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魂の研究者・序章~それぞれの岐路~

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魂の研究者・序章~それぞれの岐路~

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 第11章 大学入学を前にして

 青空の下で、スポーツに興じる若者達の声が響く。高円寺 海(こうえんじ・かい)もまた、野外にあるバスケットコートで汗を流していた。
 試合終了まであと少し、海の放ったボールが、ゴールに吸い込まれてネットを揺らす。
「わっ……!」
 座って応援していた杜守 柚(ともり・ゆず)は、思わず立ち上がってゴール前に注目した。落ちたボールは相手チームに奪われ、チームメイト1人とハイタッチした海はすぐにまた走り出す。フェイントをかけつつ抜けようとする相手選手のボールを仲間が奪い、海にパスを放った。それをキャッチしたところで、ホイッスルが鳴る。
「やった……! 勝ちましたね、海くん……!」

「おめでとうございます!」
「ありがとう、柚」
 自チーム、相手チーム共に健闘を讃え合った海は、柚の方へ近付いてくる。用意していたタオルと冷えたペットボトルを渡すと、彼はそれを受け取って隣に座った。柚も続けて腰を下ろす。帰りがけに通りかかったチームメイトが、からかうような声を掛けてくる。「もう、いいから帰れよ」と恥ずかしそうに海が言うと、その青年は軽く手を上げて去って行った。
 そう経たないうちに皆は帰り、無人のコートに試合中の熱さの名残を感じながら柚は言った。
「海くんは、将来バスケの選手を目指してるんですよね?」
「ああ、いつかはなりたいな」
「試合の時の海くんは、真剣な表情がカッコいいんですよね」
「え」
「いつもは優しくて……やっぱりカッコいいんですけど」
 ストレートな柚の言葉に、海は少しばかり動揺した。赤くなって隣で固まる彼に気付いているのかいないのか、柚は更にそう言うと彼の肩下にちょこんと頭を預ける。
「…………」
 それを数秒間見下ろしていた海は、やれやれというように笑って柚の頭をそっと撫でた。気持ち良さそうに、それでいてくすぐったそうに彼女も笑う。
「大学部でも、バスケに集中するんですよね。私も180センチぐらいあって、体力と運動神経がもっと良ければ練習相手にもなれたのかなって思います。……身長が伸びなかったんですよね……」
 それが残念で、柚は曲げた膝を抱え込んだ。誰かと一緒に練習するのが、やっぱり一番効果的な練習方法だと思うからだ。
「確かにこの身長差だと練習は出来ないけど、柚には他にやってもらえることが沢山あるよ。実際、やってもらってるしな」
「そう言ってもらえると、嬉しいですけど……」
 慰めるような口調だったが、それが今思いついた言葉ではなく彼の本心だと伝わってくる。心が暖かくなるのを感じて、柚は少し気を取り直した。
「だから、私、大学部ではスポーツ栄養学を学ぼうと思うんです。今は応援したりするだけだけど、いつかは食事の面からもサポートしていきたいと思って」
「……その為に、大学で勉強するのか?」
 声から驚きを感じつつ「はい」と答える。すると、海は嬉しいけど……と戸惑い気味の表情を浮かべた。何かを気にしていて、何だろうと見上げると、確認するように彼は言った。
「柚自身の夢のために時間を使わなくていいのか? 何かやりたいこととかあるんじゃないのか」
 柚が本来やりたかったこと――自分と出会う前、何かやりたいことがあったのなら、あるのならその為に時間を使ってほしい。彼女が大事な人だからこそ、海はそう感じていた。
「……海くんの夢が叶うのが、私の夢だから」
 その気持ちは無事に伝わったようだった。柚は彼がつい安心してしまうような笑みを浮かべて話を続ける。
「傍で、出来る限り支えていきたいです。頼りないですけど……」
 小さく首を竦めて、真っ直ぐにコートを見る。ふと思い出した、過去の――でも未来の記憶をゆっくりと彼に話す。
「私は、もっと影からサポートできる人になりたいんです。前に未来の自分を見に行ったことがあるんですけど、その時試合の応援をした後に疲れが取れるようにマッサージをしてた姿を見たんです」
 それは、確かに訪れるかもしれない未来だった。
「そんな風に、なりたいんです。だから、日々勉強していこうと思います。中身もだけど、外見も……」
「外見?」
「大人っぽくなりたいですし、胸ももう少し大きくなりたいです」
「…………」
 思わず、というように赤くなった海を見てつい笑みが漏れる。でも、笑っている場合ではない。本当に、結構気にしているのだ。半分冗談半分本気、という口調で柚は言った。
「海くんがドキッとするぐらいに色っぽい人ってどうしたらなれるんでしょうか? ……大学では教えてくれないですよね。大学生になっても中学生に間違われたらちょっと落ち込みそうです」
「……………………」
 どう言えばいいのか、と、海は明らかに困惑しているらしかった。ここで、「柚は小さくても可愛いよ」とか言えないで照れて慌てるのもまた彼の良いところだと思う。
 コートの向こうには、蒼空学園の大学部の建物が見えていた。あと少ししたら、日々あそこに通うようになるのだ。
「もう大学生になんですよね。早いですね」
「ああ、ついこの前まで新入生だったのにな」
 話題がプロポーションのことから移ってほっとしたのか、海もいつもの表情に戻って大学を見やる。
「憶えることがいっぱいだけど、楽しそうですね。海くんと一緒に大学部に通えるの、嬉しいんです」
 そうして、彼と目を合わせて笑いかける。
「海くんのこと、もっと知りたいです。これからのことも、こうやって話していければいいなって思ってます」
「……そうだな。オレも、柚のことをもっと知りたい」
 真っ直ぐに2人は見つめ合う。この時ばかりは照れることもせず、海は柚の顔を引き寄せた。