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リアクション
第三課題 発表
「この都市は、他国との交流も無かった当初は地方の小さな一都市でしたが、様々な異変や精霊との交流、帝国、そしてザナドゥとの戦いなどを経て、現在は大きく変貌を遂げつつあります」
まずステージに上がったアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)がスクリーンを前に解説を始める。
「国境近くという立地から、現状は他国へ向かうときの玄関口のような役割を果たしています。しかし、かつては他国との交易が行われていた痕跡もある土地ゆえに、国外との交易が活発になればより一層の賑わいを見せることは間違いないでしょう」
説得力を持って語られる言葉に、聴衆は聞き入ってしまう。
「現在、街はかつての旧イナテミス市街に加え、旧市街を囲む3つの精霊の都市、そしてウィール遺跡と氷雪の洞穴とにより構成されています。防備については精霊の都市や、ニーズヘッグの殻や鱗を仕込まれた多数のゴーレムやガーゴイル(普段は土木作業等に従事)により国境の町に相応しい堅牢さを誇っています」
次々と切り替わる映像に合わせ、よどみなく説明が続いていく。
「中心部には平和の象徴としてイナテミス精魔塔がそびえ立つ他、市街には魔法学校を中心とした契約者達の援助により複数の施設が建設されました。イナテミス市民学校などはその一例で、この学校は市民へ一般教養を教えている他、魔法学校生徒の一般教養の補完にも利用されています。ちなみに、私の義理の娘の聖少女達も勉強に利用していますが、害虫は私が実力で排……」
ぶつっと音が途切れる。
「……失礼。また、人口構成も特徴的であり、元々の住民に加え、イルミンスールと契りを交わした精霊達、先の戦いの後に残留した帝国の旧第五龍騎士団、また、ザナドゥから移住を希望してきた魔族も居住しています」
一瞬会場の空気が凍りついたものの、PA担当の機転により滞りなく共存都市イナテミスの紹介が終了した。
続いてステージに上がったのはネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)だった。
「さっそくですが、皆さんは百合園女学院に温室があるって知っていますか?」
スクリーンに表示された温室の画像を示しながら、ネージュが説明を始める。
「オバタ・マナーブ先生が管理されている温室なんですが、ここは普通では考えられない植物があることで知られています。食虫植物の、通称『タネ子さん』」
表示されたタネ子さんの姿にどよめきが起こる。
「触手を這いまわらせて、近づいた生徒を襲うそうです。それを楽しみに、温室を訪れる生徒もいるようですけどね」
聴衆から笑いがもれた。
「あとこの温室には、温泉がわきだしているとか、タネ子さんの頭、いわゆる花弁が好物のケルベロスが番犬代わりにいるとか言われています。いつもは鍵がかかっているんですけどね」
そう補足するとネージュはにっこりと笑った。
「皆さんも、良ければ是非一度いらしてくださいね」
交代でイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)が自分の職場を紹介するべく、ステージに上がった。
「私が紹介する施設は海京の西地区にある『極東新大陸研究所・海京分所』よ。……まぁ、海京は正確にはパラミタじゃないかもしれないけど。勘弁してね。一応、施設の所在は今のガイドにも載っているはずよ」
がさがさと資料を確認する音が観客の間で起こった。
「極東新大陸研究所のあらましはガイドにもあるから簡単に。ロシアのウラジオストクに本部をおくパラミタに関する研究機関よ。海京分所の設立は天御柱学院と提携した2018年から。現在ある支部の中では一番パラミタに近い場所、いわば研究の最前線ね」
スクリーンに図式を表示しながら説明していく。
「ここでは何を研究しているか、だけど……一言で言うなら『パラミタに関するすべて』よ。場所柄、イコンや超能力・強化人間に関する研究が盛んで有名だけれど、中にはパラミタの資源や語学、文化みたいな社会学的なことを研究する…言い方は悪いけど、地味な部署もあるわね。要は『パラミタという世界が、いかに地球にとって益になるか』を研究する施設と言ってもいいわ」
流れるように解説が続くが、さすがは現役講師だけあって、資料や身振りをうまく使い、聴衆を引き込んでいく。
「新たな発見を受けて、新部署や研究チームができる事も多いわね。私のいるバーデュナミスの研究部門も『重層世界のフェアリーテイル』事件からできたところね。今も優秀な所員は引く手あまた、随時募集中よ。自信があって、新しい技術に触れてみたいという人、よかったら一緒に働いてみない?」
ざわざわと騒がしくなったのを見ると、イーリャはすかさず続けた。
「……怪しい研究の噂? うん、よく言われるわね。非人道的な研究とか、人体実験とか……昔、一部にそういうことがあったのは残念ながら事実よ。でも今は少なくとも違法とされているし、おこさないよう努力しているから。あまり怖がらないでほしい……って、職員がいっても信用ないかしらね?」
その性格が現れた優しい語り口でそう締めくくると、聴衆からはどっと笑い声と拍手が起こった。