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リアクション
・Chapter28
「あなたを断罪し、救済します」
寝ぼけ眼にのんびりとした口調だったジャンヌの雰囲気が、一変した。
白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は梟雄剣ヴァルザドーンを構え、ジャンヌに斬りかかった。だが、彼女の動きは疾い。
両手の指に銃剣を挟み、それを盾にして竜造の攻撃を受け流している。相手が生身の人間であるためか、祓魔の力があると思しき光剣は使っていない。
刃を受けた状態でジャンヌが前転、ヴァルザドーンの刀身を蹴り、跳躍した。左右の指に挟んだ八本の銃剣を投擲する。
「く……そ!」
銃剣の軌道を見極め、まとめて叩き落とそうとするが、
「まだまだいきますよ!」
続けざまに袖口から銃剣を取り出し、投擲してきた。まるで雨のように、ジャンヌの銃剣が降り注ぐ。一撃に全てをかけるのではなく、数で圧倒する。それが彼女のスタイルのようだ。
ゴッドスピードで加速し、投擲を防ごうとする。だが、間に合わない。防ぎきれなかった銃剣が全身を貫いていく。
「三十二」
地面に着地し、ジャンヌが口を開いた。
「それが、あなた一人に対して使った剣の数です。うち、今のあなたに刺さっているのは、十二。穢れのある者は立っていることすらできないほどの激痛を伴うというのに……大したものです」
四肢に二本ずつ、胴体に四本。計十二。激痛も何も、普通の人間なら死んでもおかしくない。
「安心して下さいねぇ〜どれだけ痛もうとぉ〜死ぬことだけはぁ〜ありませんからぁ〜」
最初に対面した時のような、ゆっくりとした言葉遣いになった。
「ふ、ざけ……ろ!」
激痛が走る中、竜造はジャンヌに一矢報いようと間合いを詰めた。ヴァルザドーンの切っ先が、ジャンヌを捉える。
「残念でしたぁ〜」
金剛力で強化しているにも関わらず、ジャンヌが竜造の刃を指二本で挟んで受け止めた。どれだけ力を込めようと、動くことはない。
そして、異常はもう一つあった。剣が刺さっているとはいえ、リジェネレーションがかかっているはずなのに、傷がまったく癒える気配がない。
「ここはぁ地球ですよぉ〜パラミタの常識はぁ〜通用しませんよぉ〜」
竜造としては、ジャンヌに敵わないというのは別に大した問題ではない。それが、全力を出した上での結果ならば。
「神の加護があるのはぁ〜パラミタだけじゃぁ〜ないんですよぉ〜」
彼女は地球だからこそ、これほど圧倒的な力を発揮できているということだろう。おそらく、契約者としての力はほとんど使っていない。
「さて、そろそろ審議に入りましょう。魔神への信仰を悔い改め、我が神に帰依するのであれば……今すぐ『救済』して差し上げます」
再び、少女らしさが一切ない、真剣な表情となる。
「しなきゃどーなるんだ?」
「許しを乞うまで、痛みを受け続けることになります。決して死ぬことはなく、ただ痛みと苦しみだけが続くのです」
ジャンヌの言う「救済」とはすなわち、死。死こそが万人に対し平等な救いであると、本気で信じているのである。
「人は、生きているというだけで罪なのです。痛み、苦しむのは『わたしたち』が罪人だからです。だからこそ、生きている間は神に帰依し、いずれ訪れる救いの時を待つのです。それに逆らい罪の上塗りをするようであっても、我らが慈悲深き主は、改心する者に救いを与えます」
「……狂ってやがるぜ、てめえ」
人のことを言えた義理ではないが、この少女は自覚がない分タチが悪い。
「答えを」
剣を突き付け、竜造の答えを待つ。すでに相手の指はヴァルザドーンから離れていた。
竜造は口元を釣り上げ、
「神なんてクソくらえだ!」
思いっきり一歩踏み込み、一刀両断を繰り出した。ジャンヌが後方に跳躍し、銃剣を取り出す。
「残念です。また、人の苦しむ顔を見なくてはいけないというのは」
竜造は身体に刺さった剣を引き抜いていった。握るだけで、皮膚が焼けただれていく。
「穢れのある者が触れれば、身を焼かれますよ」
それでも構わず、抜いていく。
ただの意地だ。この小娘の信じている神に屈したくない、ただそれだけだ。
「何度向かってこようと、同じです」
銃剣を構え、ジャンヌが竜造に向かってそれを放った――。