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死いずる国(後編)

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死いずる国(後編)
死いずる国(後編) 死いずる国(後編)

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横須賀基地からの応援
PM12:30(タイムリミットまであと11時間30分)


「美桜ちゃーん!」
「美桜!」
「どこ、行っちゃったのかな……」
「まずいな。あまり大声を出すと他の死人を呼び寄せる可能性もあるしな……」
 横須賀基地から出た聡と結は、迷子になったらしい美桜を探していた。
 とはいえ、ここは死人が蔓延する国、日本。
 人を探していて死人と遭遇する危険性も多大にあった。
「あっ……」
「どうした?」
 ふいに、結がひくりと身を震わせた。
 宙の一点を見つめ、動かない。
 それは、美桜がルースに襲われたのと同時刻だった。
 不信に思った聡がその顔を覗き込む。
「はっ、あ、ん……ごめん、なんでもないよ」
「そうなのか? だったらいいが……」
 がさっ。
「誰だ!」
「……ごめんなさい、驚かせちゃったかしら」
「美桜ちゃん!」
「唯。聡さんも……ごめんなさい。はぐれちゃって」
「あ、ああ。無事ならそれでいいんだ。行くぞ」
「うん」
「ええ。……結」
 聡が歩き出したのを確認して、美桜は結に話しかける。
「……大丈夫?」
「うん」
「何が起きたか、分かる?」
「う、ん……?」
「ええ。私も、よく分からない。……ただ、何か変わってしまったような気がするの……」
 美桜は結と手をつなぐ。
 まだ、その手は温かい。
 しかしだんだんその手は冷えていくことを、結は知らない。
 パートナーの美桜がそうであるように、自分が既に死人であることも、知らない。

「そこにいるのは……聡殿か!」
「聡なら、ハイナから聞いてるよ。横須賀基地にいるって」
「どっちでもいいや。死人か、そうでないかが大事じゃん」
「お前ら……」
 ふいに視界が開け、遠くまで見渡すことができた。
 そしてすぐ側に、知った顔がいることに気づいた。
 聡と結たち横須賀基地の面々と、生き残りの偵察隊、リナリエッタ、アキラ、セレンフィリティたちは対峙した。
 暫しの間、互いを警戒して身構える。
「俺たちは、横須賀基地から来た。そっちは?」
「ハイナから情報を貰って、基地に宝珠を届けている所よ。あたしたちは先行の偵察隊」
 ふっと息を吐き、武器を下す。
 しかしまだ完全に警戒を解いたわけではない。
「ちょうど良かった、話がある」
「俺達にもだ。しかも、緊急の」
 アキラの言葉を聡が引き取った。
 そして語りだした。
 横須賀基地が死人に狙われたこと、コームラント・ジェノサイドが解き放たれたこと。
 そして、タイムリミットが午前0時だということ――
「一刻の猶予もないじゃん。急がなきゃ。私は最初の予定通り、基地に先行してくるよ」
「じゃあ、俺たちも」
「私モ!」
 リナリエッタが一歩前に進み出て、アキラとアリスもそれに続く。
「だが、基地周辺にはイコンが……」
「それに関して、ちょっと聡殿に聞きたい事があるんだけど」
 アキラは聡の耳に何事か囁いた。
「ああ、そこにもきちんと守りがついてる筈だ。だが、潜入口としては有りかもな。しっかり立場を証明できればの話だが」
「ま、なんとかなるでしょ」
「分かった。ならこれを持って行け」
 聡は僅かな荷物の中からペンと小さな手帳を取り出すと、さらさらと何事か書きつける。
 そしてそのページを破るとアキラに渡した。
「どれだけ効果があるかは分からないが、俺からの保証済みってことで」
「ありがとう」
 手帳の紙切れをひらひらと振りながら、アキラとリナリエッタは先に進みだした。

「よし、じゃああたしたちが聡達を本体まで案内してあげるね」
「(……監視、とも言うかもしれないけどね)」
「え?」
「何でもないわ」
 元気に元来た道を戻ろうとするセレンフィリティに、セレアナはぼそりと言った。
 聡はともかく、同行している結と美桜。
 セレアナには、彼女たちのぼーっとした様子が妙にひっかかっていた。

   ◇◇◇

「ふふ、ふ、ふふふ……」
 本体へと戻るセレンフィリティ達。
 そこから大分離れた後方を、ふらふらと歩く影があった。
「私は、生きる。全てを灰にしても、踏みつけても……」
 生気も正気も失った、グラルダだった。

 更に、その後方を歩く人の姿が……
 大きな、妙に大きな荷物を抱えた鬼龍 貴仁だった。
 その荷物は、時折びくびくと動いていた。