天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

海の都で逢いましょう

リアクション公開中!

海の都で逢いましょう
海の都で逢いましょう 海の都で逢いましょう 海の都で逢いましょう

リアクション


●ようこそ交流会へ!(1)

 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)にはわかっている。
「あ、あのマスター」
 ノックしてドア越しに話しかけてきたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が、激しく緊張しているのがわかっている。
 姿は見えずとも彼女の声の調子だけで一目瞭然……いや、一瞭然なのである。それくらい、フレンディスは自分の心を隠すのが下手だ。
 でも、それでいい。
 それだからいい。
「何だ」とぶっきらぼうな口調でベルクがドアを開けると、フレンディスの頭には――彼の予想通り――超感覚発動中の『証拠』が姿を見せていた。彼女の緊張が、ここでも一瞭然というわけだ。
「今度天学にて交流会なるものが御座いまして、その……私、新入生ではありませぬが参加してみたく……しかし一人では恥ずかしいゆえ、ご一緒して頂いてよろしいでしょうか?」
 いいながら彼女の頭頂側の耳は、激しくひょこひょこと動いている。この申し出をするほうがずっと『恥ずかしい』と思っているという証拠だ。けれどベルクは気づかぬふりをした。
「天学の交流会か?」
 口元に笑みが浮かびそうになるのを隠して、
「フレイが行きてぇのなら俺は別に構わねぇぞ」
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばねぇよ」
 けれど笑みと同時に、ベルクはため息もつきそうになるのだ。どうやらフレイにはまだ、これもデートの誘いになるという認識はなさそうだ……。
 ……と、いったやりとりがあったのが数日前だ。
 そして本日、快晴の海京、ベルクと連れだって人工のビーチを訪れたフレンディスは、ここで急にUターンして帰りたくなってしまった。
 なぜなら立て看板が一枚、途上の道に立ててあったからだ。その文面は以下になる。

『この度は九校交流会にご参加いただきありがとうございます。
 先の告知で漏れておりました、ドレスコードについてのお知らせです。

 今回のドレスコードは、水着です。

 これはTPOにふさわしい格好であるということもありますが、保安上の理由によるものです。

 天御柱は昨年から度々、高い技術を持つテロリストの侵入を許してきました。
 それはひとえに、「隠していても見つけられるだろう」という、セキュリティに対する過信があったからです。
 今回は原点に立ち戻り、不審物を持ち込ませないことを優先します。

 故に水着です。』


 署名は天学生徒会副会長平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)とある。水着を不所持の者は会場にて貸し出し、あるいは販売を受けることができるとも書かれていた。
 といってもこのドレスコードは強制ではなく、正しくは『推奨』であって服装は基本自由である旨も書かれているのだが、『水着』という短くもストレートなパンチ力有する単語は、それだけでフレンディスの注意力や文書読解力や観察眼その他もろもろを天空に吹き飛ばすに十分すぎるものであった。事実、この瞬間にもう、彼女は反転して帰路につこうとしている。
「マスター、帰りましょう! ここは危険です!」
「おいおい、危険って……それにまだ、まだ会場入りもしてないだろうが」
「け、けど、み、みず……!」
「落ち着け。たかが水着だ。全裸を要求されているわけじゃない」
「しかし肌を露出させてしまうのですよ!? 薄い布しか防護のない状態で衆目にさらされて……ああ!」
 だんだん言葉が言葉の体をなさなくなり、フレンディスは頭をかかえてしゃがみこんでしまった。 
「そこまで気に病まずとも、参加者はたいがい水着なんだろう? 一人で目立つということもないと思うぜ。それに、パーカーでもはおって露出を抑えればいいだろう。それに俺も水着姿のほうが嬉……いや、こっちの話だ」
「でも……」
 もちろん現在もフレンディスは耳&尾が全開である。いずれも垂れてしまって、意気阻喪が手に取るようにわかる。
 そのままどんどん縮小していってやがて消えてしまうのではないか……と思われた彼女だったが、ついに、
「パレオ……」
 ぽそりと言った。
「パレオ?」
「パレオ……それも、長めのパレオもお借りできるのなら、水着に着替えてもいいです……」
「お、そうか。パレオな? きっとあると思うぞ」
「それに水着のほうが、マスターは嬉しいんでしょう?」
「聞いてたのか」
 ベルクはいささか気恥ずかしげに答えるも、彼が思っていたものと彼女が予測したものとではあきらかに内容が違っていた。
 フレンディスはすっくと立ち上がって言ったのである。
「私のわがままで、マスターが水着に着替えたいという気持ちを妨げるわけには参りません!
 いや、そうじゃなくて……とベルクは言いかけるも、尾をピンと立てた状態で、もう彼女はどんどん歩きだしていた。
「そうですね。もうすっかり暑いですものね。ましてや会場はビーチ、マスターが『水着で一日過ごしたい』と思われるのは当然です。ふつつか者の私ながら、マスターにおともして水着を着たいと思います! ……パ、パーカーとパレオを許していただけるなら、ですが……」
 俺の気持ちは『着たい』ではなく『見たい』なのだが――という想いは胸にしまって、苦笑いしながらベルクはフレイと並んで歩いた。
 白い砂浜が見えてくる。
 どうしてここまで肌を露出させるのを嫌がるのか、その理由を彼女は口にしなかった。
 体に付いた無数の生傷を、彼に知られたくないという本心はどうしても言えなかった。