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第1章 修羅の街へ
「へへっ、やってきたぜ!! あれがステラレの街か。しかし、ここまできたのはいいが、街の周辺にこんなにイコンがうろついてるのはどういうことなんだ?」
国頭武尊(くにがみ・たける)は、ダイノザウラーの操縦席から、彼方にみえるステラレの街の外観をみやって、呟いた。
街を外界と隔てる異常気象、暴風雨や雷の中を抜け、やっと街の近くにまで出てきたところだった。
長い間隔絶されていた街の周辺には、多数のイコンが動きまわっていた。
おそらく、街を占拠しているという盗賊たちが、警備のために操縦しているのだろう。
これまで、街を救おうという試みがなかったわけではないが、必死の想いで異常気象をくぐり抜けられたとしても、さらにこのような警戒態勢を抜けていかなければならず、街に入る時点で疲労困憊しているのが常だったという。
その後街に入れば、街中に盗賊や魔物がうようよとしている。
ステラレの街は、半端な覚悟では解放できないのだ。
「武尊、お前とも連携することになるなんてね」
紫月唯斗(しづき・ゆいと)が、魂剛の操縦席からいった。
「何しろ、街を占拠して娘を襲うというのは、本来おぬしがやりそうなことだからな」
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)も、魂剛の操縦席から声をかける。
「ふん! オレが娘を襲うのは、パンツを奪うためだ!! あの街ででかい顔してる奴ら、大荒野はオレたちの縄張りだっていうのに、あそこの娘たちから、将来オレがもらう予定だったパンツを先に奪いやがったんだ!! これが許しておけるか? お前たちがやらなくても、オレはやるぜ!! だが、お前たちもやるというから、少しは支援してやってもいいと思っただけだ!! さあ、わかったらとっとと襲撃かけようぜ!!」
武尊は、口から泡を飛ばして怒りまくっていた。
「どうでもいいが、オープン回線でそれをいうのはやめた方がいいんじゃないか。あいつらにまる聞こえだぞ」
唯斗はいった。
もっとも、いってきく相手ではないとわかっていたが。
「はっ!! だから、奴らに聞こえるようにいってるんだよ!! ほら、さっそく来たぜ!!」
武尊の言葉に呼応するかのように、街を警備していたイコンたちが、いっせいにこちらに向かってきていた。
「はあ。まったく、戦略も何もないのだからな。それに、おぬしのいいようでは、わらわたちの闘いが、まるで、街の解放というより、単なる盗賊の縄張り争いのようになってしまうではないか。これではどっちが悪人かわからぬわ」
エクスは、大きく嘆息していった。
「うっせーな!! 小難しい作戦を考えたところで、他の連中とうまく連携できるかどうかは怪しいだろうが。こっちにくるイコンを倒すことに集中してればいいんだよ? 動機? そんなのは個人の自由だ。オレはオレでやる。そっちはそっちで、勝手に動け!! コラァ!!」
武尊は、吐き捨てて、敵に向かってダイノザウラーを突進させた。
「おい、それは『連携』といわないぞ。ああ、とにかく、始まってしまったなら、やるしかないな」
唯斗は、呆れながらも闘う覚悟を決めた。
「魂剛、前進だ!!」
唯斗たちのイコンが、武尊に続いて疾駆する。
「唯斗。あやつのペースに巻き込まれぬようにな。あやつの言葉を借りるわけではないが、わらわたちはわらわたちで、闘うのだぞ」
「ああ、もちろんだ!!」
唯斗は、うなずいた。
みれば、武尊のイコンはもう、敵のイコンに組みついていた。
その獰猛ともいえるスピーディな動きは見習った方がいいかもしれない、唯斗は思った。
もっとも、エクスのいうとおり、あまり感心していると、武尊のペースに巻き込まれることになってしまう。
唯斗たちの目的はあくまで街の解放を支援することであり、ただ野獣のように手当たり次第ケンカを吹っかけていけばいいわけではないのだ。
野蛮人が、と、唯斗は呟いてみた。
そうすることで、武尊と距離ができるように思ったのだ。
武尊はおそらく、野蛮人と呼ばれたら喜ぶのだろうが。
「クソがぁ!! 俺たちの街に近づくとはいい度胸だぁ!!」
ステラレの街に巣食う盗賊の操縦するダイノボーグが、武尊のダイノザウラーに組みつこうとした。
ちなみに、ダイノザウラーも機種はダイノボーグだから、ダイノボーグ同士が闘っていることになる。
「上等だコラァ!! 『俺たちの街』とか調子こいてっと血ヘド吐かせるぞオリャア!!」
武尊は怒鳴りながらダイノザウラーを操り、組みつこうとした標的の懐に潜り込むと、逆に組みついて、パイルバンカー・シールドを標的の操縦席付近に食い込ませた。
「ドリャア!! 根性焼きだぁ!!」
武尊は叫びとともに、シールドに内蔵されたパイルバンカーを発射させた。
どごおおおん
「う、うごわあああああ」
標的の操縦席がバンカーに砕かれ、操縦していた盗賊の断末魔の叫びがとどろいた。
「あの世で顔を洗って出直してこい!! よし、次だぁ!!」
続けて、武尊は周囲に近寄ってきた他の敵のイコン(やはりダイノボーグが多かった)にうちかかっていった。
「てめぇ、いきなり殺しやがったな!! ならこっちも容赦しねぇぜ!!」
目の前で仲間を殺され、怒りに我を忘れた盗賊は、自らの操縦するダイノボーグの顎を操って、武尊のダイノザウラーの首筋に噛みつかせようとした。
がああああああああ
盗賊のダイノボーグが、吠えた。
ぱおおおおおおおお
武尊のダイノザウラーも、吠えた。
「やらせるかぁ!!」
どごぉっ
ダイノザウラーの尻尾が振りまわされ、噛みつきにきた敵機体の胴体をうちすえた。
「あ、あがああああああ」
盗賊は悲鳴をあげた。
胴体を尻尾で打たれた機体は、吹っ飛んで転倒した。
天を仰いで、機体が手足をばたつかせる。
「アホが! オレを誰だと思っている? えっ、真の変態だろって? まあ、それもそうだが、泣く子も黙るパラ実の四天王の一人なんだぜぇ!!」
吠える武尊の機体に、他の機体が突進してきた。
「マヌケが!! 生身の闘いじゃねえんだ、四天王もクソもあるか!! この勢いに勝てるもんなら、やってみろ!!」
突進する機体を駆る盗賊は、吠えた。
しげああああああああ
再び、武尊のダイノザウラーが吠えた。
「生身の闘いじゃないなんて、そんな当り前のことわかっとるわ、クズ!! ほれ、冷凍ビーム!!」
武尊は、操縦席で両手を胸の前でクロスさせてみせた。
びいいい
ダイノザウラーの口腔から放たれた冷凍ビームが、突進してきた敵イコンをカチコチに凍らせ、一瞬にして動きを止めた。
「ぐ、ぐわああああ!! びくともしねえ!! 動け!!」
ダッシュの姿勢で凍りついてしまった機体の中で、盗賊は必死にレバーを叩いたりした。
だが、その機体の動力は既に止まっていた。
「死ね!! 消えろ!! 逝ってよし!!」
ダイノザウラーのギロチンアームが、凍りついた敵機体に振り降ろされた。
ばりーん
敵機体は、氷の破片と化して砕け散っていった。
「ぎゃ、ぎゃああああ、お頭、助けてー!!」
崩壊した操縦席から地上に投げ出された盗賊は、ダイノザウラーに背中を向け、両手を振りあげて涙を流してながら逃げ始めた。
「あれ? まだ生きてたか? それじゃ、これでバイバイだ!!」
ぐいいいいいん
ぶちっ
武尊のダイノザウラーは、そんな、逃げる生身の盗賊にさえも容赦なく、巨大な足でその身体を踏みつぶしてしまった。
「オラ、次、来いやあ!! いまさら逃げようたってそうはいかねえぞ!!」
武尊は、血走った目で叫んだ。
さすがの敵イコンたちも、ダイノザウラーの迫力に圧倒されてしまっていた。
こうして、武尊はすさまじい勢いで戦果をあげていったが、遠くからみると、同機種の闘いということもあり、盗賊同士の内輪もめか、縄張り争いにしかみえない闘いであった。
また、今回本気で怒っているという武尊の闘い方は残忍すぎて、やはり、どちらが盗賊かみわけがつかないのであった。
「ごにゃーぽ☆ ああいう闘い、子供のころにみた怪獣映画にあったような気がするよ」
鳴神裁(なるかみ・さい)は、少し離れたところから武尊のダイノザウラーの闘いを眺めて、そんな感想を洩らした。
裁は、機動性特化型パワードスーツ{ICN0003296#NYA☆GA☆SO☆NE☆さん}を装着した状態で、街への接近に成功していた。
きてみれば、さっそく激戦が始まっているようなので、裁としても参加する気満々なのだった。
(まったく、イコンというより怪獣なんだもんね。ボクたちと同じように街の解放にきた人たちも、あの闘いぶりにひいちゃってるみたいだよ)
裁に憑依している、物部九十九(もののべ・つくも)がいった。
裁の左の瞳は金色に変わっていて、九十九が憑依中であることを示している。
だが、裁の意識は保たれていた。
「ボクたちはパワードスーツですが、あの野蛮人の機体以上に活躍する自信はありますよね?」
魔鎧として裁に装着されている、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)がいった。
「うーん、まあ、大丈夫、なんでしょうか? とりあえず、奇襲や待ち伏せは自分が警戒していますが」
武器として装着されている黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)が、何だか不安そうな口調でいった。
「もちろん、やれるよ!! 気合、気合!! さあ、高機動でいってみよう!!」
裁は、上機嫌でいった。
「いくぞ、荒ぶる魂の斬撃をくらえぇ!!」
唯斗は絶叫した。
機体「魂剛」は「対光式鬼刀・改」と名づけられた剣を抜くと、盗賊が乗り込む機体・プラヴァーに斬りつけていった。
どごおおおおおおおん
「おわあああああああ」
一撃必殺の攻撃をくらった機体は、たちまちまっぷたつになって炎上する。
「調子は上々であるぞ」
エクスが、満足げな笑みを洩らした。
「へっ、いい気になるなよ!!」
盗賊たちの機体は続々と魂剛に攻め込んでいった。
魂剛を操って斬って斬って斬りまくるうちに、唯斗にも疲れがみえてきた。
「くう!!」
剣を振りまわして敵機の放つ弾丸を弾きながら、魂剛は駆けた。
敵の群れからいったん自機を離脱させる必要を感じていた。
本当は武尊のダイノザウラーにも援護して欲しいのだが、武尊は周囲を手当たり次第に攻撃することしか考えていない。
「まったく、次から次へと!!」
唯斗が吐き捨てるようにいったとき。
「ごにゃーぽぉぉぉぉぉぉぉ☆」
戦場に、裁の雄叫びがとどろいた。
パワードスーツ「NYA☆GA☆SO☆NE☆さん」を装着した裁が、可変型多目的兵装「撃針」のサーフボードを思わせる強襲形態の上に乗って、宙を疾走してきたのである。
「む!? パワードスーツ隊? いや、1機編成か!!」
唯斗は、裁の姿をみて、若干の驚きを覚えた。
巨大なイコンにパワードスーツ姿の裁が立ち向かう姿は、鬼と闘う一寸法師を思わせた。
「なんだ、てめぇは!! 邪魔するな、引っ込んでろ!!」
盗賊たちは、裁を嘲笑っていった。
だが。
裁は、首を振った。
「風に乗り、風を駆る、ボクこそは風の駆り手!! さあ、変幻自在の風の動き、とらえきれるかな?」
びゅうううううう
裁は、超高速で移動した。
盗賊たちの機体の周囲を旋回し、翻弄する。
その機動性の高さは、鈍重な機体がついていけるものではなかった。
「あれ、誰もついてこられないの? それじゃ、こっちから遠慮なくいくよ!!」
ぐいーん
空中での裁の動きが弧を描いたかと思うと、盗賊たちの機体に背後からうちかかり、鉤爪での鋭利な攻撃を加えた。
パワードスーツなのでサイズ自体は小さいものの、超高速での攻撃である。
しゅぱしゅぱっ
盗賊たちの機体は、あちこちに穴を空けられた。
ぼう、ぼう
それらの穴から炎が吹き上がる。
「ぐ、ぐわあああ、ちまちまと!!」
歯ぎしりして反撃しようとする盗賊たちだが、誰も裁の動きを捕捉できない。
「そーれ!!」
裁は、超高速の蹴りを、盗賊たちの機体の後頭部に放った。
ぐわしゃあああん
ちゅどおおおおん
よろめいた機体は他の機体にぶつかり、そのまま相手を巻き込みながら転倒して、爆発する。
「なぜだ、なぜ、とらえられねえんだ? 相手はたかがパワードスーツ1機だってのに!!」
盗賊たちは、舌を巻いた。
「極限にまで高めた機動性で勝負か。俺も、生身ならあれだけの動きが可能だが」
唯斗もまた、裁の動きに感心せざるをえなかった。
そうだ、一人ではないのだ。
武尊のように協調性のない輩は別として、他の人たちと連携することで、どんな敵も倒せるはずだ。
唯斗は、再び闘志がわいてくるのを感じた。
「裁、支援助かる。そのまま翻弄してくれないか? 俺たちは隙をついて、一撃必殺で攻撃を決めていく」
唯斗は、裁に呼びかけた。
「ごにゃーぽ? 了解!! でも、ボクだって一撃必殺は持ってるよ。ちょっとみていて!! さあ、クライマックス!!」
ごおおおおおおおおおにゃぽおおおおおお
唯斗は、サーフボード状の強襲形態をとる「撃針」をさらに加速させ、空中の光弾と化した。
「や、野郎!! ちまちまと、ふざけやがって、うっ、げほ、べらんめっちゃらめえ」
標的の機体は、先ほどからの裁の動きに翻弄され、すっかり混乱して、ふらふらとよろめきながら動いていた。
「さあ、お遊びはおしまいだよ!! この一撃にすべてを賭けて!! 我、すべてを打つ砕く神風とならん!! くらえ、屠龍の風、神風幻影(ゴッドウインドファントム)!!」
絶叫とともに、裁は「撃針」ごと、敵機に特攻した。
どごおおおおおおおっ
ちゅどおおおおおおん
敵機の体内を、光弾と化した裁がくり抜き、貫通していった刹那、くり抜かれた側は大爆発を起こした。
「あああああああああ!! ご、ごにゃぽお!!」
爆発する機体の中で、操縦者である盗賊は、いまわのきわに裁の口癖を真似てみせてから、炎に焼かれてこの世から消滅した。
「ごにゃーぽ? 死ぬ間際に芸をみせるなんて、見上げた根性だね。悪党もやるときはやる、か」
裁は肩をすくめて、ニヤッと笑った。
茫然としている紫月の機体に手を振る。
「さあ、みんなでやっつけよう!! 気をつけないと、ボクにいいところ全部持ってかれちゃうよ!! 風は、吹くときはいっきに吹くからね!!」
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