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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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 ■ メガ盛りのプロポーズ ■



 月が綺麗だ。
 地球のものではないのに。それどころかパラミタのものですらないのに。
 平凡な人生を送っていた筈なのに、気付けば随分遠くまで来てしまったものだと、皆川 陽(みなかわ・よう)は別世界の月をしみじみと眺めた。

 自分が地球を離れ、こんなところまで来るようになるなんて、以前は思ってもみなかった。
 いや、今だってそんな実感は無い。
 どうしてこんなことになっているのか。その理由は簡単だ。
(全部契約の所為だよね。あれで自分の人生狂ったよね)
 普通に学校に行き、普通に就職し、平凡な日々を送るんだと思ってた。思ってたというより、それ以外の道があるなんて考え自体が無かった。
 なのに、おかしな幽霊もどきだったテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)に出会い、自分の意思や希望とはまったく関係なく、契約者になってしまった。そんなものになりたいと思ったこともなかったし、契約を頼んだわけでもなかったのに。

 そんなことを思い返しながら目を正面に戻せば、そこでは元凶であるテディが甲斐甲斐しくお茶や月見菓子を並べている。
「お茶はまだ少し熱いから気をつけるんだよ。主が火傷でもしたら心配しちゃうからなー」
「うん……」
 陽は生返事だけれど、そんなことには慣れっこのテディは気にせず、お菓子を取り分けてくれる。
「最近、陽が激頑張ってるからお菓子も大盛り大サービス。僕の気持ちも大盛り出血スーパーサービス、盛っちゃうかんね、盛っちゃうかんねー!」
「ってテディ、これ触ったら崩れるって絶対」
 団子タワーを前に陽は苦笑する。
「そんなに盛って貰うほどのこと、ボクしてないし……」
「そんなことないない! 陽が手をかけてるから、お花もキレイに咲いてるしー。この間のときだって……」
 前までのテディは、ただ無闇に好きだ綺麗だと褒めるだけで、よく陽を苛つかせもしたけれど、最近は違う。きちんと陽がしている活動を見て、良いと思うところを褒めてくれる。
 誰かがそうして、自分のことを見ていて、それに対して褒めてくれる、というのは嬉しくない訳ではないけれど。
「そんな陽が大好きだー! 好きだ好きだ好きだーー! 愛してるぞー! どーだまいったかー!」
「ちょっとやめてよ。そういうこと大声で連呼するの」
 他の小舟と距離はある、とはいえ、池に響き渡るような声で言われたら困る。陽は慌てて止めたけれど、テディは全く恥ずかしくないようで、堂々と好きだと陽を見つめる。
「僕はそんな陽が大好きだ。僕の心も身体もありったけ全部主君のもの、全部捧げる、一切合切ありったけメガ盛り陽のもの。だから――結婚してくれ」
 まったく陰り無い真剣な表情でそう言われ、陽はしばらく黙り込んでテディのことを考えてみた。

(テディは好きだ愛してるって言うけどさ、コイツのボクへの接し方って、守るとか仕えるとか、そーゆーノリだよね)
 古王国では騎士階級だったというから、テディにとってそれは普通の感覚なのだろうけれど。

 でも、陽は日本人で、男で。
 ――だから、自分を守ってくれる騎士なんて、意味分からないし、いらない。
 陽は男だから、女の子に自分の力を認められて自分のものにするのが望みで。
 ――だから、隣に顔が綺麗で強くて器用でなんでも出来る男にいられるのは、邪魔以外の何物でもない。
 陽は他人と社交的に会話するとかがなかなか出来なくて、悩むことも多い。
 ――だから、その手のことを、息する程度の感覚でこなしてしまうテディのことが、正直大嫌いだ。

 それでも……陽はテディと一緒にいる。
 平凡人生の道を強制ドロップアウトさせられてからずっと、状況に流されるばかりで自分では何も選んで来なかったけれど、人のせいにしてばかりではなくて、自分で決めないといけないのだろう。
 だから陽は、結婚してくれというテディに笑顔を向けた。
 満月の光に照らされて、小舟の中に2人きり。
 そんな、プロポーズにぴったりなシチュエーション。
「陽……」
 身を乗り出さんばかりのテディへと、陽は告げる。
「い・や・だ」
「ガーーーーン!!!」
 描き文字が見えそうなショックを受けて、テディが倒れた。積み上げた団子を道連れに。
 やっぱりこういう反応かと、陽は笑いながらテディに言う。
「下僕が主君を欲しがるとか、そーゆーのおかしいでしょ? だから――」

 ――下僕でなくて友達になってくれたら、いろいろさせてあげる。

 悪戯っぽく告げた陽に、テディは声にならない叫び声を張り上げた――。