行った。

「まぁでもこれだけ数がいれば、夜露死苦荘の進学率は嫌でも上がるだろうし。
 そうすれば知名度や名声だって、もっとずうっと上がるもんね!」
 
 ドワーフは無理でも、と。
 気を取り直した茜は、仕上げ作業へと移る
 新たな受験生を確保したら、当然彼らを真の「お受験マシーン」にすべく、「教育者」達をスカウトしなければならないのだ。
「う〜ん、空大……入学試験……いちげい……一芸……『一芸入試』?」
 茜は指先をパチンとはじいた。
「うん! これだよ、これ! 『一芸』だって!」

 茜は店内に集まった従業員候補生たちを眺め渡して、オーナーとして面接する。

「みなさーん! ハイ、注目。
 これから、就職テストをはじめるよ!
 夜露死苦荘と言えば、『空大受験』
 空大といえば、『一芸入試』。

 そうした次第で、皆さんの『芸』を見て決めたいと思う。
 もてる技を思う存分に、発揮してね!」
 
 夜露死苦荘の下宿生達はともかく、男の娘メイド候補生達は困った。
 彼らには恭しさのほかは、「腹の大きさ」か「筋肉美」しかない。
 頭脳は空大生のご主人様達に期待あげられてそこそこだが、これは『芸』という域まで磨き上げられてはいない。
 
 仕方が無いので、自慢の「筋肉美」と「腹踊り」を公開して見せる。
「いかがでしょう? ご主人様」
 
「あっはっはっは――っ!
 面白い、面白い!
 あんた達、全員ごうかーくっ!」
 茜は笑い転げながら、ぽんっと「合格」マーク。
「芸」の意味が違うような気がしないでもないのだが……。
「だってさ!
 『のぞき』が学問って言うのなら、『筋肉』と『腹踊り』だって、立派な一芸だよね!」
 うんと頷く。
 そうして、自信満々に茜は出張メイド達を送り出すのであった。
「じゃ、メイド達は頼んだよ、エミリー!」
「わかっているであります!
 この緋羅丹賦螺列車砲でのピストン輸送で、荒野の荒くれ者達も近づくことすらできないであります!」
 
 そのトラックの運転が「安全運転」かどうかは怪しかったが。
 無法者やモンスターから護られたことで、メイド達からエミリーが深く感謝されたことにより、唯我独尊における茜のオーナーとしての知名度と従業員達からの信頼度は高くなったようだ。
 
 ■
 
 同刻・夜露死苦荘の前。
 
 青空の下、朝日はモヒカン桜の花の色を際立たせる。
 光る犬がやってきて、くんくんと風の臭いをかいだ。
「ほう、朝食の時間だな」