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ひとりぼっちのラッキーガール 前編

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ひとりぼっちのラッキーガール 前編

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第13章


 四葉 恋歌がルーツ・アトマイスに衝撃的な一言を投げかけていたころ、更に奥の部屋では今までで一番の爆発が起こっていた。

「うわあああぁぁぁっ!!!」
「オーゥ、どういうことですカぁーっ!?」
 アニーが入れられているカプセルのちょうど真上が爆発した。その衝撃で間近にいたゼブル・ナウレィージと天神山 清明は吹き飛ばされる。
 そこに現れたのは、未来からの使者 フューチャーXだ。

「……ようやくゴールか。まったく、これだけの施設を破壊しつくすのも骨が折れるな」
 そう言うと、フューチャーXは壁から繋がったカプセルへのパイプを一瞬で切断した。
「い、いけないのです……そのパイプを切断しては、その娘の命が……!!」
 清明は爆風のダメージに苦痛の表情を浮かべながらも、フューチャーXへと対峙した。
 まだ身体は動かない、それでも床を這って近づこうとする。
 アニーは不治の病で、それを治療するために呼ばれたという天神山 葛葉の説明を信じきっている清明は、必死でアニーを守ろうとしているのだ。

「……優しい少女よ、心配しなくていい。
 儂はこの少女の命を救うために未来から来たのだ……お主のおかげで彼女はかなり回復した。もうカプセルから出しても大丈夫だ。
 この娘のパートナーに代わって礼を言う……ありがとう」
 そう言うと、フューチャーXは胸元の金色のペンダントを清明の頭上にかざした。
「……ああ……なんだか、安らかな気持ちです……アニーさんが助かって……良かったです……すー……」
 見る見るうちに清明の傷が癒えていく。それと同時に、清明は安らかな眠りについた。
「……ふん!!」
 清明が眠ったことを確認したフューチャーXは、驚くべき怪力でカプセルを持ち上げた。
 それを見たゼブルは倒れながらも声を上げる。
「オーウ、人の研究を横取りですかーっ!!?」
 だが、フューチャーXはゼブルを睨みつけると、一喝した。

「やかましい、この外道めが!! この場で命を奪われないだけありがたいと思え!!」
 懐からスイッチのようなものを取り出したフューチャーX。
「……それは……何ですかァ?」
 ゼブルの言葉に応えるように、軽々とスイッチを押す。

「これは、このビル中に仕掛けた残りの機晶爆弾のスイッチよ。
 これで四葉 恋歌からの依頼は半分ほど……完了する」


 次の瞬間、ビル全体が大きく揺れた。


                    ☆


「おおっ……何だぁっ!?」
 八神 誠一と日比谷 皐月は互いの動きを止めた。
 先ほどから恋歌の声も届いていた。大まかに何が起こっているのかも。
 もはやフューチャーXという邪魔のせいで、互いの依頼どころではないことも分かってきていた。

 機動力とスピードを活かした誠一のトリッキーな攻めに、皐月もまた自らの魔装を全開にして立ち向かっていた。

 鋼糸にも刀にもなる誠一の武器が皐月の首を捉えそうになると、皐月の魔装から氷の塊が誠一を襲う。
 このまま永久に決着がつかないのではないかと思われた二人の戦いは、全くの外的要因で幕を閉じることになった。

「っと、危ねぇ!!」
 皐月が咄嗟に身をかわした。
 フューチャーXが仕掛けた爆弾の爆発で、施設内の天井や壁が崩壊を始めたのだ。
 そもそも、フューチャーXが移動する際に壁や床に大穴を空けて移動していたため、施設は原型を留めないほどに破壊されていた。
 今もまた、誠一と皐月の間に天井が崩れ、通路を塞いでしまった。

「……しょーがねーな。今回も勝負はおあずけか」
 皐月は軽く肩をすくめて、踵を返した。
「……やれやれ、なかなか決着がつかないもんだねぇ。ま、これも腐れ縁ってやつか」
 誠一もまた同様。互いの決着もつかず、依頼も頓挫するようであれば、ここにいる必要はない。


                    ☆


「何だぁっ!?」
 フューチャーXの起こした爆発を受けて、白津 竜造と葛葉は研究室――アニーがいたはずの部屋に駆け込んできた。
 そこには、すでにフューチャーXの姿はない。そして、アニーが入ったカプセルも。
「……持ち去られてしまいましたか……」
 葛葉は床に倒れている清明を抱きかかえ、傷がないことを確認しながら、天井の大穴を見上げた。
「おい、何があったんだよっ!!」
 竜造は床に倒れて満身創痍なゼブルを蹴っ飛ばして、事態の説明を求める。

「オー、パートナーの扱いが違いすぎま〜す……」

 そんなゼブルの呟きを無視して、葛葉は天井の穴から一直線に開いた空を見上げた。
 フューチャーXの仕掛けた爆弾は地下施設からビルを貫通するように多数仕掛けられており、一気にビルと施設を貫いたのだ。


「ずいぶんと無茶をしますね……清明に怪我がなくて良かったですけれど……さて、これで幸輝さんはどう動きますかね……?」


                    ☆


「今の音はなにっ!?」
 まさに研究室に仲間と共に乗り込もうとしていた恋歌は、爆発音に驚き、警戒も忘れて部屋へと飛び込んだ。
「恋歌っ!!」
 ルーツ・アトマイスとの会話の途中だったが、そんなことを言っている場合ではない。
 自分と恋歌との間に生じている意識の齟齬は気になるが、まずはアニーを確保しなくては。

 しかし、そこで見たものはもぬけの空になった研究室であった。

 竜造と斎藤 ハツネの一行は、とりあえずフューチャーXが向かった方へとアニーを追って行った。幸輝が雇ったコントラクターのほとんどは恋歌が依頼した仲間達に倒され、散り散りになって逃げていく。

「ああ……アニー……どうして……」
 恋歌はその場に崩れ、膝をついた。


「……どれ」
 しばらくのち、ビルの屋上に姿を現したのはフューチャーXだ。
 アニーの入ったカプセルを担いだ彼は、そのまま自分の空けた穴を次々と跳ねて昇り、ついに屋上までたどり着いたのである。

 そして、それをいち早く追っていたのはグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)だった。

「てやああっ!!!」
 グロリアーナの剣による攻撃を辛うじてかわしたフューチャーXは、屋上にアニーの入ったカプセルを置き、グロリアーナに対峙する。
「……まぁ待て、儂は敵ではない」
 とは言え、グロリアーナとパートナーのローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は仮にも四葉 幸輝に雇われている身、むざむざ目の前でガードすべき対象がさらわれて行くのを見過ごすわけにはいかない。
「敵ではないならば、早急にその娘を置いて立ち去るのだな」
 じりじりと間合いを計るグロリアーナ。
「それは断る……儂とて、この娘を助けねばならん。
 我が恩人、四葉 恋歌のたっての願いなのだ。確かに、貴様らとて仕事であろうが……」

 その瞬間、フューチャーXの足元が弾ける。

「……ローザ?」
 グロリアーナは、屋上のある一角を見た。そこには、グロリアーナの連絡を受けていたローザマリアがいる。
「……もういいわライザ。もともと仕事としても乗り気じゃなかったのよね。
 フューチャーX……貴方の目的は……といっても、まともな答えは期待してないわ。けれど、これだけは教えてもらうわよ……。
 何が、起きているの?」

 ローザマリアの瞳がまっすぐにフューチャーXを捉える。

「……いいだろう、ある程度は話しておこう。儂はこの娘、アニー・サントアルクが死ぬことを防ぎに来た……未来からな」

「……にわかには信じがたいわね。確かに、昨今未来人を名乗る人間の存在は多数確認されているけれど。
 けれど、お互いの立ち位置をはっきりさせておく必要があるわね。それ次第では……貴方の行動を阻むものではないわ」
 ローザマリアの手には、機晶スナイパーライフルが握られている。
 フューチャーXの目的であるアニーはまだカプセルの中。それを抱えてローザマリアから逃げおおせることは、困難だった。

「ま、信じるか信じないかは貴様ら次第……無論、この場で戦ってもいい。
 だが、すぐにこの娘をこの助けるつもりでこのカプセルから出すと……彼女は死ぬ」


                    ☆


「アニー……どうして……ようやくここまで来たのに……」
 恋歌は膝をついたまま立ち上がれない。ぽっかりと開いた穴を見つめたまま、うつろに呟いた。
「恋歌……」
 ルーツは恋歌の肩を抱き、話しかける。
「ああ、ルーツさん……お願い……アニーを助けて……何でもするから……お願い……」
 恋歌の瞳から、大粒の涙がこぼれた。

「恋歌……いったい……彼女には何があるんだ。どうして恋歌は彼女……アニーのことになると……」
 ルーツの疑問が恋歌の耳に届く。


「……うん……そうだね……話しておかなくっちゃ、ね……」


 恋歌は、ルーツの手を肩から外して、すっと身を離した。
「……恋歌?」
 寂しそうに、恋歌は笑って。頭を下げた。
「ルーツさん、ごめんなさい。ルーツさんのいいたかったこと……本当はわかってるんだ。
 でもさ……私、そんなこと言ってもらえるような人間じゃないんだよね
 みんな……本当にありがとう。そしてごめんね……こんなことに巻き込んで」


「……恋歌さん……それにアニーさん……無事だろうか……」
 大岡 永谷は、アニーを奪還するべく戦闘の最中で、天井の崩落に巻き込まれて分断されてしまっていた。
 他のコントラクターと強力して瓦礫を撤去し、どうにか退路を確保することはできた。しかし、肝心の恋歌と連絡がつかない。それに、アニーの行方がどうなったのかはまだ分からない。
「……御宣託を……」
 少しでも情報がほしい永谷は、御宣託に頼る。どうすればいいのか、少しでもいいから指針が欲しい。
「……!?」
 しかし、与えられた宣託は永谷をかえって混乱させるものだった。

「どういうことだ……『四葉 恋歌という人間は存在しない』って……」


 四葉 恋歌は話を続けた。電話の会話が続いていることも分かっている。まだシステムが生きている部分には、自分の声は届いているだろう。

「私……私は……四葉 幸輝の本当の娘じゃないんです」
「……え」
「私は……孤児……捨て子でした。
 本当の両親のことは一切分かりません。でも、早いうちに保護されて孤児院に入れられ……命が助かったのは幸運でした。
 そして、幸運にも日系人だったことから、四葉 幸輝の娘、四葉 恋歌として迎え入れられたんです……5年くらい前……今のアニーと同じくらいの年です」
「……そう……だったのか」
「そして私は……四葉 幸輝の娘として生活を始めました……そして、そこで知りました。何故、私が娘として迎え入れられたかを。
 ……誰でも良かったんです。アニーと同じ。ある程度の年齢で、日系人……四葉 幸輝の娘として成立できれば……誰でも良かった。
 そして……今までもそうして何人もの娘が存在したことも」
「どういう……ことだ?」
 アキラ・セイルーンも問いかける。恋歌の話は掴みどころがなく、捉えにくい。
「幸輝にとって『娘』とは、自らの能力の生贄でしかなかったんです。
 彼の能力は『幸運であること』。その身に受ける理不尽なまでの幸運の代償として……彼の身の回りには、常に死の影が付きまとうんです」
「……え……」
 佐野 ルーシェリアは息を呑む。
「彼は、生まれたときからその能力を持っていました。
 そして、彼は研究者……その能力を使ううち、その代償を特定の人物に払わせるようにコントロールできるようになったのです」
「……その特定の人物というのが……」
 樹月 刀真の表情は厳しい。

「ええ、四葉 恋歌という存在です」
 恋歌は、そこにいる一人ひとりの顔を見ながら、ゆっくりと続けた。もはや涙は乾き、表情はない。

「元々、幸輝には娘はいません……自分の能力の代償を払わせる存在として、彼は『恋歌』という『娘』を身近に置くようになりました。
 いずれ……その能力の代償としてその娘が死ぬまで」
「……死んだら……まさか……」
 クロス・クロノスは虚空を睨むようにして、恋歌に尋ねた。
「そうです……幸運にも渡りをつけることができた裏の組織から、人を買ってきて……『恋歌』に仕立て上げるんです。
 ……最初にレンカが死にました。
 その次は1歳の恋歌が。
 能力を使うにつれ、代償の頻度は高くなり……多い時では1年に2人の恋歌が死んだ年もあったそうです」

「……恋歌……」
 ルーツ・アトマイスは呆然とした。
 何を言っていいのか分からない。
 今まで助けようと思っていた相手の顔が、まるで別人に見える。
 これは誰だ。
 何の話をしてるんだ。
 誰の話なんだ。

「……ルーツさん……」
「……」
 言葉が耳に入ってこない。まったく理解できない。
「ここで……問題です」
「……え?」

 いや、本当はわかっていた。

「私は……」

 だから、理解したくなかっただけなのだと。
 だから。
 だから。


「私は一体、何人目の四葉 恋歌でしょう?」


 だから、四葉 恋歌はセブンティーン。


『ひとりぼっちのラッキーガール 前編』<後編に続く>


担当マスターより

▼担当マスター

まるよし

▼マスターコメント

 皆さんこんばんは。まるよしです。
 今回は、過去にないほどに原稿を遅延させてしまったこと、本当に申し訳ありません。

 環境の変化で時間が取れず、皆さんのアクションを消化することに時間を取られ、なかなか先に進めることができずにおりました。
 大変申し訳ありません。

 今回は、珍しくシリアスな話ということで、GM業務を始めた頃から考えていたシナリオをスタートさせました。
 今までのものとは全く毛色の違う話になり、皆さんを戸惑わせてしまったかも知れません。
 体調と環境を整えもう一度、後編という形でお目にかかりたいと思います。

 続き物ですので、あまり間を空けずに次回シナリオガイドを作成したいと考えておりますので、もし次回もご参加いただけるようでしたら、よろしくお願いいたします。

 ご参加いただいた皆さま、読んでいただいた皆さま、本当にありがとうございました。