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第7章 核の生成
 
 
「ハルカ、媒体をアイシャに。『核』は、媒体を投げ込んだ者の元に戻る」
 オリヴィエの指示に、ハルカは持っていた北都の『ドラゴンドロップ』をアイシャに渡した。
 女騎士達に支えられながら、アイシャはそれを、崖下のマグマ溜まりに投げ込む。

 ドクン、と、脈動のようなものを感じた。
 マグマの流れが、一点に集中し、コボッ、と大きな気泡が現れて弾ける。
 そこから、スウッと何かが飛び出したのを見て、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が受け止めようと飛び込むが、その手をすり抜けて、一直線にアイシャの元に戻ると勢いを失い、慌てて差し出したアイシャの手の中に落ちた。
 手先が砕けて失われた手で、抱えるようにアイシャはそれを持つ。

 元の『ドラゴンドロップ』とは、色も形も変わっていた。
 存在そのものが全く別の物になって、秘められた力の強大さが感じられる。
「あれが、『核』……」
 見守っていた北都やクナイが、とりあえず『核』の生成の成功に安堵する。
 だが、まだ終わりではない。

「……みな、さん……、私は――」
「気をつけて。とても大きな力だよ」
 言いかけたアイシャは、オリヴィエの言葉に、びくりと手の中にある『核』を意識した。
「受け入れられなければ、酷い拒絶反応が出るだろう」
「大丈夫なのです」
 ハルカが、緊張するアイシャの両手を支える。
「皆で、祈るのです。
 ハルカも皆が助けてくれたから、全然大丈夫だったのです」


「アイシャ――」
 『核』に、祈りを。アイシャの命を繋ぐ為に。
 場所を選んでいる猶予は無い。もう、アイシャは今すぐにでも。

 アイシャを想う祈りが、『核』がアイシャを生かす為の力に変える。
 リア・レオニスは一心に祈った。
(俺の中には沢山の君がいる……)
 どんどんあふれ出して来る、共に過ごした日々の記憶。
 ジャタの森での出会い、共に過ごした海やハロウィンの日、告白の時、模擬結婚式…………。
 アイシャを想い、愛の全てを祈りに変えて。
(俺はアイシャを愛してる。
 アイシャは世界に等しい、その想いを証明する。
 この日、この時の為に俺はいたのだ!)
 アイシャを助けたい。
 アイシャを助けたい。
 ただ、その想いだけを胸に。

(純粋さとは、なんて神々しく恐ろしい)
 リアの鬼気迫る様子に、ザインと共に見守る、パートナーのレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)は、そこまで一人の人を愛せるリアを眩しく思う。
 アイシャを誰よりも愛する、一途で純粋な青年。
 アイシャを助けたい。
 アイシャを助けたい。
 リアは一心に想いを捧げ、祈り続ける。
 どうかアイシャを助けてください。叶うなら、何と引き換えてもいい。
 アイシャを助けたい。
 愛する人を。
(逝かないでくれ! アイシャ!!)
 自分とアイシャの強い絆が、彼女を助けると、そう信じて――


『核』の生成に成功した、と、世羅儀からのテレパシーを天音は受け取った。
 場の召喚の儀式に関わり、維持し続けている人々に、それを伝える。
「さあ、最後の締めだな」
 ブルーズ・アッシュワースが宙を見上げる。

「えっと、『核』を生成できたら、皆の“思い”が必要になるんですよね」
 千返ナオの言葉に、かつみは頷いた。
「らしいな。せめて此処からでも祈ろうか。アイシャが助かるように」
 はい! とナオは元気に答える。
「届くかわからないけど……アイシャさん元気になぁれ!」

 まだ、四年なんだよ、と、レキ・フォートアウフは思う。
「四年だけじゃ、この世界の良さは解らないよ。これからそれを体験して行くんだ。
 だから……生きて」


 皆の、アイシャへの祈りを、願いを束ねることが出来れば、と、エースは『蒼空の絆』を、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は『戦乱の絆』を手に、『核』を胸に抱えるアイシャを囲んだ。
「誰かと一緒に未来を見据え、共に歩むことはとても楽しくて素晴らしいことよ。
 その幸福をアイシャさんも享受すべきだわ」
 リリアはそう願う。
 死んでもいい、そう思っていたという。けれど、差し伸べられた手をどうか取って欲しい。
「このまま崩れて行くなんて許さないんだからねっ。
 貴女と一緒にこれからを歩みたい人が沢山いるの。皆で幸せになりましょう?」
 生まれてから四年では、アイシャは世界の殆どを体験できていないも同然だ、と、メシエも思う。
 自由な時間も少なかっただろう。もう少し、この世界を楽しませてあげてもいい筈だ。
 そして、誰か、共に歩いてくれる存在が居るのなら、より日々は楽しく過ごせることだろう。思いはリリアと同じだ。
「もーりおんも、祈ってくれる?」
 エースが、もーりおんの両手を握った。
「これから数多の幸福が、途切れることなく彼女に降り注ぎますように」
 彼女を大切に思う、沢山の友人達と共に、これからを歩んで行けますように。
 ぎゅっ、と、もーりおんはエースの手を握り返す。

 結和・ラックスタインは、救護室とした遺跡群の一室で、ずっと両手を組んでアイシャに祈っていた。
(皆さんの気持ちが、どうか届きますように。
 アイシャさんが元気になりますように……)

(ねえ、アイシャちゃん……)
 詩穂は、これまでのアイシャの笑顔の全てを思い出した。
(これからは、その笑顔を皆にも見せて欲しいんだけど、いいかな……)



 畏れるように『核』を抱えていたアイシャが、皆さん、と呟く。
 ぎゅ、とその手に力を込めて、目を閉じた。
 『核』を――皆の祈りを、抱きしめる。
 『核』が淡い光を放って、アイシャの中に吸い込まれて行く。
 ほのかな輝きは、アイシャの体全体に広がって、溶けるように収まった。
 アイシャは、自分の掌を見つめた。
 砕けてなくなっていた手が、そこにあった。血の通った、生身の掌。
 今にも砕けそうだった脆い硬質の体が、柔らかい肌になったことが解り、横にいた女騎士がほっと息を漏らした。
 アイシャは顔を上げ、固唾を呑んで見守っていた人々を見渡す。
「アイシャ……」
 その無事を見届けて、リアの意識が途切れた。
「リア――」
 力尽きて倒れたリアを見たアイシャが驚くが、心配要りません、とレムテネスが笑った。
「貴女が元気になれば、すぐに起きて来ますよ」

「アイシャちゃん、よかった……っ」
 感極まって、詩穂が駆け寄る。
「詩穂……皆さんも、――本当にありがとう」
 自らの足で立ち上がったアイシャが、一同を見渡した時、空間がぐらりと揺れた。
 全員がはっとした。何が起ころうとしているのか、瞬時に全員が理解する。
「“場”の維持が……!」
 場の召喚の維持が終わり、返還が始まる。
 場が、五百年後の現在に戻ろうとしているのだ。
「話は後ネ! 急いで帰るわヨ!」
 地図を振り回しながら、アリス・ドロワーズが叫んだ。