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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【喜びのひととき・1】


 それじゃぁと明るい挨拶を残すルカルカと共にダリルが人形工房を後にした。雪の降るヴァイシャリーの街へと歩き出すダリルに、やっとラッピングを終えたリリアは席から立ち上がるとその後を追って工房の扉を押し開いた。
「ダリル!」
 靴が滑らないよう気をつけながら駆け寄るリリアに呼ばれてダリルは振り返る。
「リリア?」
 気づいてくれたダリルに、彼の前まで来たリリアは一度、息を吐き出した。
 吐息して改めてダリルを見上げて、リリアは無言になった。
 時間がかかると知って間に合わなかったらとは思ったが、いざ間に合って渡せるとわかるとリリアは、ダリルの顔を見て、言葉が見つけられなかった。いつもなら、こんな事気安く一言二言笑って言えるのに。
 ヴァイシャリーの古き良き時代を残す街並みと、止まぬ雪の魔法だろうか。
 ただ、じっとリリアはダリルを見上げる。見詰められるダリルは、リリアの真剣な眼差しに、こちらもまた無言になった。
 ふ、と。リリアの口が不意に開く。
「これからの人生はあなたのものよ。縛られずに未来へ歩んで。いつでも傍で見護っているわ」
 リリアの体と声を借りて、誰かが触れては解けて消えてしまう雪のように言葉を紡ぐ。
 言葉と共に、差し出す、少しだけ早いクリスマスプレゼント。リリアは自分の唇を押し開いた言葉より、その言葉を受けて表情を変えるダリルに、ほんのりと微笑んだ。


*...***...*


 リリアのプレゼントを受け取るダリルを工房の窓から眺めていたメシエは一度目を閉じた。開けて、室内に戻すと忙しなく歩きまわるキリハを見つける。
「キリハ」
「はい、なんでしょう?」
 メシエは、子供達へのプレゼントも必要であるが、その子供達の世話をしている大人達へのプレゼントがあってもいいのではと考えていた。
 何か御用ですか、と近づいてきたキリハにメシエはラッピング済みの細長い箱を差し出した。
「どうぞ」
「……買収ですか?」
「どういう考えを持っているのかね?」
「いいんですか?」
「労いは嫌いかな? 君もよく頑張っている」
 エースの考える贈り主に相応しい物をという理念に基いてメシエが用意したのは、古王国時代に流行したデザインで造られた、金属鎖と機晶石の欠片で紐状な髪飾りである。贈り物はその場で開けるという習慣らしく、早速開封したキリハはそのまま無言になった。無言になって、そして、笑った。懐かしそうに。
 プレゼントを胸に抱きしめて、
「ありがとうございます。大切にしますね」
とキリハはメシエに一礼に深く頭を下げた。


*...***...*


 雪が降り続ける帰り道。
 結局二個か三個では足りず最後の一個まで包み続けていたら外はもう日が落ちていた。
 石畳の道は全面薄く積もった雪で、薄化粧をしている様。
 雪が降ると聞いて外出したのだが、靴が滑らない保証なんて無く、藍はそっと静に手を差し出した。
 単純に足元が危ないと案じて出された掌を数秒見つめて、静は自分の手を重ね、握った。雪の降る空気の冷たさに、互いのぬくもりが優しい。
 雪の降る帰り道。静は密やかに心に決めていることがある。それはラッピングを手伝うことにした根本的な理由でもあった。
 手伝いという経験を積んで、今日一日という短時間ながら綺麗にリボンを結べるようになった自分の手。自分の指先。
 この指で、藍の髪のリボンを結ぼうと心に決めていた。
 藍は驚くだろうか。それとも、笑ってくれるだろうか。
 喜んでくれたら。
 とても嬉しい。