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リアクション
●九条の奇妙な冒険 第四部「チャンネル願望は砕けない」
なんでいきなり第四部やねん! というツッコミはご容赦を。あと、読んでいるうちに他の部が混じってるぜ、という高度なツッコミが出てくるかもしれないがこれまたご容赦を。ご容赦ご容赦、ここからはじまるのは、一分以上にわたるテレビとジェライザ・ローズ家の因縁の物語である……。
元旦の夜といえば、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)にとってはテレビ! テレビ! テレビなのだ!
「正月の特番は、やっぱり格闘技だよね! じょーねつ大陸ぅ? 後々」
言いながらソファの前に陣取り、ローズは黒いリモコンに手を伸ばした。
「あ、チャンネルは私に譲ってよね。こういうときでないと格闘ものって地上波にならないんだからさ」
譲って、と言いながら交渉する気なんて全然ない口調のローズだったりする。
リモコンはまだ握っていない。その前に、ぎらっ、と殺気の籠もった目で彼女はソファに近づく二人のパートナー、すなわちヴァンビーノ・スミス(ばんびーの・すみす)とシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)を睨めた。
「勝手なことを言わしてもらうが、このリモコンに触るやつは、たとえ聖人だろうと蹴り殺させてもらうッ! 聖人ならよォー、チャンネルを独占するはずはねーーし、自分の幸福を願うならよォー、手をコタツの中に入れて黙ってテレビを見るんだ……」
なんという理屈! だが筋が通っているように聞こえなくもない!(でも通ってない)
けっこう呑気してたテレビは……まだ呑気しててCM中だ。
妙に彫りの深い顔になってローズは言った。
「たとえ話で…このこたつの上にナプキンがあったとしよう。左側からとるか? 右側からとるか? 普通なら……マナーの上では左側から手に取る。
しかし『社会』では違う。
最初にナプキンをとったものに従うッ! それが社会のルール!
それと同じだ……『最初にリモコンを取ったもの』にチャンネルは委ねられる」
ただ『早い者勝ち』と言うためだけにこんな回りくどい話をする! 一体何者なんだ!?(いや、九条ジェライザ・ローズだが)
「ディエゴッ! 君は次に『貴様のようなスカタンにこの僕が舐められてたまるかーッ!』というッ!」
「貴様のようなスカタンにこの僕が舐められてたまるかーッ! ……はっ!」
してやられた! ディエゴ(彼のフルネームは『ヴァンビーノ・クリス・ディエゴ・バルトロメオ・スミス・レオーネ』)は硬直するッ!
「くそ……ッ! バイオレント・ポルノグラフティこいつを殴れッ!」
ドーン! ディエゴのスタ……じゃなかった描画のフラワシが彼の背後から飛び出した。彼はそのスタ、もといフラワシ能力にそんな名前をつけている。その姿は都市伝説のスレンダーマンに酷似しており、パワーが劣り、スピードが優れているという特徴があった。
しかしフラワシの拳は、ローズの慈悲のフラワシに止められていた。
「な……こいつは……!」
「フラワシの先制攻撃など、すべてまるっとお見通しだッ! ……フィール・グッド・インク!」
どジャア〜〜〜ん!
これがローズのフラワシ能力だ。自分で書いててなんだが、『フラワシ能力』って、なんか言いづらくありません?
★おまけ★フィール・グッド・インクの能力。
破壊力:A スピード:B 射程距離:D
持続力:C 精密動作性:C 成長性:A
※Aは『超スゴイ』とお読み下さい。
このとき、両者の対決に割って入る姿あり!
「新手のフラワシ使いか!?」
それを聞き流してシンは言った。
「誰だ? って顔してるから自己紹介させてもらうがよ。俺ぁお節介やきのシン・クーリッジ! メタだけど、フラワシが見えない立場からこの戦いを見物させてもらうぜッ!」
「メタとか言うな!」
だがそれもシンはスルーだ。ローズをびしりと指して言う。
「こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜえーーーッ!
こんな我が儘には出会ったことがねえほどになァーーーーッ!
正月特番がわがままにさせただと? 違うね! こいつは生まれきっての自己中だッ!」
だがそんな長セリフは誰も聞いていない! 二人のバトルはすでに始まっていたからだ!
「拳の速さ比べか? 良いだろうッ!
アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ
アリーヴェデールチ!(さよならだ)」
「相手は能筋だが、僕のフラワシのスピードにはついていけまい!」
しかしパワー差はいかんともしがたく、ディエゴのフラワシは押されはじめていた。
「貧弱貧弱ゥ!
そのなまっちょろいバイオレント・ポルノグラフティでは、回復と攻撃を兼ね備える私のフラワシには勝つことはできないッ! どれだけ小細工ができようと無駄なんだ……無駄無駄、これでリモコンは私のものだ!」
「くっ!」
最後のあがきか、ディエゴのフラワシがインクを激しく発射した。
「ぬうっ!」
ローズの視界が暗転する。
その間にディエゴは、飛び出す筆で即座に自分の絵を空中に描ききって分身を作り上げた。同時にソファの下に潜り込む! なんたる早業!
――分身が破られる前に本物のリモコンと飛び出す筆で描いたリモコンを交換しておかねば……奴が勝利に浮かれリモコンに触ったときが終わりだ。ラッシュを叩き込んでやるッ!
直後、目の周りを拭ったローズは、分身のほうのディエゴを吹き飛ばした。そして、
「我が心と行動に一切の曇りなし……すべてが正義だ」
とリモコンを握る。
しかしその愉悦の表情はすぐに驚愕、そして激昂へと変化した。
「なにッ! 偽のリモコン……!(※もちろんこれにテレビは反応しない。そのうえリモコン裏にはご丁寧にも『にせもの。あほ』と書いてあった!)
カエルの小便より……下衆な! 下衆な小細工なぞをよくも! よくもこの私に!
いい気になるなよ! KUAAA!!」
ソファの下から這い出して、勝利宣言したのはディエゴである。
「てめーの敗因は……たったひとつだぜ……ロゼ。
たったひとつのシンプルな答えだ……。
てめーは『じょーねつ大陸』をバカにした」
しかしディエゴが握っていたのは、リモコンはリモコンでもエアコンのリモコンであった。
「……あれ?」
テレビには楽しい料理番組、その名も『料理の殺陣』が映し出されている。
「本物のリモコン、落ちてたからもらったよ。うん、すごく好きなんだ……ココナッツ。あ、今日の『料理の殺陣』はココナッツがテーマで……」
ローズとディエゴから突き刺さるような視線を受けて、シンは立ち上がって食卓へと移動した。
「シン・クーリッジはクールに去るぜ」
どジャア〜〜〜ん!