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リアクション
■ 竹の葉ずれに紛らせて ■
ニルヴァーナでのお月見。それも、池や竹林までしつらえてのものだと耳にして、レイカ・スオウ(れいか・すおう)は興味を惹かれた。
お月見というだけで何だか心が弾むのに、その上周囲の景色まで凝っているというのだから、きっと素敵に違いない。
ここをカガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)と一緒に歩けたらさぞ幸せだろう。
そう考えたレイカは勢いでカガミに言ってみた。
「ニルヴァーナで月冴祭っていうお月見の行事があるんです。それであの……一緒に行ってみませんか?」
「月見、か」
「はい。小舟に乗ったり、竹林を歩いたり出来るらしいですよ」
一緒に行きたいとの想いをこめて誘うと、彼にとって月見の文化は馴染みが深いらしく、カガミはあっさりと了承してくれた。
和風の行事だからと、レイカはお洒落して和服を着ていった。
「いいもんだな。変わった場所で月見をするのも」
そのお陰でレイカの和服姿を見られた、とカガミは目を細めた。
「和服を着ても変わらず綺麗だな」
「そ、そんなこと……」
レイカは狼狽して目を伏せる。
「もう少し自分に自信を持ってくれれば一番なんだが、な」
カガミがそう言ってくれるのは嬉しいけれど、だからといってすぐに自信など持てるものでもない。
レイカは視線を上げられないまま、カガミと寄り添って竹林を歩き始めた。
秋風に揺れる竹林と、その間からこぼれる月光の風情。
竹林の散策もお月見も、もちろん楽しみではあるのだけれど……レイカにとって一番の楽しみは、カガミと一緒に歩くこと。
小さな灯りに照らされた細い散歩道を……ただ寄り添って歩くこと。
道が狭いから、寄り添わないと歩けない。
カガミと肩が触れるたび、レイカの心臓は跳ねる。
レイカがカガミの恋人になってから、もう1年以上が経つ。なのにカガミに対するときめきに、慣れることはない。
改めてこうして一緒に歩けること。それがとても……。
「……幸せです」
ふと口からこぼれた言葉に、レイカは慌てて口元を押さえた。
こんなことをカガミに聞かれてしまったら……!
冷や汗の出る思いでそっと窺ってみると、カガミは優しい微笑を浮かべてレイカのほうを見ていた。
カガミと目があった途端、レイカの頬に朱がのぼる。
そういえば……2人同じ布団で夜を過ごしたあの日から、なんだか気恥ずかしくてあまりカガミと話せていなかった。
思い出してしまうと恥ずかしくなって、レイカはどんどん赤くなる。
けれどここから逃げ出すとか、カガミと離れるとか、そんな選択はレイカにはあり得ない。
むしろ……。
一緒に寄り添い歩くだけでは物足りないと感じる自分がいる。
(でも散策路では恥ずかしいし……)
いつ誰が来るとも分からない道ばたではキスも出来ない……と視線を移せば、竹林の少し離れた場所は灯りもあまり届かず薄暗い。
(ここならバレないからいくらでも出来そう……って、私は一体何を!?)
口に出したわけでもないのに、レイカは焦って首を振る。
そんなこと期待しているだなんてと、1人で真っ赤になっていると。
レイカの腕をカガミが取った。
「え……?」
聞き返す間もなく、腕を取られるままにレイカは竹林の奥へとカガミに引かれた。
竹を揺らして奥に入り込むと、どちらからともなくキスをする。
あの夜を過ごしてからはもう、触れるだけ、寄り添うだけでは物足りない。
竹の影とざわめきに隠れながら、レイカとカガミは互いの熱を確かめ合うのだった。