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リアクション
・Chapter25
「……やるなルルー姉妹……アカデミーは伊達じゃねぇってか」
ソルティミラージュに乗っている村雲 庚(むらくも・かのえ)は、敵第一陣を撃破したというルルー姉妹の活躍に、思わず舌を巻いた。彼女たちと張り合っている同じ学院のパイロットもさすがだが、アカデミーで専用機を与えられるだけのことはある。
「こっちも、天学のクルキアータ乗りとしては負けてらんないよね。さあ、そろそろ頃合いだよ」
壬 ハル(みずのえ・はる)が庚に告げる。
(ルート算出、シミュレート完了。モニターに出すよ!)
彼女がタッチパネルを高速で叩き、演算を行う。プラヴァーの場合はある程度オートで行われるものだが、あえて原型のクルキアータに合わせてマニュアル操作にしているのである。それは、機体操縦を行う庚の方も同様だ。それでも、ルルー姉妹に言わせてみれば「簡略化されている」らしいが。
戦術予測と機体が取るべきコースが表示された。
(敵機分析完了。攻撃タイミング把握、最大速度把握、機動特性および回避性能把握、射角把握。シミュレートデータ更新。エネルギー反応増大。十秒後、ビーム式ガトリングガンによる牽制ののち、大型ビームサーベルを展開。カノエくん、機体反転!)
ハルの指示を受け、スラスターを噴出。機体を反転させ、それまでシュヴァルツ・フリーゲIIに追われている形だったが、ここからは違う。
「こちら【ソルティミラージュ】……仕掛ける」
リミッター解除。
敵機のガトリングが火を噴いた。予測通り、ジャスト十秒。
エナジーバースト。バリアを展開し、シュヴァルツ・フリーゲIIの銃撃を流していく。
(行くぜ、ハル)
ブレイドランスを突き出した状態で、スラスターを全開にする。推力による衝撃が身体に伝わる。そして、一直線にシュヴァルツ・フリーゲIIに突っ込んだ。ブレイドランスが敵機のシールドごとガトリングを貫き、さらにエナジーバーストによる体当たりも加わることで、敵の機体が大きく弾き飛ばされた。
そのまま軌道上から離脱、地球の重力に吸い込まれていった。
「【ソルティミラージュ】より各機へ。シュヴァルツ・フリーゲII、撃墜完了」
ここから先は、他の機体の援護だ。
「シュヴァルツ・フリーゲIIは、俺んとこので最後か」
アペイリアー・ヘーリオスの中で、無限 大吾(むげん・だいご)は呟いた。
「だけど、こっちにはシュメッターリンクIIも来ちゃってるね」
西表 アリカ(いりおもて・ありか)がレーダーを注視しながら、大吾に告げた。
「全部で三機か。これだけこっちに誘導できただけでも御の字だ」
攻めるよりも、守る方が得意だ。それに、敵のステルスも解除させることができた。
「接近戦を仕掛けてきそうなのはシュヴァルツ・フリーゲIIのみ。ならば」
大吾は機体を後退させた。
その上でアヴァランチミサイルを射出。これは敵の射撃武装によって撃ち抜かれるが、それは最初から折り込み済みだ。
直後、大吾はケルベロス――ガトリングガンのトリガーを引いた。その弾丸が、二機のシュメッターリンクIIを撃ち抜いた。
それからすぐにシールドを構えるが、受けきれなかった分の敵の散弾とミサイルの残骸が【アペイリアー・ヘーリオス】にぶつかった。それでも、装甲が厚いためこの程度なら問題なく耐えられる。
「さあ、問題はこいつだ」
近接武装を持たないため、シュヴァルツ・フリーゲの大型ビームサーベルの間合いに入ることはできるだけ避けたい。いくら装甲が厚くても、至近距離からあれを振り下ろされたらたまったものではない。
こちらの間合いに持ち込むため、距離を取る。だが、相手はこちらには接近してこない。
(もう「誘い」には乗ってこないか)
敵機は【アペイリアー・ヘーリオス】が囮であると悟ったのか、衛星に向かう者たちのところへ行こうとした。
「行かせるか!」
ノヴァブラスターを撃ち込もうとする。ギリギリ射程内だが、宇宙では地上よりも射程が長い。
放たれた光が、シュヴァルツ・フリーゲIIを追う。だが、かわされてしまう。
しかし敵機はそこまでだった。
別のところから放たれた光によって撃ち抜かれたのである。
『待(お待たせ。黒いの、三つ目)』
大吾の後ろから、マルグリットが乗る【サンダルフォン】がバスターライフル改を撃ったのである。
『さあ、衛星兵器ぶっ壊しに行くよっ!』
ドミニクの声が聞こえてきた。どうやら最初の機体群を全部片づけてきたようだ。
大吾たちも彼女らとともに、前線へと向かった。
「モスキート以外にもまだこれほどのシュメッターリンクIIが残っているとは……ですが、衛星兵器を破壊するには引き剥がさなくてはなりませんね」
非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は E.L.A.E.N.A.I.を駆り、衛星付近まで来ていた。
しかし、ステルスモードで待機していたシュメッターリンクIIがその姿を現した。
「こちら、【E.L.A.E.N.A.I.】。ドミニクさん、確かシュメッターリンクIIは相手すると仰ってましたが、衛星付近のはどうします?」
『えーっと、引き剥がしちゃって。本当は無視して衛星まで突っ込んでって言おうと思ったんだけど……破壊力の高い近接武装は持ってないよね?』
「……はい」
【E.L.A.E.N.A.I.】は射撃武装が主体だ。もっとも威力のあるのがヴリトラ砲だが、ナラカの気であろうとエネルギー兵器である以上、衛星に対して高い効果は期待できない。なお、衛星兵器にビーム兵器が有効でないことを知ったのは、第一陣を近遠たちが突破していった直後のことである。
『ジナちゃんの機体にはかなり有効な武器があるんだけど、今モスキート相手に苦戦中。もう一機は支援担当だし。あとは庚っちだけど、こっちに合流するまでちょっと時間がかかっちゃいそう。そんなわけで、マルちゃんの機体にある「切り札」を使うのが今のところ最短で衛星を破壊する手段なんだよ』
「では、シュメッターリンクIIを可能な限り衛星から遠ざければいいってことですね?」
『そゆこと! 当初の作戦から変更になっちゃったけど、よろしくねっ!』
通信終了。あとは指示通り、シュメッターリンクIIをこちらに誘い込む。
「要は、無理に撃墜せずとも衛星から遠ざけることができればいいのですわね?」
ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が確認してきた。
「その通りです」
そうはいっても、ステルスを解除した機体だけで五機だ。どのみちあまり無茶はできない。
「……まずは距離を取ります。それでついて来れば交戦に。来なければ狙撃に移りましょう」
「了解ですわ」
敵は誘いには乗らなかった。あくまで衛星に近づけさせないことを優先させているようだ。
射程ギリギリのところで、ユーリカがヴリトラ砲のトリガーを引いた。絶対命中のため、敵を一機に絞れば外れることはない。
【E.L.A.E.N.A.I.】の攻撃を目の当たりにして、敵は危機感を覚えたのだろう。こちらに向かってきた。これは、狙い通りだ。
「換装。ここからはツインレーザーライフルとマジックカノン主体でいきましょう」
近遠が敵との間合いを測りつつ、ユーリカが敵を牽制する。無論、その上で気を付けるべきことは、
(モスキートの有線ビット圏内に入ってしまわないこと……ですね)
うっかり入ってしまったら、モスキートとシュメッターリンクIIの集中攻撃を受けることになる。それだけは避けなくてはならない。
「減らせる分は、減らしておいた方がいいですわね」
近遠の絶対命中に、ユーリカの急所狙い。機体の向きを合わせ、ユーリカが敵をロック。
シュメッターリンクIIの一機に向かってツインレーザーライフルを放った。ジェネレーターを撃ち抜かれた敵機が爆発し、コックピットブロックが落下していく。
残りはステルスを解除している機体だけで三機である。最初に入ってきた敵機の総数を考慮すると、おそらくステルスモード中の機体も三機だ。
引き続きモスキートの攻撃範囲内に入らないように、近遠はシュメッターリンクIIを誘導する。
一方、モスキートを衛星から引き離そうとしているのは、アカデミーのジナイーダ――としてファスキナートルでやってきた富永 佐那(とみなが・さな)とエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)、そして交換留学中のミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)とペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)だ。彼らは{ICN0004670#Seele―?}に乗り、エネルギーシールドによる支援と、情報分析を行っている。
「モスキート付近に、他の敵機はおりません」
「仕掛けるなら、そろそろだね」
飛行形態のまま、有線ビットから放たれるビームをかわし、その一つに電磁ネットを投射する。その上部へと飛翔し、ミサイルとレーザーマシンガンを掃射。そのままスロットルレバーを前に押し込み、全速力で下降した。
「今です」
変形。人型形態になり、バスターライフルでモスキートの有線ビットの射出口を狙い撃つ。名前から誤解されがちだが、バスターライフルは実弾式の高火力ライフルである。確実に当てられる状況ならば、モスキートのマルチエネルギーシールドに対しても非常に有効だ。
「主砲、来ます。回避して下さい!」
エレナの指示を受け、即座に機体を旋回させた。彼女と組んでの実戦は初だが、大分息は合うようになってきた。エルザ校長が言った通り、彼女とは相性がいいようだ。
「主砲発射後は再装填まで間が空きます。回避後、そのまま一直線に進んで下さい!」
エネルギーシールドの防御もある。
チャンスは今しかない。
主砲から放たれたビームの軌跡をたどり、距離を詰める。速度を維持したまま、エナジーバースト。機体はモスキートの砲口に直撃し、主砲のある頭部を破壊した。
「これで、止めだ!」
ファイナルイコンソード。モスキートに剣を突き立てそのまま一気に振り抜き、装甲を削っていく。そして、モスキートが完全に沈黙した。
『みんな、お待たせっ!』
ドミニクは小隊メンバーに通信を送った。いよいよ、衛星β破壊の時だ。
『シュメッター出たね、三機。あれはアタシと杏ちゃんが引き受けるよ』
【メタトロン】とレイヴンTYPE―Cで、残っているシュメッターリンクIIの対処に当たる。
『……まだ、勝負は終わってないからね』
そして、衛星周囲から敵機が消えたタイミングで、マルグリットの乗る【サンダルフォン】が、ロケットランチャーのような形状の武器を構えた。
『離(なるべく衛星から離れて。万が一ってことがあると嫌だから)』
警告後、砲弾が放たれた。
目視可能な速さで進んでいき、衛星手前で爆ぜた。
そこに発生したのは強力な重力場――いわゆるブラックホールである。それに衛星が吸い込まれ、消滅した。しばらくして、何事もなかったかのようにブラックホールもなくなる。
『BHC(ブラックホールキャノン。グラヴィティキャノンを元にあの変態局長が趣味で作ったらしい。……二度と使うことはないと思うけど)』
こうして衛星βの破壊も完了した。