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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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 ■ 2つのお月さまよりも ■



「ニルヴァーナでお月見かぁ。どんなお月さまなのかな? ドキドキするね!」
 回廊を通る時からもう既に{SFM0018828#南條 琴乃}は小走りで、
「そんなに急ぐと、到着するまでに疲れちゃうよ」
 永井 託(ながい・たく)は何度もそう注意した。
 注意されるとそうだねと琴乃は素直に歩調を緩めるのだけれど、まただんだん速くなる。
 それだけ自分とのお月見を楽しみにしてくれているのかと思うと、託も嬉しくなった。


「あ、もうお月さま出てる! 地球とおんなじで真ん丸だねっ」
 ニルヴァーナの月を見上げ、別世界なのに月は同じなんてねと、琴乃はしきりに不思議がった。
「ほんとだ。きれいな満月だね。あ、琴乃、あれに乗ってお月見しないかい?」
 託が小舟を指さすと、琴乃はうんいいよと2つ返事で頷いた。

 地球にいた頃にも月見はしたことがあるが、舟でというのは初めてだ。
「空と池、2つの月かぁ……1つなのに2つ見れるっていうのもなんだか面白いねぇ」
 綺麗な月が2つも見られるのは得した気分だと託が言うと、琴乃もそうだねと2つの月を見比べる。
「ただ、月の残念なところとしては、どうやっても触れられないってことかな」
 空には届かないし、池は触れたと思っても揺れるだけ。だからこそ見て楽しむものなのかも知れないと感傷に浸る託に、琴乃はうーんと首を傾げる。
「地球のお月さまだったら、宇宙飛行士になれば触れるよっ。ニルヴァーナのお月さまは行くことは出来ないのかな?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
 現実的に触れられるかどうかということではなく、もっとロマンな話なのだけれど。
「まあ僕には月よりもっときれいで、触れられる距離にいてくれる人がいるからいいけれどねぇ」
 そんなことを言いながら、託は琴乃の手をぎゅっと握った。
 琴乃もにっこり微笑んで、託の手を握り返す。
 そうしている間は、託の脳裏から月のことなどどこかに行ってしまい、目の前の琴乃以外は目に入らなくなってしまうのだった。

「そういえばこれもあったんだ」
 託はもらっておいた月うさぎの餅を取りだした。この餅には、分け合って食べると永久に結ばれる、なんて伝説があるのだと聞いたけれど。
「永久にって……なんだかプロポーズみたいだねぇ」
 口に出してみると、なんだか気恥ずかしくて、託は照れた。
 でも。
「永久にということが本当かどうかも分からないし、本当だとしてもなかなかイメージがわかないけれどね、今こうして琴乃と一緒にいるのは楽しいし幸せで……ずっと一緒にいたいと思うんだ。そう思うくらい、琴乃のことが好きで……愛してる。琴乃はどうかな?」
 照れくささに耐えつつ尋ねると。
「私も好きだよ!」
 琴乃は曇り無い笑顔でそう答えてくれた。
「ありがとう。じゃあ……よかったらこれを一緒に食べないか?」
 託は餅を2つに分けると、片方を琴乃に差し出す。
(ああ、やっぱりプロポーズみたいになっちゃってるなぁ……)
 ふとそんな考えがよぎったが、言ったこともしたことも1つとして嘘じゃないからいいかなと、託は思う。
「ありがとう。いただきまーす!」
 嬉しそうに餅を受け取って食べる琴乃を見ながら、託も幸せな気分で餅の片方を食べるのだった。