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リアクション
■ お餅は三等分に ■
たいむちゃんから餅を貰うと、七枷 陣(ななかせ・じん)たちは小舟に乗り込んだ。
小舟を漕ぐのは陣。その向かい側で、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)と小尾田 真奈(おびた・まな)が貰ってきた月見菓子やお茶を並べ、月見の用意をする。
「この辺りでええかな」
小舟乗り場からかなり離れた竹林寄りまで行くと、陣は小舟を漕ぐのを止めた。
「お茶もお菓子も用意出来ました。お月見パーティですね」
真奈が微笑み、リーズは陣の手を引っ張る。
「陣くん、はやく食べようよ。ボクもう待ちきれないよっ」
「待て待て。まずは団子よりこっちやろ」
お菓子に伸ばしたリーズの手を制し、陣は月うさぎの餅を取りだした。
それを三等分して、リーズと真奈に渡す。
このお餅を分け合って食べると、その2人は永久に結ばれる。そんな伝説のある餅だけれど、陣が食べるとすれば2人ではなくこの3人で。それ以外はあり得ない。
仲良く3人で餅を食べると、リーズはさっそく団子をぱくりと食べ、真奈はお茶のお代わりを準備する。
「お月見団子、美味しいねっ」
「リーズ様、あまり急いで食べると、喉に詰まってしまいますよ。はい、お茶のお代わりをどうぞ」
「真奈さんありがとー。もう1個食べちゃお」
リーズと真奈が楽しそうに話しているのを聞きながら、陣はのんびり月を見上げた。
夜空にくっきりと、けれど静かにある月を見ていると、陣の脳裏に様々な思い出が浮かんでくる。
今まで色んなことがあった。楽しかったこと、幸せに思えたこと。そして……少し前に起きた、とても悲しかったことも。いや、悲しいだなんて一言では言い表せない、あれは心抉られる出来事だった……。
そんなことを考えていると。
「お月様が綺麗ですね」
陣の左側に真奈がそっと寄り添った。右の懐にはリーズが飛び込んでくる。
「ボクも陣くんにくっついちゃおー!」
両側を恋人に挟まれて、秋風に晒されていた身体が温かくなる。きっと心までも。
「ご主人様……お慕い申しています」
「ボクも真奈さんと同じくらい、陣くんのこと大好きだよ!」
左右から告げられる想い。
自分もちゃんと伝えなければ。
「有難う、オレを好きでいてくれて。オレも2人が大好きで……愛してる」
言った途端、陣の顔はかっと熱くなった。
「何やこれ、めっちゃこっ恥ずかしいんやけどっ」
想像以上の恥ずかしさに慌てる陣の右手を、リーズがぎゅっと握った。
「えへ、ちゃんと言ってくれてありがと」
「私達3人、みんな同じ気持ちですね」
左手に真奈がそっと指を絡めてくる。
人肌の温もりがじんわりと陣の胸にしみた。
色々なことがあって……中にはトラウマになるようなこともあったけれど、今は何とか受け入れて、乗り越えられた……と思う。
それらを胸に抱きながら、陣はリーズと真奈を引き寄せる。
彼女達に、その温もりに、縋るように。
リーズの口唇に、真奈の口唇に、代わる代わる陣はキスを落とす。軽く、そして次第に深く。
月が照らす小舟の中に、幸せな平穏と愛情が満ちる。
どんな時も一緒にいるよとリーズの腕が陣に巻き付く。
幸せですと真奈の息遣いが語る。
しっとりと温かい時間を、陣は身体に染みこませるように味わうのだった。