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胸に響くはきみの歌声(第2回/全2回)

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胸に響くはきみの歌声(第2回/全2回)

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 ねらいどおりの場所でミサイルが爆発するのを見て。
「ちょ、ちょっと乱暴だったかな……?」
 遠野 歌菜(とおの・かな)はその規模の大きさに、少々気おくれしながらつぶやいた。
「今さら言っても遅いな」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)はこの爆発も、それを見ての歌菜の反応も予測済みだったのか、冷静に述べる。
「でも羽純くんっ。
 ……やっぱり、危険すぎた、よね……?」
 歌菜としても、最初からああするつもりはなかった。最初は説得をしようと思っていたのだ。一緒に戦ってくださいと、平和的に、お願いをしようと。
 しかしリネンが説得に失敗するのを見て――そして、すぐそこに迫っている敵影を見て、とれる手段はこれしかないと判断した。
 敵の攻撃をJJたちに向けて、無理やり巻き込んでしまおう、と。
 そのときはそれが正しいと思ったのだが、こうして爆炎と黒煙に包まれているのを見ると、やりすぎたとしか思えない。
「みんな、大丈夫かな……」
 あそこにはJJたちだけでなく、セルマやフレンディスたちもいた。彼らの身を案じる歌菜を見て、羽純が煙の薄れた箇所を指さした。
「大丈夫だ。ほら」
 申し合わせたように風が吹いて、流れた煙の向こうにはっきりと人影が見える。咳き込んではいても、けがをしている様子はない。
「よかった」
「それに、おまえの読みも当たったようだ」
 と羽純は、赤い刀身の大剣を手にこちらへ向かってくるJJの姿に、ふっと口元を緩ませる。

「てめーか! おれの妹を殺そうとしたやつは!!」

 JJは遠目からもあきらかなほどカッカと気炎を吐きながら目についた最初の強化人間に斬りかかっていた。阻まれ、跳ね返された勢いも敵へたたきつける力に変え、猛攻をかけている。
 突然の横やりに驚きから防戦一方だった強化人間が、甲剣を伸ばした。
「大変!」
 エクスプレス・ザ・ワールドを放とうとする歌菜を、やはり羽純が止めた。
「待て」
「羽純くん!」
 直後、JJは顔面にきたそれをほおの皮一枚裂くすれすれで躱わし、その返礼とばかりに胸を柄で殴りつけた。鈍い音がして強化装甲にひびが入り、一部が砕ける。女性の力とは思えない瞬間破壊力だった。強化人間もそれと思ってか、よろめいた先で具合を測るように装甲に手をあてている。
「どうやら俺たちの助けは必要なさそうだ」
 もとより、女の身で賞金稼ぎなどする以上、それなりに腕に覚えはあるのだろう。重そうな大剣をぶんっと振って回し、かまえ直すと困惑している強化人間へ再び向かって行くJJの後方に駆けつけてくるセルマたちの姿を見て、羽純は彼女を心配するのをやめた。
「それよりも、俺たちは自分のことをしよう」
 混戦状態のなか、自分たちを標的と定めて向かってくる気配を察知して、羽純の声が低く張りつめた。相手の強化人間の姿が見えた直後、突き出された両手からアブソリュート・ゼロのキラキラとした光が生まれて氷の白壁を打ち立てる。一瞬遅れて高周波の光刃のチャクラムが氷壁に突き刺さり、あるいははじけ飛ぶ。それとほぼ同時に歌菜の歌声――エクスプレス・ザ・ワールドが発動して、無数の槍が強化人間に向かっていった。
 槍1本1本にさほど強さはなく、強化装甲を貫くほどではないが、多方向からの同時攻撃ではチャクラムなしには防ぎきれない。物量に押され、強化人間は後方へ吹き飛んだ。
 こうすると話し合ったわけではない、いわば心の通じ合った夫婦ゆえの阿吽の呼吸の為せる連携技だ。
 しかし敵の強化人間も並の者ではなかった。受け身をとって、転がる勢いで跳ね起きたときにはもう戦闘態勢を維持している。戻ってきた2つのチャクラムを衛星のように自分の周囲で回転させたと思うや、どんな仕組みかは分からないが、光刃を倍近くまでふくらませた。
 それに合わせてかすかにしていたハチの羽音のようなブンブン音がはっきりと聞こえだす。
 羽純は聖槍ジャガーナートをかまえる。
「歌菜。歌ってくれ」
「はいっ!」
 歌菜は目を閉じて、まぶたの裏の闇に羽純の勇猛果敢な姿を思い描く。そしてそんな彼が夫である誇らしさを胸に、高らかと歌い始める。その唇から紡がれる歌は魔力を帯び、自分たちの周囲に再び無数の槍を生み出す。それは歌菜の愛する者、仲間を守護し、敵を打破する慈愛の力が形となったもの。
 体勢を低くとった羽純が走り出すと同時に槍も一斉に敵へその穂先を向け、動き出す。
 彼女の力に守られながら、羽純は両腕の聖槍ジャガーナートをふるった。舞うように優雅な動きで。



 攻めてくる強化人間たちから古代遺跡への入口を守るように弧型に陣取った者たちのなかに、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)の姿もあった。
「……行かなくちゃいけない、んだと思うわ、たぶん」
 何か大切なことのはずなのに。思い出したいのに思い出せない。そんな焦れた思いに胸をくすぶらせ、複雑な感情に表情を少しばかり曇らせつつつぶやいたクコを
「それなら行きましょう」
 と後押しをしたのは霜月だった。
 わけも訊かず、疑念も口にせず。単なる気の迷いと切って捨てるでもなく。彼女を信じてためらいなくつきあうと言ってくれた夫に、クコは感謝するような視線を向けた。そして、理解できないままでもいいのだと、最後のためらいを捨てたクコの行動は迅速で身軽だった。
「だんだん近くなる……。
 あそこよ! あの岩山を越えた向こう!」
 ついに来た、という声で、晴れ晴れとした表情をするクコ。
 しかし2人が岩山を登りきって向こう側を見下ろしたとき、すでに戦火は広がっていた。
 彼らも見慣れた仲間たちがある特定の方角を守るように陣を敷き、魔法を放ち、武器を手に戦っている。敵の数の方が多く、苦戦しているようだ。
 それを見たクコは目を瞠って「大変!」とひと言口にするなり、一騎当千を発動させて渦中へ飛び込んで行った。クコのあとを追うようなかたちで、霜月も脇差孤月を抜いて後ろに続く。クコはスピードを殺すことなく、むしろそれを打撃へと変換したように、武装した強化人間を横から殴りつけた。有無を言わせない一撃。ほかに目標を定めていた強化人間は動き出そうとした瞬間に死角から不意討ちをくらったかたちで避けようもなく、あっさりと吹っ飛ぶ。
 しかし、それを目撃した別の強化人間がナイフを抜き、クコに向かって走り込んだ。
 強化された脚力であっという間に距離を詰め、まだ腕を引き戻しきれていないクコの背後に、巻き上がった砂煙から飛び出すように迫る。
 クコの頭部へ突き立てようとした刃を、霜月が受け止め、強く跳ね返した。反動で腕が離れ、ぐらりと揺れて体勢が崩れたところへさらに一歩踏み込み、横なぎをかける。
 タイミングは合っていた。肋骨を折る程度の力を込め、あらかじめ返してあった刀のみねが吸い込まれるように相手の脇に入ったかに思われた瞬間、敵は崩れた体勢のまま自らバックステップで後方へ跳ぶ。刀はかすめることもなく空を切った。
 あの体勢から気を合わせられた。その一瞬で、霜月は相手が相当訓練を積んだ兵士であることが分かった。
 同じ格好をしたここにいる全員がこの男と同じ手練れなら、楽には倒せそうにない敵だ。ほかの者たちが苦戦しているのもうなずけるというものだ。
 霜月は相手が何者であれ、犠牲を出したくはなかった。ここで起きている戦いの理由がいまだ不明ということもあるが、それが彼の身上だ。
 今回それをするには生半可なく苦労しそうだが――しかしそれもまた、今回が初めてというわけでもない。
「霜月」
「クコ。後ろを頼みます」
 霜月の気が一瞬で研ぎ澄まされた。空気が変わったことを敏感に肌で察知して問おうとしたクコは、切っ先を制されたかたちできっかけを失う。
 開いた口を閉じ、一時霜月の横顔を見つめた。
「……任せなさい」
 彼と背中を合わせ、戻ってきた、先ほど殴り飛ばした相手との戦いに入る。
 霜月の前、強化人間は武器をナイフから外周に刃を持つチャクラムへと変えた。彼の手にした武器に、飛び道具の方が有利とみたのだろう。チャクラムは回転するにつれ、青白い光を外刃にまとう。回転を速めるにつれ、手から離れて空中に浮かんだ。もはやいつ霜月に向かって放たれてもおかしくない状態だ。
 それらを前に、霜月は正眼のかまえをとった。