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魂の研究者・序章~それぞれの岐路~

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魂の研究者・序章~それぞれの岐路~

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 第28章 止めようとする者達

『……そう考えると、今年になっても私達の前に“彼”が現れなかった理由が解ります。彼は、今年初めにはこの世界に到着していた。けれど、準備を整える為に身を潜めていた……。過去に飛ぶ際、持って来れる物は殆どありませんから。大きくても、ミンツくん位のサイズが限度です』
「なるほど……ありがとうございます。さて……」
 フィアレフトとの会話を終えると、望は空港の出口に向けて歩き出した。途中の売店でアヌシー地方の地図を買い、外に出てからそれを広げる。
「病院は……ここですか。確かに、少々距離がありますね。……まぁ、ピノ様やアクア様達を護る為ですしね。無事に終わらせて、お土産買って帰るとしましょう」
 今から追いかけても、十分に間に合うだろう。目的地が病院ではなかった場合は見つけられない可能性もあるにはあるが、幸い、今日は光る箒を持ってきている。
(その時は、空から探しましょうか)
 前方に注意しつつ歩きながら、望は思う。
(……いざという時は、殴ってでも止めた方が良いでしょうかね?)

              ⇔

「……殴ってでも止めないといかんだろうな」
「まあ、俺達がここに居る理由の半分はそれだしなあ……まあ、力加減をうまくしねぇとナラカ行きになりかねねぇけど」
 ツァンダ郊外、ドルイド試験の行われる地、リュー・リュウ・ラウンの宿泊施設のラウンジで夏侯 淵(かこう・えん)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はそう話し合っていた。試験は15日からということだったが、それは15日集合の16日開始という意味だった。今日は放牧場の案内を受けた後は準備、予習に時間を使うように――つまり自由に過ごすように――と言われている。恐らく、この日にどう時間を使うのか、というのも合否に関わってくるのだろう。
 ラスが誰かから電話を受けたのは、ピノ達が管理人や試験監督に連れられて放牧場に行く直前だった。今は、受験者関係者の殆どがこの建物から出払っている。残っているのは電話を続けていたラスとその様子が気になったらしいフィアレフト、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)からラスの見張り役を仰せつかった淵達だけだった。ピノ達が試験を楽しめるように努めようとも思っていたが、今はファーシーやアクア、受験者や手伝いに来た他の仲間と動物達を見回っているのだろうしそちら側の心配はない。
 念の為、牧神の猟犬2匹に周囲の警戒をさせているし、不審者が来たらすぐに分かる。
 今、淵とカルキノスが目下警戒しなければいけないのは、ラスの動向だった。この施設から抜け出してフランスに行こうとしたら止めなければいけない。
「様子がおかしかったからな。何を聞いたのかは分からんが……」
「俺達に何も言ってこなかった辺り、ルカ達がフランスに行ってんのはバレてなさそうだけどなあ」
 ルカルカとダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はこの時間、パラミタに居なかった。リンに話をしに行った覚を守る為、リンが記憶を取り戻した――もしくは錯乱したその時に殺人事件が起きないようにする為にフランスの地に居る。ルカルカ達は、覚を止めようとは思っていなかった。リンに話をするように彼に言った当人でもあるルカルカは、すぐにでも記憶を戻すべきだと考えている。
“誰か”との通話を終えたラスは明らかにこちらを気にした様子を見せていた。というか、2人が居る故に行動が取れない、という内心が丸見えだった。今は、無人の喫煙室から出て携帯電話を返したフィアレフトを連れて上の階へ行っている。淵とカルキノスに聞かせたくない話をしているとしか思えなかった。
「非常階段へのドアには鍵が掛かっているし、外出するとしたらここを通るしかないだろうからな。上階から飛び降りるような真似もしないだろう。ラス殿は飛行能力も持っていないし……」
「そうだな。飛べねぇ以上は……ん?」
 淵に相槌を打ちかけて、カルキノスはふと思った。1つ、抜けている気がする。
「おい、あのミンツとかいう犬、どこに居るんだ? ピノに付いてったのか?」
「フィアレフト殿が居るからそれは無さそうだが……ん?」
 何か音が聞こえて、2人は窓の外を見た。ミンツが犬形態から飛空艇形態に変形して、宙に浮いている。高度を上げて行く先には――
「「…………!!」」

 カルキノスが外に出て行く中、淵は階段を一気に上がる。上階の廊下にて、フィアレフトと鉢合った。
「フィアレフト殿、ラス殿は……」
「……今から行っても間に合わないって言ったんですけど……」
 ――少女は、困惑した表情を浮かべていた。

「ああ……お前、空飛べるんだよな……」
「今から行っても間に合わねぇだろ! 戻ってきてお前が居なかったらピノが不安がるぜ!」
 飛空艇に追いついたカルキノスが回り込んで言うと、ラスは小さく舌打ちした。
「間に合うとか間に合わないとか、そういう問題じゃねーんだよ。なるべく早く帰って来るから、ピノには適当に言い訳しといて……“間に合う”?」
 苛ついた様子で話していた彼は、そこで眉を顰めた。
「お前、何か知ってんのか? ……そういや今日、ルカルカが居ないよな……」
「い、いいから戻れって!」
 まずい、と思いながら、カルキノスは慌てて言った。だが、それだけで大方の察しがついたらしい。
「……あのおせっかい女……話すんじゃなかった」
 直後、ミンツからミサイルが発射された。小型飛空艇ヴォルケーノに搭載されている機能だ。
「うぉっ……!!」
「きゃああああ!?」というフィアレフトの声が聞こえる。飛空艇のミサイルレベルで大怪我をするカルキノスではないが、それでも超至近距離からの不意打ち攻撃で吹き飛ばされる。完全に無傷というわけにもいかない。体勢を立て直した後に周りを見回すが、既に飛空艇の姿はどこにも無かった。ミンツの最高速度は、恐らく時速100キロ弱。出せる限りの速度を無理矢理出し、カルキノスから逃げたのだろう。
「だ、大丈夫ですかっ!? すみません、おじさんが……! わ、私が余計な機能つけたから……! まさかあれを使うなんて……!」
 廊下の窓辺に立つフィアレフトが大慌てで謝ってくる。少女に近付いて、カルキノスは笑ってみせた。
「ああ、かすり傷程度だから心配すんなよ」
「で、でも、早く手当てしないと……! な、何て言ったらいいか……! ほ、本当にすみません……!」
「それにしても、完全に頭に血が上っているようだったのう……」
 空の向こうを見ながら言う淵につられ、フィアレフトも彼の視線を追う。心配そうでもあったが、彼女の口から漏れたのは全く別の心配だった。
「み、ミンツくん、壊れなきゃいいですけど……」