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はっぴーめりーくりすます。4

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はっぴーめりーくりすます。4
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リアクション



1


 『Sweet Illusion』には、開店直後とは思えないほどの人がいた。
「盛況ね」
 レジに立って代金を支払いながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)フィルスィック・ヴィンスレット(ふぃるすぃっく・う゛ぃんすれっと)に話しかけた。
「クリスマスだしねー。書き入れ時だよー」
 のんびりとした声音で、しかし素早く動きながらフィルは言う。
「ルカちゃんもクリスマスパーティ?」
「うん。私たちね、工房で行われるクリスマスパーティに混ぜてもらうの。飾り付けも手伝うつもり。この前人形作りを教えてもらったお礼も兼ねて」
 ね、とルカルカはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に笑いかける。対して、ダリルは軽く眉根を寄せた。
「俺は別に飾り付けを手伝うつもりはなく」
「何よう。みんなでわいわいやりましょうよ」
「つもりはなく」
 と言ってはいるが、行けば手伝ってくれることをルカルカは知っているので何も言わない。大袈裟に肩をすくめてみせると、フィルがくすくすと笑った。
「ねえ、フィルさんのお店の飾り付けはどうやってやっているの? 飾りって作ってる? それとも市販?」
「んーごめんねー。俺ね、飾り付けとかは全部バイトの子に任せちゃったからわかんないやー」
「ありゃ……そっかあ、残念」
 フィルの店は、イベント事にかなり力を入れている。イベント限定ケーキもあるし、ハロウィン等にはちょっとしたコスプレだってやる。当然店の内装外観も相当様変わりしていて、やり方を教えてもらえたらと思ったのだが。
「見ていくだけでも参考になるかしら」
「なるなる。ルカちゃん要領いいし、見よう見まねでできるよきっとー。ほらこれあげるから、お手伝い頑張ってねー」
 とフィルが渡してくれたのは、スノースプレーと様々な型だった。これで、窓に絵を描ける。それに、クロエ・レイス(くろえ・れいす)あたりはこういうものが好きだろう。目をきらきらとさせる様を想像して、ルカルカは小さく笑った。
「ありがとう、フィルさん。お礼にこれを」
 渡したのは、以前クロエたちに渡したこともあるフォンダンショコラだった。ケーキ屋店長にケーキをあげるなんて暴挙だとパートナーからツッコミを受けたが、ルカルカにはルカルカの意図がある。
「上達を報告したくて」
「なるほど。ありがたく、いただくねー」
「うん。お願いします」
「これは? ピンブローチ」
「それも、フィルさんに。お世話になっているお礼」
「センスいいねー。さっそく着けさせてもらうよー、ありがとう」
「どういたしまして! じゃ、お仕事頑張ってね」
 ばいばい、と手を振って店を出る。喜んでくれたようで何よりだ。飾り付けの道具ももらえたし、言うことはない。
 ルカルカは上機嫌に鼻唄を口ずさみながら、工房への道を歩いた。


「メリクリ!」
 とルカルカが工房に飛び込むと、ツリーの飾り付けをしていたクロエがぱっと表情を明るくさせた。
「ルカおねぇちゃん! メリークリスマスっ」
「メリークリスマス」
 クロエと一緒に飾り付けをしていたリンス・レイス(りんす・れいす)も、お約束の言葉を口にする。メリクリ、と返して、さっそく飾り付けを手伝うことにした。
 手が届かないと困っているクロエを持ち上げて飾り付けができるようにしてあげたり、フィルからもらったスノースプレーで窓に絵を描いたり、即席でオーナメントを作ったり。
「そういえば、クロエちゃんは学校には行かないの?」
 飾りながら、ふと思いついたことを訊いてみる。クロエは、きょとんとしていた。
「学校に通うようになれば、もっとお友達ができるんじゃないかな。クロエちゃんって社交的だし。今、かなり安定しているみたいだし」
「かんがえたことがなかったわ」
「そうなの? もったいない。近くにいい学校もあるし」
「ゆりぞのじょがくいん、よね。せいふくかわいくて、いいなぁっておもってたの」
「ねー。可愛いよね。この機に考えてみたら?」
「そうするわ」
 リンスは、クロエのひとり立ちにどう思うのだろう。無関心に見えて心配性だから、きっと不安に思うんだろうなあ、と考えながら、黙々と、飾り付けを進める。


「手伝いに来たわけじゃなかったのだが」
 ダリルがぼそりと呟くと、クロエがぱっとこちらを見た。
「でも、てつだってくれてるわ」
「成り行き上仕方なく、な。本当は、一人前のレディになったクロエにクリスマスのプレゼントを渡しに来ただけだ」
 飾り付けの手を止め、ダリルは用意していたプレゼントをクロエに渡した。隣にいたルカルカが、「私には?」と言っているが聞こえない振りをする。
 クロエは、プレゼントの箱を両手で持ってダリルを見上げていた。
「あけてもいい?」
「もちろん」
 小さな手が、ラッピングを紐解く。
 小箱の中には、ネックレスが入っていた。プラチナ細工の白ウサギが、ルビーのニンジンを持って金細工の三日月に腰掛けている、というデザインのものだ。
「クロエに似合いそうなものを選んできた」
 着けてあげるよ、と言ってネックレスを取り、背後に回る。モチーフが胸元で揺れた。見立て通り、よく似合っている。
「可愛さが引き立つよ」
「ほんとう? うれしい!」
 無邪気に喜ぶクロエを微笑ましく思っていると、ルカルカに脇腹をつつかれた。なんだ、と見ると、「クロエちゃんを口説いちゃ駄目よ」と言われた。
「口説く?」
「そう見えたけど」
「それは困ったな」
「わー、さらっと言っちゃって。全然困ってなさそー」
 絡んでくるルカルカに、ダリルは小さく息を吐く。
「安心しろ。ルカの分もある」
「え」
「クロエにだけ、なわけがあるか。家に帰ったら渡すよ」
 本当は内緒にして、驚かせてやりたかったのだが。
 けれどここで拗ねさせてしまっても本末転倒だ。
「〜〜っ、ダリル大好き!」
「誤解を招くから、やめろ」
 抱きついてくるルカルカを制し、ダリルは再び息を吐いた。
 予定とは違ったが、こうも喜んでくれるのならこれもいいだろう。