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第四課題 実地研修

 リネン・エルフト(りねん・えるふと)は蒼空学園OBとして今回の企画に参加すべく、申し出た。
 約束の場所に企画者の代理人である生徒が到着すると、リネンは早速説明を始める。
「これから行く『蜜楽酒家』は、タシガン空峡の沿岸、港町カシウナから小型飛空艇で半日ほどの島にあるエスニックな酒場よ。空賊たちの間では有名なたまり場で、仕事のあっせんや仲間を集うものが訪れることもあるわ。特筆すべき点は私やフリューネのような義賊から、ならずもの空賊まで様々な人々が諍いなく集まる点ね」
 そう言いながら、リネンは蜜楽酒家の扉を開ける。
「『蜜楽酒家』はタシガン空峡の空賊たちにとって中立地帯で、店内での争いはご法度とされているわ。それを成し遂げているのがほら、あそこにいる女将、【マダム・バタフライ】の人徳よ。40代前後のふくよかな婦人だけど、様々な空賊の間に無視できぬ影響力を持っていて、面倒見の良さでも知られている。もしあなたが……不幸にも……タシガン空峡の裏社会に関わる必要がある時、彼女を頼りにしてみるといいわ」
 その言葉に興味深そうにじっとマダム・バタフライを見つめる生徒に、リネンは釘をさした。
「ただし興味本位ならやめておきなさい。命が惜しければ、ね」

 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)はイルミンスール大浴場の入り口で調査担当の生徒と合流すると、説明しながら中へと進んでいく。
「ボクが紹介するのはイルミンスール大浴場だよ。イルミンスールは大図書室が有名だけど、大浴場も事もぜひみんなに知ってもらいたいね〜」
 一歩中に入るとがやがやとした楽しげな声がいたるところから聞こえてきた。
「この大浴場は世界樹イルミンスール内部の地下にあって、規模も物凄く大きいんだ。まず目を引くのは一番大きな大浴槽。イルミンスールは生徒の数が1500人近くいて、その多くがイルミンスールの中にある寮で生活してるからね。だから第浴槽の大きさは並じゃないんだ。ま、魔術の実験や研究に没頭して、お風呂に入らない人も多いんだけど、そういう人は大体友達なんかに引っ張って来られてそのままこの大浴槽に放り込まれてるよ」
 活気溢れる浴場の様子に、生徒も頷きながら続く。
「この大浴槽以外に、サウナや電気風呂に泡風呂、打たせ湯や足湯など大小様々なお風呂があって、まさに一大温泉施設って感じかな。あ、そうそう、イルミンスールは西洋の慣習にならってるから、ここのお風呂は男女混浴なんだよ。脱衣場は男女で分かれてるから、そこでみんな水着を着るんだ。ちなみにボクのお気に入りはハーブ湯。イルミンスールの森で採られたハーブを使ってるんだけど、これが毎日ハーブの種類や調合を変えたりして、全然飽きないんだ。イルミンスールの森は自然豊かで、未だに見た事も無い植物もあるからね。希少なハーブが使われた日にハーブ湯につかる事が出来たりすると、ほんとラッキーだよ」
 それぞれの風呂の横で実際にお湯に触れたりしながら、順に回っていく。
 ハーブ湯からはなんともいえない落ち着く香りが漂っていた。
「あと、これだけの規模で沢山の人が利用するから、大浴場で暴れたり、脱衣所を覗こうとする人なんかもいるんだけど、そういう人達はもれなく風紀委員に連れて行かれるから、あまり羽目をはずし過ぎない方がいいかな。ザンスカールの森の精ざんすかなんかはトラブルに巻き込まれて、流れるお風呂で浮いてるのをよく見かけるよ」

 空京大学で担当生徒と合流した藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は楽しそうに文化人類学研究室へと誘導していく。
「私からは、パラ実空京大分校は文化人類学研究室を紹介させて頂きますね。その分野の収蔵品が素晴らしくて、良いところですよ。例を挙げれば、「インカ帝国の神殿で、生け贄を捌くのに使われたナイフ」「清朝の拷問器具」「ネイティブアメリカンの武器」「干し首」「さくらんぼ」(※干し首)等ですね」
 担当生徒は明らかにドン引いているが、優梨子は楽しげに続ける。
「当方は専攻の学生として。日々利用させて頂いております。先ほど申し上げた干し首は、当方の手作りだったりするんですよ? えっへん。うむ、この機会に、「だんご」(※干し首)と「けん玉」(※干し首)も収めさせて頂きましょう」
 優しそうな外見からは想像もつかないような内容の話を連発され、担当生徒は目を白黒させながら説明を聞いている。
「人を集める催しの会場としたり、主催コミュニティ(さくらんぼの会)の根城にしたりもしています。個人的には、空大におけるパラ実勢力の牙城・橋頭堡とせんと目論んでおります……と申しますか、そろそろ既成事実化していませんか? 首狩族をはじめとするパラ実系勢力の出入りが多く、楽しい場所であります。その手の集会を催している時など、殺気を伴って突入して頂ければ、首獲り合戦になって楽しいですよー。一生に一度は、是非どうぞ」

 担当生徒が空京神宮にたどり着くと、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)安芸宮 稔(あきみや・みのる)が出迎えてくれた。
「私達が紹介するのは空京郊外にある神社、「空京神宮」ですね。別名、「天鳥船」(アマノトリフネ)ともいいます。神社は葦原にも有るみたいですが、こちらは「地上の神社」を空京の人達の為に立てた物で、結構違うのですよね。流石に年末年始は稼ぎ時なので自宅に戻りますが、それ以外では稔共々神職見習いとして此処の手伝いに駆り出されたりしますね」
 和輝が神社の概要を説明すると、クレアが前に進み出た。
「私は……神社には入れませんので、外を紹介させてもらいます。神社の上は飛行禁止空域でして、色々と面倒ですが……それはこの地の複雑性を示していますわね。ですから、交通は広大な駐車場と地下鉄「空京神宮」に頼っています。和輝曰く、東京駅丸の内の光景みたいと言われていますが……良く分りませんわ」
 そこまで説明を終えるとクレアはすっと後ろに下がり、和輝に目で合図を送る。
「じゃあ、中に入りましょうか。……主に初詣やお宮参りといった物のスポットとして一般に知られている比較的にぎやかな「外宮」と一部神職と日本神族系英霊等では入れない強固な結界に守られた「内宮」から成っていて、それを「お宮の森」「参道」でガードする構成になっています」
 和輝の説明に、生徒は境内の建築物などについても質問をし、メモを取っていく。
「私が紹介できるのは「外宮」迄ですね。神職の息子といえども、正式な業はまだですので……仕方ないですか。ここは、巫女さんや陰陽師の修行の場にもなっていて、やたら広い事を除けば伊勢神宮に似た場所で、地上の神道との交流を計る為の施設でもあるので地上からも神職や学生達が交流に上がって来る事も多いですね。また、此処には複数の神社が有り、空京稲荷等が知られていると思います。「お宮の森」は一種の異空間であり、下手に迷い込むと遭難しかねないとんでもない場所ですが、代わりに静かなので良く修行する人が庵に籠っていたりします。私からは……以上ですね」
 そこまで説明すると和輝は内宮へと繋がる締めの手前で静かに一礼する。
「私は……「内宮」を紹介させてもらいます。とはいっても、私も滅多に入れませんから何とも言えませんが、此処は天照大御神を祭る本殿が有る以外は強固な結界が有る以外は普通の神社でして、穢れを入れない為に立ち入りを制限しているに過ぎません。また、他にもありそうですが、未だに聞かされていないのですよね……全く。私からもお話できるのは以上ですね」

 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は鬼鎧用武装鍛造所の前で、調査担当生徒の姿を見つけると、軽く手をあげて挨拶をした。
「俺が紹介する施設は「鬼鎧用武装鍛造所」だ。通称「鍛冶場」と呼ばれてるな。主に鬼鎧用装備を造ってる所だ」
 そう言って唯斗が鍛冶場の扉を開けると、刀を鍛える凄まじい音が聞こえてきた。
「中結構うるさいから、俺の声が聞こえなかったら合図してくれ」
 唯斗の言葉に生徒は頷く。
「製造工程も一部なら公開して良いって許可済みだ。例えば鬼鎧の基本装備である鬼刀。アレは鍛冶師でも名匠と呼ばれる方々が数十人単位で鍛え上げてたりする。実は名刀なんだよな。まぁ、イコン相手に斬った張ったするんじゃそれ位じゃないとってのも有るけどな。最近じゃ契約者になって鬼鎧に乗って打つ鍛冶師もいるな。そっちのが少ない人数で効率良く同サイズの物を造れるから良いんだけど……。いかんせん、ソコまで出来る様になって鍛冶師としての腕も反映出来るのはまだまだ人数不足の状態だ」
 実際の現場を歩き回りながら、唯斗は分かりやすく説明していく。
 唯斗はちょくちょく鍛冶師に話しかけ手を止めてもらうと、作業内容を実際に紹介していった。
「特に鬼鎧は天学の系列ともちょっと違う特殊なイコンだ。イルミンのアルマイン系のが近い気はするな。他にも試験的に対戦艦用の大太刀とかの作成も行われてる。いわば明倫館と鬼鎧の隠れスポットだな」

「お、待っとったで〜。ゆっくりしてってな」
 奏輝 優奈(かなて・ゆうな)は、調査に来た生徒とひとしきり雑談をすると、早速雪だるま王国の王立精霊魔法研究所の中へと進んでいく。
「簡単に言うと、精霊の魔術とか魔法について研究する施設、やなぁ。最終的な目的とか色々あるけど、ウチはそんな細かい事は気にした事ないんやなぁ、これが。ほとんど、施設だけ借りて自分の研究させてもらっとる感じやな〜。まぁ、全く被らへん内容なわけでもないけど」
 生徒は頷きつつ、優奈の後を付いていく。
「ほな、紹介していくで〜。ここは地上2階、地下1階で構成されとるんや。まず地上一階から。ここには研究室と講義室があるんや。まぁ細かい説明は不要やなぁ。研究したり、講義したりする場所やな」
 廊下からざっと各部屋の入り口を見回すと、階段を上がって上のフロアへと進んでいく。
「次に地上二階。ここには資料室、仮眠室、購買があるで〜。資料室の資料の量はごっついで〜。ウチもたまにお世話になっとるし。仮眠室は和室と洋室があるんや。寝とる人もおるから静かにな〜。……和室の障子が人型に破れとるって? あっはっは、気にしたら負けや!」
 大らかに笑い声を上げる優奈に、生徒のほうが仮眠室のほうをびくびくと窺う。
「購買は購買やな。文具やら食べ物、飲み物があるで〜。ここに置いてあるジンジャーエール、ウチ好みの味なんや。飲んでみる?」
 少し貰って飲んでみると、確かに甘さと辛さのバランスが良く美味しかった。
「さて、最後に地下一階やな。ここは実験室がたくさんあるんや。簡単な実験用の部屋とか専門的な実験する部屋とか、色々分かれとるんや。ウチも、ここの部屋借りて実験しとんやで〜。ここの部屋がそうや。あ、そこらへんの物に触ったらあかんで〜、爆発する物とかもある……って言っとる傍から! こらぁー!」
 王立精霊魔法研究所に若干の焦げ臭さが広がった。