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リアクション
刃を交えて分かったことだが、敵の強化人間たちはただの狂信者の集まりというわけではなかった。
全身を保護する強化装甲、触れたものを紙のように切り裂く高周波の刃をしたチャクラム、クマでも一発で倒せそうな大口径銃。単なるカルト組織やテロリストにそろえられる物ではなく、いずれも彼らにそれを供給できるだけの者が背後にいることを意味する。
しかも彼らは全員それをただ与えられただけの一般人ではなく、扱う訓練を受けた戦士だった。
「来たわね、聖戦士!」
完全武装し、ナイフを手に楔形で突撃してくる強化人間たちの姿を遠目に見つけたとき、リネン・エルフト(りねん・えるふと)はペガサスネーベルグランツの馬上でつぶやいた。
そして、ホークアイを用いて観察していたヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)があることに気がつく。
「……アエーシュマがいない?」
ヘリワードからの報告にもう一度見直したが、突撃してくる先頭の前衛部隊にも、銃で中距離からサポートをするため広がった後衛部隊にも、たしかにあのクマのように巨大な強化人間らしき姿は見あたらなかった。
「自分が出る幕ではない、ということかしら?」
「だとしたら、相当なめられてるわよね、あたしたち」
あきれたような声で、白鱗の飛竜デファイアントを旋回させていたヘリワードが肩をすくめて見せる。
「自分が出るまでもないって考えたってことでしょ?」
「分からないけれど……もしそうなら、引きずり出してやるまで、ね」
「もっちろん! あたしたちを見くびってくれた返礼をしてやんなくっちゃ!」
ヘリワードの言葉にくすりと笑って、リネンはおもむろに手をまっすぐ上にあげた。
それを合図とみて、遠距離にいる空賊船からのガンファイア・サポートが飛ぶ。レンジ外の側面からの砲撃に強化人間たちは無防備で、銃を撃つ寸前だった後衛の5人が爆発に巻き込まれ、吹き飛んだ。
直撃を受けた1人は活動停止したように動かなくなったが、残り4人はそれぞれ転がった場所で起き上がろうとする。
「させるか!
天馬騎兵、あたしに続けーっ!」
増援として天を駆っていち早く駆けつけていた親衛天馬騎兵が、ヘリワードの言葉に従い動いた。ワイルドペガサス・グランツの頭を巡らせ、突撃するヘリワードに続いて地上へ降下を開始する。まだ体勢を整えきれていない地上の強化人間たちに向かい、イコン用グレネードを改造した爆雷を投擲した。
固い地表をえぐる重い爆発音が次々と起きる。
後衛部隊が集中攻撃を受けていても、前衛部隊の突貫に乱れはなかった。
知らないはずはない。それだけ仲間の強さを信じているということか。
「へっ。
だがな、こっちだってここを任せて先へ進んでる仲間の手前、そう簡単にここを通してやるわけにはいかねぇんだよ」
防衛の先頭に立ったフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は覇気ある顔でつぶやき、天馬のバルディッシュをかまえる。十分敵が近づくのを待って、間合いに入った瞬間横なぎをかけた。
「うおおおおりゃああああっ!!」
長年の戦闘で研ぎ澄まされてきた一撃は目の覚めるような一閃となって強化人間たちを襲う。長いリーチを活かしたこの一撃を避けられる者はそうそういないだろう。
もちろん戦闘技術を磨いてきた強化人間たちとてやすやすとこの一撃で倒されたりはしなかったが、突進してくる獣の鼻っ柱への一撃にも似たこの先制攻撃は、敵の足を止め、体形を乱した。
それと見たリネンが新生のアイオーンを手に飛び込んでいく。
「はぁっ!」
ネーベルグランツの背を蹴り、高所から落下する勢いを用いてのコークスクリュー・ピアースが狙い定めた強化人間を斬り裂いた。
しかしその効果を確認する暇もなく、着地したところへすぐさまほかの強化人間が走り込み、リネンにナイフをふるってくる。
「リネン!」
フェイミィが名を呼んだが、彼女は2人の強化人間の連携攻撃を受けるのに手をとられ、駆けつけることができない。
猛攻をしのぎ切ったリネンは一瞬の隙をついてアクロバットで後方に距離をとる。その着地点へまたも走り込もうとした強化人間が、まるで見えない手で払われたように次の瞬間真横へはじけ飛んだ。
「ふふっ。クリーンヒットですわぁ」
遠距離からの狙いすましたソーラーフレアの一撃が面白いように敵を吹き飛ばしたのを確認して、ミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)はしたり顔でうなずく。
手足、右翼、左目が鋼鉄の機械化している異形の姿を持つミュートだが、これでも立派に守護天使である。
もっとも、高威力の両手銃を操り、次々と銃撃しては被弾した敵の姿にほおを紅潮させている姿は、別の意味で守護天使らしく見えなかったが。
今もまた、リネンの背後をとろうとする敵をロックオンし、ソーラーフレアでナイフを持つ腕を撃ち抜く。
「いいですよぉ、この空気……ぞくぞくして、イっちゃいそう…!」
はぁっとこぼれるように息を吐き出して小刻みに身を震わせると、熱っぽく潤んだ目で再び敵に照準を合わせる。
だが敵も、いつまでもそれを許しはしなかった。
1体が戦列を離れた。弾道から居場所を読んだのか、まっすぐミュートへ向かってくる。近寄らせまいとミュートは銃撃をしたが、すでに居場所を掴んでいるためか、敵はそのすべてを悠々と避けた。
「あらぁ?」
これは危ない。貞操の危機とかぐらいなら、今だったらお相手してあげないこともないが、ミュートと違い、今の相手にその気は全くなさそうだ。
「場所替えねぇ。でもぉ、逃げきれるでしょうかぁ?」
口調のため、緊迫感に欠けたがミュートなりにあせってはいる。驚異的な脚力でぐんぐん近づいてくる敵の姿に、義肢光翼を起動させようとしたときだった。
敵とミュートの間に上空から赤い尾を引く影が落ちて、ミュートを背に立ちふさがった。
「きなさい。あなたの相手は私よ」
ソード・オブ・リリアを手に、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が落ち着き払った態度で女騎士然と宣言をした。
新たにリリアが現れたのを見ても、一瞬の躊躇も見せず直進してくる敵の強化人間を見つめる。
「あのばか」
その光景に、上空でワイバーン・オルカンの上からメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が思わず舌打ちを漏らした。
「あそこ、人が襲われてるわ!」
そう叫ぶなり、リリアはワイルドペガサス・グランツを急行させ、飛び降りたのだ。メシエには止める間もなかった。
「彼女は向こうみずすぎる」
婚約者であるメシエにとって、リリアのこういった面はとても腹立たしいものだった。
遠い昔、メシエは大切に想っていた女性を失ったことがある。もうあのときのような痛みは二度と味わいたくない。なのにリリアはそんなメシエの思いも知らず、何度注意しても、困っている人がいれば剣を手に飛び出して行くのだ。
「まぁそう言うな。あれが彼女のいいところだ」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が横からとりなそうとしたが、敵と交戦中のリリアを食い入るように見つめるメシエにうまく言葉を返せる余裕はなかった。
「リリア、そこから離れろ!」
リリアの身を案じ、心配で腹を立てながら、メシエはリリアが斬り結んでいる相手に向けてホワイトアウトを放つ。
並の敵でないのは苦戦している様子のリリアから分かっていた。甘い攻撃をすれば避けられるとの判断から、かなり際どいタイミングで放たれたものだった。もしリリアが即座に反応しなければ、彼女も巻き込まれていたかもしれない。
猛吹雪が吹き荒れ、視界を奪う。極寒の氷雪を耐え抜いた強化人間がリリアの姿を求めて視線を走らせたとき。
「ここよ!」
メシエの声を聞いた瞬間跳躍し、ホワイトアウトを逃れていたリリアは背後から渾身の乱撃ソニックブレードをたたき込んだ。ひび割れた強化装甲の欠片を散らしながら強化人間ははじけ飛び、そこで動かなくなる。
「ナイスタイミング、ね? 私たち、かなり上手に連携できるようになったと思わない?」
降りてくるメシエたちを笑顔で見上げているリリアに、メシエが何かきつい言葉をかけようと口を開いたとき。
「わぁ。お強いんですねぇ」
間延びした声で、ミュートがちょこちょこと近づいた。
彼女を見て、メシエはぐっと言葉を飲み込む。
「あなた、大丈夫?」
「はい。
はじめましてぇ……空賊団艦長(予定)のミュートと申しまぁす!」
「私は――」
応じようとしたリリアの肩を、ぐいと後ろからエースが引っ張った。ミュートとリリアの間を回転する光の刃が駆け抜ける。刃は空に向かって伸び上がると大きな円を描いて投擲した強化人間の元へ戻っていった。
「悠長にあいさつしている場合ではなさそうだ」
あらたに現れた強化人間に向かい、エースはグラウンドストライクを発動させる。大地が鳴動したと思うや強化人間の足元で割れて、そこから鋭くとがった岩が噴出した。
強化人間はあわてる様子も見せず、跳躍で逃れようとする。が、エースはそれも読んでいた。エバーグリーンで這わせたつる草がすばやく強化人間の足に絡みついて跳躍を阻む。足をとられ、バランスを崩した強化人間はチャクラムでつる草を断ち切る。
「遅い」
エースのつぶやきとともに岩のとがった先端が脇腹をえぐった。
一瞬遅れてチャクラムが岩を切断し、強化人間は地に降り立つ。
「すばやいな」
本当なら岩は体の中心を貫くはずだったのに。空中で体勢を変え、敵はギリギリで致命傷を避けた。重傷だが動けないほどではない。
お返しとばかりに放たれたチャクラムは、詠唱を終えたメシエが裁きの光で打ち落とした。
続けざま放たれていた真空波もまた、天使たちの降りそそぐ白光の雨を越えられず打ち落とされていく。
裁きの光と真空波が相殺される小規模の爆発光が起きているのを前に、エースがエメラルドセイジを引き絞った。
「思想に殉じるもきみたちの幸福のようだ。ではその高揚感に包まれながらこの世から去るといい」
分が悪いと悟ったか、仲間たちの元へ戻ろうときびすを返しかけた敵をダブルインペイルで貫く。左肩ついで肩甲骨の中心に矢を受けた衝撃に押されるかたちで強化人間は前のめりに倒れ、動かなくなった。
「……なんか今日のエース、いつもと違わない?」
エースには聞こえないように気遣いながら、後ろでこそっとリリアがメシエにささやいた。
同じことを考えていたメシエは、なぜそうなのかもおおよそ想像がついていたので、あえて口には出さない。訊きはしたが、おそらくリリアも答えは分かってるはずだ。
「それより、きみは前に出るんじゃない」
「私は騎士なのよ? 前に出なくてどうするの! 戦うなとでも言うつもり?」
「きみの出番は私かエースが敵の防御を崩してからだ」
「そんなの待ってたら、私の出番なくなっちゃうじゃない! 2人とも強いんだから!」
「心配せずとも、今回の相手は強い。そんなことにはならない」
そううそぶきながらも、内心ではその機会があれば逃さず敵を滅するつもりだった。リリアが危険なめにあうくらいなら、容赦なく相手を殺す。
目を合わせようとしない横顔に、それと察したリリアはふっと息をつく。
「分かったわ、無茶はしない。でも、それならあなたもよ? それだけ強い相手だっていうんなら、あなただって無茶はしないで」
自分を守ろうと考えるあまりに、彼自身が危険になることがリリアは心配だった。
「2人とも! そこで話し込んでいないで、さっさとみんなと合流するぞ!」
エースが呼んで、メシエが何と返答するかは分からないままとなった。
「はーい。
あ、じゃあミュート……」
「私は今回狙撃手ですからぁ。遠距離から、皆さんを支援をしますよぉ。リリアさん、お気をつけでですぅ」
バイバイと手を振りあって2人は分かれた。
「ふふっ。面白い人たちなのですぅ」
リリアたちを見送ったあと、肩を震わせて笑う。そしてミュートはソーラーフレアを肩に担ぎ、移動を始めたのだった。
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