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僕の住む街、私の通う学校

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僕の住む街、私の通う学校

リアクション

 杜守 柚(ともり・ゆず)は香菜と共にツァンダ郊外にある雑貨屋ウェザーを訪れていた。
 店内で様々な雑貨を手に取って二人で覗き込みながら、柚がお店について説明していく。
「サニーさんっていう友達が看板娘しててよく来るんです。兄弟三人で営んでるお店なんですよ。かわいい物が多くて見てるだけでも楽しいですっ」
「確かに、いろんなものがあって見てて全然飽きないわ」
「お店は小さいんですけど中庭もあって催し物をしたりしてるんです。二月にチョコパーティーとかあったんです」
 二人は中庭に出て周囲を見回す。
 今は特に催し物を実施しているわけではなかったが、雰囲気は伝わってくるようだった。
「良いわね。楽しそう」
「盛り上がりましたよー! あ、ほら、チョコレートとか、お菓子も置いてあるんですよ。好きなものやかわいい物がいっぱいで迷っちゃいます」
 説明しながら店内の戻ると、手元にあった商品を手に取って見せる柚に香菜は興味深そうにうなずく。
「可愛いわね」
「香菜ちゃんはお菓子とか雑貨は好きですか? 記念にお揃いのリボン買っていきませんか? 香菜ちゃん可愛いからどのリボンも似合いそうです」
 おずおずと尋ねる柚に香菜は笑顔でうなずいて見せた。
「本当ですか!? 色違いもいいかもっ! お揃いって嬉しいです」
 その後も二人はしばらく様々な商品を手に取ってはいろいろな話をして買い物を楽しむのだった。

「我輩の商会が繁盛するためには、こういったイベントをうまく使わないといけないのは自明の理!! セレスティアーナに我輩の商会を紹介してくれ」
「えええ……」
 課題の話を聞いたクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)からの一言にグラナダ・デル・コンキスタ(ぐらなだ・でるこんきすた)は盛大に顔をしかめた。
「僕に任せて! テラーのためだもん!」
 一方、サー パーシヴァル(さー・ぱーしう゛ぁる)は張り切って頷いてみせる。
「しょうがないなあ……」
 その勢いにのまれ、グラナダも了承すると、セレスティアーナを呼ぶための手筈を整えた。
「陽竜商会の本店は葦原明倫館の城下町にあるのだ。品揃えは一般市民用のものから契約者のための武器、果てにはイコン装備まで揃っている。要は、食品、家庭用品、衣服、電子機器、薬品、高級ブランド品、車両、果てには土地や建物、銃器等と、あらゆるモノを取り扱っているということだ。支店はシャンバラ中にあるぞ」
「そんなに大きい商会なのか……!?」
 クロウディアの言葉に、セレスティアーナが驚いた声を上げる。
「ちなみに現在支店をニルヴァーナに展開中で、「繊月の湖支店」、「ニルヴァーナ校支店(購買)」がニルヴァーナに存在する」
「さらに大きくなっているのか!!」
 中の様子を見ながら、セレスティアーナは様々な商品を手に取ってみていく。
「これなんかいかがですか? 似合いそうですよ」
 すかさずグラナダが綺麗な宝石の付いたペンダントをすすめ始めた。
「ふむ、綺麗だな」
「そうでしょうー! これは本当にものが良いんですよ」
 曰くつきですが、とグラナダは心の中で付け足す。
「代王価格でサービスしますよ!」
 すかさずサーも隣に立ち商品をすすめ始める。
「これはなんの石なのだ……?」
「これはですねぇ〜……」
 グラナダとサーがとっさにクロウディアのほうを見ると、凄まじい勢いで商品の説明を書きあげたクロウディアがカンペを見せる。
「特殊な鉱石で削られた石で、輝き方が……」
 カンペを読んでいることがバレないように、グラナダが説明を続ける。
「そういえば、この商会では盗品を扱っているという噂も聞いたが」
「それは絶対にありません」
 曰くつきはありますが、と再び心の中で補足しつつ、グラナダが力強く言い切った。
「ほう……それで、いくらにしてくれるのだ?」
「そうですねえ……これぐらいでいかがでしょうか?」
 サーがポチポチと計算機をたたき、セレスティアーナに見せる。
「これは、お得なのか?」
「なにせ代王特別価格ですから」
「そうか……」
 商品を手に取って悩んでいるセレスティアーナを3人が熱い眼差しで見守る。
 何せ「代王価格」は、通常価格の3倍なのだ。
 元の価格を言わないのがコツ!!
 3人は密かにうなずきあうと、その後も商会のため、様々な商品を勧めていった。

「寿子さん、お疲れ様ー!」
「はうー!?」
 突然に声をかけられ、びくっと振り返った遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)崎島 奈月(さきしま・なつき)を見てほっとしたように肩の力を抜いた。
「奈月ちゃんかあ」
「ごめんね。びっくりさせちゃった?」
「周りの音全然聞こえてなかっただけだから大丈夫だよ」
「熱心に資料見てたもんね」
「みんなが色々情報くれるから、ちゃんとまとめないとと思って」
「そっかあ。ちょっと見てもいい?」
「うん。もちろん!」
 そう言うと、寿子は少し席をずらし奈月に資料が見やすいように移動する。
「本当にいろいろあるんだね」
「こうして見ると改めて実感するよね!」
 興味深そうな奈月の言葉に寿子が頷く。
「でも、ずっとやってると疲れない? 差し入れ持ってきたんだ! はい!」
「わあー!! マカロン?」
「そう。お気に入りのお店で買ってきたの。チョコのくまさん、抹茶味のカエルさん、レモン風味のひよこさん。動物の顔が描かれていて、可愛いんだよね〜。あ、保冷バッグに入れて来たから、まだ冷たいよ」
「可愛いねぇ。よく行くお店なの?」
「うん。ツァンダ郊外にあるシャイン・マロウってお店だよ。偶然見つけて、月一くらいで買いに行っているんだ」
「有名なお店?」
「どうなのかなぁ。子供とか女性に喜ばれるお店を目指してるみたい。季節ごとの商品に力を入れてるのかなー。春はその年毎のテーマに沿ったもので、夏は、ジュレとか涼味を感じるもの。秋は、時期の果物を使ったタルトとかで、冬は、とにかく苺祭り」
「じゃあちょくちょく行っても飽きないね」
 お菓子と奈月との会話で一息入れた寿子は、しばらくするとふたたび作業へと戻った。 

 目覚ましの音がと鳴り響き、黒崎 天音(くろさき・あまね)はタシガンの国軍駐屯所の一角にある、駐留武官に宛がわれた一室のベッドで目を覚ました。
「……。ブルーズ……服」
 手を伸ばしてアラームを消してから、暫くベッドの中でもぞもぞしているものの、いつもなら小言と共に服とブラシを持って現れるパートナーの足音が聞こえないのに、ゆっくりとベッドの上で身を起こした。
「……そういえば、里帰り中だったか」
 するりと裸のままシーツから抜け出るとベッドを折り気怠い足取りでクローゼットに向かうと、中にずらっと用意されていたパートナーの留守中の日数分の服を引っ張り出してとりあえずシャツと下着だけ身に着けて、続きの部屋にある執務室へと向かう。
 代王に課せられた夏休みの宿題に関して、書きかけのレポートに向かって執務机の椅子に腰を降ろすとさらっと書き上げ、「以上、タシガン駐留部隊の軍務に滞りなく」と最後を締めくくった。
 朝食のコーヒーとゆで卵を食べて頭がはっきりした所で、きちんと着替えを済ませると、タシガン空峡に面するタシガン空港で早川 呼雪(はやかわ・こゆき)鬼院 尋人(きいん・ひろと)とともに香菜を迎えた。
「体調は大丈夫なのか?」
「もう大丈夫よ。早く後れを取り戻さないと」
 気遣わしげな呼雪の声に、香菜は明るく応える。
「とりあえず、タシガン駐屯所に向かおうか」
「そうね」
 香菜を連れて駐屯地を歩きながら、天音は説明をしていく。
「ここは市街地でも、物資運搬の面から空港に近い位置にある駐屯所なんだ。貴族の城や屋敷をいくつか買い上げ繋げて作られていて、華やかで重厚な外観は近代的な軍事施設にはあまり見えないかもしれない。制服姿のシャンバラ種族国軍兵士が門を守っているのでそれと知れる、といったところか」
「確かに、そういう印象ね」
 案内を受けながら見学していた香菜が同意する。
「タシガンの民との折衝も行う為、一部は大使館の様に来賓を持て成す施設もあって、タシガンの見所の一つでもある、美しい薔薇園を備えているんだ。駐屯地の案内はこれぐらいかな」
「ありがとう」
「それじゃ、次の目的地まで向かおうか」
 そう言うと、天音は香菜を馬でエスコートする。
 薔薇の学舎正面に着くと、待ち構えていた尋人が騎士として片膝を付き、丁寧に香菜に挨拶する。
「ようこそ、タシガンへ」
「よろしくお願いします」
 挨拶を返した香菜を優しくエスコートすると、今度は自らが部長を務めるタシガン馬術部の馬の上へと誘導する。
「女性は敷地内には入れなくて申し訳ないけれど……」
「周辺を見学させてもらえるだけでも嬉しいわ」
 そう謝罪した上で、広大な薔薇の学舎の敷地外周をゆっくりまわり、外から見える場所から馬場を案内していく。
「みんな、毛並みがすごく綺麗ね」
 遠目からみても分かる綺麗な毛並みの馬たちが何頭も走っている様子に、香菜が声を上げる。
「イベントがあると町の人に来てもらって体験乗馬してもらうんだ。学舎内の喫茶室に来れる機会があれば……普段は女子生徒は立ち入れないけれど、例えば喫茶室をリニューアルした時とか、特別な行事で解放されることもあるから、そういう機会に遊びに来て欲しい」
「そうね。機会があったらまた教えて欲しいな」
 香菜の言葉に尋人が頷いた。
 そうして香菜を馬に乗せて案内しながら、尋人は別の人物のことを思い出していた。
 今は手が届かない、遠くにいる彼のことを。
 そんなウゲンと初めて出会った場所がある、黒薔薇の森のあるタシガンの森まで、色々と説明しながら香菜を誘導していった。
「疲れてないか?」
「だから大丈夫だって。心配しすぎよ」
 相変わらず気遣わしげな声をかける呼雪に、香菜は思わず笑ってしまう。
「香菜ちゃーん、元気そうで良かったよー!!」
 と、突然ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が飛び出してくると香菜の手を握りぶんぶんと上下に振った。
「ひ、久しぶりね」
「久しぶりー!!」
「ほら、行くぞ!」
 ヘルのテンションに圧倒される香菜の姿に苦笑いを浮かべながら、呼雪が二人を先導して進み始める。
 少しの間共に馬で進んだ後、徒歩でしか先に進めない地点へと差し掛かった。
「ここで降りてもらっていいかな?」
「わかったわ」
 呼雪は先に馬を下りると香菜が降りるのを手伝う。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 ヘルは一人馬を下りて、森の奥を見つめていた。
「タシガン領主の館、タシガン宮殿の向かいに広がるタシガンの森の奥にあるのが、この黒薔薇の森だ。その更に奥に、ウゲンが眠っていた墓所がある。以前は夜な夜な吸血鬼が集まっていたけれど、ウゲンが目覚めてからは訪れる者もなくひっそりとしているよ。因みに、吸血鬼達はウゲンの眠りを守る為に集まっていたようだ」
「黒薔薇の森が生まれたのは、ウゲンが約5000年前に干渉してタシガンと吸血鬼を作りナラカヘ行く為に眠りに就いた時だから意外と最近なんだよね」
 歩きながら説明する呼雪にヘルが補足する。
「なるほどね」
「あ、そうそう。それから、この森の奥にしか咲かない黒い薔薇があって薔薇学の新入生は度胸試しに取りに行かされる試練がある……らしいよ」
「そうなの!? 新入生の人数によっちゃ大変ね」
「あははは。確かにね」
 薄暗い森の中で香菜とヘルの楽しそうな声が響く。
 吸血鬼は来なくなったとはいえ、蔦で獲物を捕らえようとする植物系のモンスターが潜んでいる為呼雪は遭遇してもすぐに倒せるよう注意しながら進む。
 奥の墓所にたどり着くと、呼雪はウゲンの話をはじめた。
「ウゲンは……不器用な奴だった。兄の背中が大き過ぎて、普通の兄弟のように接する事が出来なかったんだ。自分の寂しさに気付く事も出来ず、どんどん歪んでいってしまったんだろうな……」
 呼雪はそう言いながら、香菜の顔をそっと見詰める。
 香奈は無表情で墓所を眺めていた。
「――記憶に無い、私のもう一人の兄」
 どんな感情を抱けば良いのか躊躇っている。彼女の横顔には、そんな気配があった。
「……かつて、その力で世界を壊そうとした人」
 香奈が零すように呟く。
 呼雪はゆっくりと再び墓所へと視線を戻し、しばらく自身もそれを見つめた。
 少しの間を置いて。
「さて、そろそろ行こうか」
「そうだねー。お店に電話しとこう」
「ええ」
 ヘルと香菜は頷くと、3人はタシガンの薔薇に向かって歩き始めた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
 タシガンの薔薇の正面に着くと、入り口近くでエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)が優雅な仕草で礼をし、3人を迎えた。 
「ずっと外にいるんですか?」
「いえ、先ほどヘル君から連絡を貰ってお迎えに上がっただけです。ご心配いただきありがとうございます。今回は取材ということですのでお迎えに上がりましたが、普段は店内でお出迎えさせていただいております」
 心配そうな香菜の言葉にエメはにっこりと笑って答えた。
「さ、参りましょう」
「はい」
「街全体が霧に包まれまるでゴシックホラーのような趣のあるタシガン市内。その一角に【タシガンの薔薇】はあります。周囲に溶け込む古めかしい佇まい。瀟洒な鉄門を潜ると手入れされた庭が灯りの零れる趣きある屋敷に続いています」
 エメは店の紹介をしながらゆっくりと進む。
 一同が玄関アプローチにさしかかると、扉が内より開き外観にふさわしい貴族の邸宅のような店内から柔らかな美声の青年があらわれ一礼をした。
「いらっしゃいませ。ようこそ、【タシガンの薔薇】へ」
「わあ……!」
 促されて足を踏み入れた香菜はその内装に思わず声を上げた。
「店のもう一つの特色が【ホスト】だよ。壁にはその日務めているホストの顔写真が格式を損なわないように肖像画の形で並んでいてお客様はその中から自由に指名できるんだ」
 リュミエールが肖像がを示しながら説明する。
「僕も在籍ホストの一人で、源氏名は【ブルームーン】。ちなみに源氏名は全員、薔薇の名前なんだ。ホスト、と言っても本来の言葉の意味【客を接待する側の男主人】に近くてお客様をおもてなしし同席をして会話を楽しんで頂く感じだよ」
「なるほどね……」
 徹底された雰囲気に圧倒されながら、香菜は個室のVIPルームへ案内されると席についた。
「タシガンの薔薇は、そんな趣きある【ホスト喫茶】です。アルコール類は一切出ませんが、名物のタシガンコーヒーとそれに合う各種のスイーツが楽しめます。コーヒーの淹れ方にもスイーツの選定や質にも徹底的に拘っておりますよ。なお、各地に支店も展開しています。エリュシオン店や西カナン店、それから空京万博の終了と共に閉店しましたが伝統パビリオン内でも出店していました」
「すごいですね」
 柔らかな物腰で流れるように話すエメの説明に香菜は耳を傾ける。
「店内や外装の写真や簡単な資料は準備しておきましたので、ゆっくり楽しんでいってくださいね」
「あ、はい。ありがとうございます」
 完璧すぎる気遣いに香菜は思わずため息を漏らした。
「真面目な話、薔薇の学舎には社交界とかパーティとかホストをする機会が皆無じゃない生徒も多いからね。その予行演習として在籍してる人もいるよ。だからお触りとかそういうの一切無し。未成年でも男性でも安心して来店してね」
 リュミエールが補足する。
 机の上には、コーヒーやスムージーの他、取材用と称して現在出しているスイーツが全て美しく並べられた。
「さて、と。僕の源氏名はカミーユだよ。呼雪が銀嶺」
 ヘルはそう言うと、呼雪とともにもてなしをはじめる。
「「いらっしゃいませ」」
 そこへ天音と薔薇のドレスシャツを着用した尋人も現れた。
「僕の源氏名は黒真珠だよ」
「オレはローラ。はい、これお土産」
 天音に続いて名乗ると、尋人は香菜に「ショコラティエのチョコ」をお土産として渡した。
「ありがとう」
 彼らは今度はホストとして、しばし香菜をもてなすのだった。