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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【教える人と教わる人】


「うぉい〜〜っす、さっみ〜〜」
 いつも通りの唐突かつ気安い挨拶で、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は工房に足を踏み入れた。アキラの肩の上では、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)がにっこり笑って手を振っている。
「ハァイ。オトー様、オネー様。ゴ機嫌ヨゥ」
 こちらも、代わり映えのないいつも通りの挨拶だ。だけど今日は、その後に続くものがある。
「こんにちは〜。いつもアキラさんがお世話になっています〜」
 セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)の声だ。聞き慣れない声があったからか、リンスがふっと顔を上げる。そして、セレスティアを見てぺこりと頭を下げた。
「どうも」
「おー? リンスぅ、こっちには挨拶なしか〜? さーみしーいな〜」
 距離を詰め、肩を抱いて近距離で話す。近い、と一蹴された。あらやだつれない。茶化すように言って、アキラは空いていた席に腰を下ろした。座るや否や、アリスがひょいとアキラの肩から飛び降りてテーブルに着地する。ぱたぱたと走り、リンスの前で立ち止まってスカートの裾をつまみ、お嬢様然とお辞儀をした。
「ご機嫌だね、アリス」
「ソウヨ? だっテ、ネェ見てオトー様。今日のワタシ、可愛イでショ?」
 少し前にしてもらった『治療』以後、アリスはずっとご機嫌だ。綺麗になれたのがよほど嬉しいらしい。治療後初のお披露目だからとおめかしまでしてきた。
「うん。可愛いよ。服もよく似合ってる」
「アキラが買ッテくれタノ。パラミタ内海にアルゆる族ノ集落ノお店のモノなのヨ」
「へえ」
「オトー様も行ッテみるトいいワ。インスピレーション沸くカモ」
「そうだね。機会があったら」
「ソレデ、またワタシに似合う服ヲ作ッテ?」
「わかった」
 会話が一段落つくと、アリスは鼻歌を歌いながらアキラの肩に戻った。工房を見渡し、「んで」とアキラは話を振る。
「今日は何? やーったら人がいるけど」
「孤児院の子へ贈るクリスマスプレゼント作り。人形作ったり、ぬいぐるみ作ったり」
「へえ〜。なんかいいじゃん。楽しそうだしさぁ」
 端的な説明だったが興味を引かれた。アリスも何々、と身を乗り出して聞いている。
「手伝ってくれると助かる。と思う」
「助かるって言い切っちゃえよー手伝うぜ手伝うぜー」
「助かる」
「素直でよろし〜。おしアリス、手伝うかー」
「ハァイ。モデルにでモなってクルわ!」
 言うが早いか、再びアリスは身軽に飛び降り人形作りに携わる人たちの方へと走っていった。リアル人形サイズの彼女がモデルになれば、動く見本としてさぞ役に立つことだろう。
 アキラもリンスに人形制作の手ほどきを受け、早速人形作りに取り掛かる。
 これまでに何度も工房へ来て、何度もリンスの制作風景を見ていたものの、実際に作ってみるとやはり勝手が違う。リンスは簡単そうにやっていたが、それはやはりプロだからなのだ。
「なぁリンス、ここは?」
 ひとつ詰まって、手招き。
「え、じゃあさこれは? ど〜すんの」
 再び詰まって服を引っ張る。
「あれ? これどーやんだ? おーいリンスぅ〜」
 三度お手上げ。似たようなところで苦戦しているアキラを見かねたのか、あるいは説明することが苦手なのか、数秒黙った後リンスは「俺がやろうか?」と言った。アキラは無言で首を振る。
「いんやー俺が作るよ?」
「そう?」
「んー。こだわりとかあるしね。これでも」
「立派じゃない。じゃあ、頑張って」
「いやだから、教えてっての。ここどーやんの」
「……教えるの苦手なんだよ。貸してよ」
「こ、と、わ、る!」
 苦心して出来上がったものは、やはりというかなんというか、ちょっぴりいびつだった。腕の大きさが左右で違うし、微妙に傾いていて自立が不安定だったりする。が、そこがまた、可愛いのだ。
「自分で作ると違うねえ……」
 しみじみと呟く。リンスは薄く笑っていた。なんだか少し恥ずかしくなり、頭を掻く。
「なあリンス〜。この人形、やっぱ俺持って帰るよ」
「愛着湧いた?」
「油田のようにな」
「その例えよくわからない」
「じゃあ温泉で」
「わからないってば」
 呆れ混じりのつっこみの後、リンスは「いいよ」と言った。
「人形、持って帰りなよ」
「マジで? 俺もうちょっとゴネようと思ってたんだけど」
「そうなると困るしね」
「クレーマー対応みたいなおざなり感」
 まあいいけどね〜、と人形を持ってアキラは言う。やっぱり、不恰好だ。だけどそれがいい。
「ラッピングもやってんだっけ」
「向こうで包んでるよ」
「教わってこよ」
 自分自身へのプレゼントだ。気分を出すためリボンのひとつでも可愛く結んでやろうかと、アキラは別のテーブルへ向かった。


「リンスさんに教わりたいことがあるんです」
 アキラが移動しリンスの手が空いたところで、セレスティアはリンスに声をかけた。何? と色違いの目がセレスティアを見る。
「アリスさんの治療のやり方を、教えてくださいませんか?」
 アリスは治療によって細かい傷を消してもらい、綺麗になって戻ってきた。
 それから気をつけているものの、相変わらず彼女はアキラと一緒にどこにでも行ってしまう。つまり、過激な冒険や熾烈な戦闘で危険にさらされる確率は変わらぬままだ。いつまた怪我をするかわかったものではない。
 そのたびにリンスのところへ持ち込んで治療を依頼するのはお互いに手間である。ならば、自分たちも治療の仕方を教わろう。治せるところは自分たちでで治せるようにしよう、とセレスティアとアキラは話し合って決めたのだ。
「それで今日、尋ねてきたんだね」
「はい。アキラさんは、別のことに夢中になってしまいましたが」
「あれはあれで」
「ええ。でも本題を忘れてはいけませんので、よろしければお教えいただけないでしょうか?」
「いいよ」
 あっさりと了承したリンスは、棚から一体の人形を取り出した。実際にやりながら教えてくれるらしい。
 こういう時はこれでこうする、こういう場合はこっち、という説明をセレスティアは逐一メモに取った。わかりやすくまとめておけば、後々アキラにも教えやすい。
 最後にわかりづらかったところや気になった点を質問して、回答をメモして講義は終了した。
「今言ったことくらいなら、たぶん誰でもできるから。わからなくなったらいつでも聞きにくればいい」
「そうします。ありがとうございました」
 丁寧に頭を下げると、リンスも軽く頭を下げた。
 外を見るとまだ日は高く、明るかった。
 色々教わったお礼、というわけではないが、もう少し人形制作を手伝ってから帰ろう。セレスティアは、メモを鞄にしまうと人形制作のグループに混ざった。