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リアクション
・Chapter1
「出撃許可、下りましたか」
2022年度から整備科の教官を務めている長谷川 真琴(はせがわ・まこと)の元に、通達があった。正式にミッションが下されたのである。
衛星軌道上にある衛星兵器の破壊。そんなものが存在するのかと最初は耳を疑ったが、パイロット科経由で送られてきた映像を見れば、認めざるを得なかった。
「最初の連絡があった時点で、出撃予定の子たちからオーダー取っといてよかったね。機材の準備、完了してるよ」
クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が指し示す先では、整備科の面々が早速作業に取り掛からんとしていた。
「それにしても……まさか、出撃許可が出るまでの数十分でOSのアップデートを済ませちまうとはな」
真田 恵美(さなだ・めぐみ)が、感心したように声を漏らすのも無理はない。司城 雪姫がニルヴァーナでの運用を視野に入れ、宇宙空間での機体制御用のOSを組んでいたのは真琴も知っている。完成版を見せてもらったのはさっきが初めてだったが、あれを適応させるとなると、教官である真琴でさえ数時間かかってしまう。OSのアップデートを行うとシステムが初期化されてしまうためだ。正規の手順としては、あらかじめバックアップを取った上で設定済みのパイロットデータをそれぞれ適応させていくわけだが、どの機体にどのパイロットが搭乗しているか照合しなければならないため、どうしても手間が掛かる。これを間違えると、パイロット認証の際にエラーが起こってしまうからだ。
しかし、雪姫はその照合作業をせずその手でデータを再構築し、一機たりとも間違うことなくデータを適応させたのである。学院の機体とパイロットデータを全て把握していても、一切迷うことなくそんな芸当ができるのは彼女くらいだろう。真琴も機体とパイロットの組み合わせはほとんど把握しており整備科長を驚かせたほどだが、さすがに何も参考にせずデータを組み込むことはできない。
『あとは誤差の修正のみ。パイロット認証による自動調整後でなければできないから、そこはお願い』
雪姫は真琴にそう言い残して、旧イコンデッキへと向かった。そちらがひと段落したら、最終確認のために戻ってくるだろう。
「司城さんには、本当に驚かされますよ。さすがはホワイトスノー博士の後継者ですね」
「おかげでハード面を重点的に見る時間ができたわけだしな。宇宙空間だと修理に行けないばかりか、ほんの小さなミスが命取りになる。まあそれはいつものことだけど、いつも以上に……な」
恵美の言うことはもっともだ。月には整備施設がないため、一度宇宙に出るとミッションが終わるまで、修理・補給を受けることはできない。そればかりか、損傷した機体での大気圏再突入には大きな危険が伴う。
地球・パラミタでの戦闘稼働時間は最長で三時間。今回は発進から大気圏突破でエネルギーを激しく消耗するため、宇宙空間での戦闘可能時間はせいぜい一時間程度となる。今はそれでも大きな問題はないが、ニルヴァーナの現状を踏まえると、長期戦が行えなる機体は遠からず必要になることだろう。
「特に気をつけなきゃいけないのは、装甲だね。今回は大気圏再突入用の対策が施されてるから、そこに不備がないように」
クリスチーナの顔に、緊張の色が浮かんでいる。第二世代機の整備に慣れていない整備士のフォローだけでなく、少しのミスで取り返しがつかなくなることを自覚しているからだろう。
「とはいえ、あまり負い込み過ぎないようにしましょう。変に意識して、見落としがあったらそれこそ本末転倒です」
「……そうだね。あたいらがやることは、最高の機体を渡すことだ」
「『パイロットのことを考えた整備』ってのも、もちろんな。ちゃんと全員が帰ってこれるように」
真琴たちは各自持ち場につき、機体の整備・調整に取り掛かった。
「アキちゃんとエルノちゃんが宇宙でもちゃんと機体を動かせるように、きちんと整備しないとね!」
出撃許可が下りたことで、カーリン・リンドホルム(かーりん・りんどほるむ)は意気込んだ。願掛け……というわけではないが、コックピットにヤシュチェのお守りを下げ、調整に移った。
「レイヴンですが今回は出撃するのが二機、それも装甲の厚いTYPE―Cということもあって、司城さんが他の第二世代機同様宇宙仕様にして下さりましたよ」
真琴から告げられ、カーリンはすぐにOSを確認した。なるほど、ちょっと前にあの若き研究者がレプンカムイについて尋ねてきたが、このためだったのか。OSアップデートに伴う初期化によって最新版のレプンカムイシステムが消えてしまうことを懸念していたが、それは杞憂だった。ちゃんと過去の実戦データは残っている。これと相手の動きを予測するブレス・ノウを連携させることにより、高い精度での敵機の行動予測が可能となる。また、リアルタイムでの敵機の分析も可能だ。
「了解! 今確認したわ」
あとは、ジャックの武装の確認だ。
「レイヴンタイプの装備も、ここ最近で充実してきたわよね」
「ブレイン・マシン・インターフェイスも初期に比べれば大分改善されましたからね。適性が求められるのは変わりませんが、国際条約発効以後に定められた安全基準は全てクリアしてますし」
かつてはテストパイロットに志願するのにも覚悟が必要だったレイヴンだが、今はそれを知らない者も多い。
「それなら、そろそろ私も考えてみようかしら。BMIを生かした装備を」
遠隔操作武装なんかがいいだろうか。射撃が得意なパートナーのことを考えれば、開発したいところだ。
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