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死いずる国(後編)

リアクション公開中!

死いずる国(後編)
死いずる国(後編) 死いずる国(後編)

リアクション


ヤマの、シ?
AM9:00(タイムリミットまであと15時間)


「大切な相談が、あるんだ」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が、理子の前に立った。
 彼女の護衛たちが、即座に警戒態勢に入る。
 酒杜 陽一、フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)瀬島 壮太(せじま・そうた)伊勢島 宗也(いせじま・そうや)青葉 旭(あおば・あきら)クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)
 彼らだけではない。
 当初からローズは死人だと断定し、常に彼女を監視していた徹も彼女の後ろに立つ。
 その手には短刀が握られている。
 ローズの周囲はぐるりと取り囲まれた。
 その警戒が、武尊の狙いを定めることを阻害し、結果的に彼女を守っていることになるとは気付かずに。
「……なに?」
 さすがに理子も警戒の面持ちでローズを見る。
「その、そんなに警戒しないでください。十面死も来るということですし、移動しながらお話しませんか? 勿論、護衛の方々も一緒で構いません」
「何が言いたいのですか?」
 徹の短刀が、ローズの背を狙う。
「私の事が信じられないなら、即座に刺して……殺してもらっても、構わない」
 ローズが歩き出す。
 その方向には、崖。
 徹は短刀を構えながら、理子は護衛と共に、警戒しながらローズの後を追う。
 崖を背にして、ローズはやっと足を止め、全員の方を見る。
 一息ついて、告白する。
「私は、ヤマです」
 ローズの告白に、全員が息を飲む。
「やっぱり……」
 呟いたのは、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)
 彼女だけではない。
 この場の人物が、多かれ少なかれローズに対して疑念を持っていた。
 死人ではないか、ヤマではないか。
「どうして……」
 小さな声で問うたのは七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だった。
 徹は即座に短刀を振り上げる。
「待て」
 それを制止したのはダリルだった。
「主様を止めないでくださいませ。たとえ冷酷と言われようと、やらねばならぬことがあるのですわ」
「それには完全に同意する」
 噛み付くシーリーンに真剣な表情で頷いてみせる。
「だが、情報は欲しい。殺すのはいつでもできる」
「黙っていてすいません。これ以上迷惑をかけたくないので、せめて人間のまま……」

 ダダダダダァンッ!

 最後の銃声が響いた。
 武尊のブライトマシンガンによる攻撃は、ローズを踊る様によろめかせる。
 ゆらり。
 ローズの体は崖下に落ちそうになる。
「淵、カルキ!」
「ああ」
「分かってるぜ!」
 ダリルの声に、夏侯 淵(かこう・えん)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が動いた。
 淵はローズに近づくと、一刀両断に彼女の首を胴体から切り落とした。
 その首を、カルキノスは氷漬けにする。
 首をなくしたローズの体は、そのまま崖下に落ちて行った。
「それを、どうするんですか?」
「手土産だ」
 ローズの氷漬け頭部を保冷箱に入れるダリルに、徹が訝しげに問う。
 ダリルは事も無げに答える。
「日本から米軍へのな。話は聞けなかったがこの際仕方ない。頭部だけでもいい研究材料になるだろう」

「ヤマは、死んだのね……」
 理子の呟きに、全員がほっとしたように息をつく。
 ローズは、死んだ。
 あとは、横須賀に行くだけだ。

「何か、忘れているような気もするのですが……」
 首を傾げるイルマに気を留める者は誰もいなかった。

   ◇◇◇

 崖下。
 そこには、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)がいた。
 貴仁は、一部始終を聞いていた。

 ぐしゃり。

 落下してきたローズの体が、貴仁の目の前で衝撃で壊れた。
 胸は潰れ、手は折れた。
「……」
 その体を、貴仁は抱え上げる。
 丁寧に曲がった関節を直し、飛び散った内臓は中に入れる。
 そして、歩き出した。

   ◇◇◇

(信じてる……っ! 仲間ならきっと十面死を上手く誘導して、そしてヤマを特定してくれるって!)
「グァアアアア!」
「キシャァア!」
「ヒャハハハハ!」
「ニゲロニゲロー!」
 千歳は走っていた。
 十面死に追われながら。
(それに、イルマがいる。たとえ周囲の人間を犠牲にしてでも、イルマなら確実にヤマを仕留めてくれる)
 もう少しだ。
 あと僅かで、オヅヌコロニー面子がいた場所だ。
 あの草むらを抜けたら……
「……あれ?」
 そこには、誰もいなかった。
「あれ、皆は、イルマは……?」
「オォオオオ!」
「ミッキャアア!」
「ヒャハハハ……グハァッ! ゲホゲホゲホ……」
「マッテヨー」
 茫然としたのも一瞬。
 後方の十面死の殺気を感じ、慌てて走りだす。

 千歳が無事十面死を撒いて仲間の所に合流したのは、それから数時間後のことだった。