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 第5章 最深部へ
 
 
「“場”の召喚……」
 ぽつりと呟いた、ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)の内心を理解して、大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)は、掛ける言葉を思いつけなかった。
 アイシャ元女王の功績は疑う余地もなく、その延命に尽力されるのも当然と理解している。
 ヒルダが思い出していたのは、都築中佐とそのパートナー、テオフィロスのことだった。
 助けたかったのに、力及ばず、死なせてしまった二人。
「……死者の蘇生は無軌道に出来ないことは解ってる。
 でも、過去の場が召喚できるなら、死んだ人も生きている時代から召喚できるのかしら」
「……ヒルダ……」
「うん、駄目なのでしょ。
 人に頼っちゃいけない、やるなら自分達で、ううん、それも違うのよね」
 色々な葛藤と、理屈では割り切れない思いがある。
 解っていても、納得できない。そう思うことは沢山あった。
 だが、自分は一度死んだのだ。そして、丈二との契約によって蘇った。
「そう、ヒルダはそうして生き返ったのよ……」
 ああ、だから。
 ヒルダはアトラス火山を臨んで思う。
 ――テオフィロス達も、いつか生き返ることができるだろうか。
「もし、そうなら、その時の為に、この世界は滅びちゃいけないよね……」
 そして、二人がまた出会い、友達になれる日が来るといい。
「ううん、きっと。その日は、必ず来るのよ……」
「ヒルダ」
 促す丈二に頷いて、オリヴィエ達に続き、火山内部へと向かう。
 いつか来る未来の為に、自分達は、成せることを成す。



“場の召喚”に成功し、召喚主達がそれを維持する中、オリヴィエやハルカ達が、火山内部へと突入する。
「皆、ありがとう……。さあ、ここからが正念場だわ!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が意気込んだ。
(アイシャ……絶対助けるからね。
 誰にも邪魔させない、絶対に守り抜く。だから頑張って、アイシャ!)
「ルカ、頑張りすぎんなよ」
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)が、そんなルカルカの様子を見て小さく笑う。
 彼はアイシャを救いたいと思う一方、教導団情報科としての仕事を遂行するつもりでいた。
 常に現状を俯瞰して把握するようにし、HCによる連絡と連携は怠らないようにする。
「私が皆も護るわ。
 火山の内部はとても暑そうだし、炎熱からの耐性魔法を自動発動させておくわね」
「俺がファイアプロテクトを掛ける。これも無いよりはマシだろう」
 ルカルカの言葉に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も言う。
「私達は熱にも火山ガスや硫黄毒にも備えてあるから割と平気だけど、皆は違うからペースを合わせないとね」
「我々だけ進めても意味が無いしな」
 閉ざされた場所で、マグマの暑さや熱さは壮絶なものだろうと予測する。
 二人は万全を期する為に、打ち合わせを怠らなかった。

「おおー、すっげえな。突入直後でこの暑さ。奥の方はどうなってんだ」
 こもったような熱を感じる。
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は、ビデオカメラを手に、ひっそり火山内部に突入する一行に加わっていた。
 特に何をするつもりもないが、彼等の一連の行動を、全て撮影しておこうと考えた為だ。
“場の召喚”とどちらにするか迷ったが、アイシャがどうなるのか気になったので、こちらを撮影することにする。
「今回のことは、二度と立ち会う機会がないだろうからな……、全てを記録映像に収めて、学術資料として後世に伝えるべきなんだよ」
 うんうん、と一人納得する。
(そう、決して金儲けのチャンスとか思ってないぜ)
 とにかく、最深部に到着し、『核』の生成やアイシャの結末まで、全てを記録に収めるつもりだ。


 ハルカはアイシャの側にいるように、とオリヴィエは指示する。
 アイシャを護ってあげなさい、という言葉に、ハルカも女騎士達も意味が解らないでいたが、LEDランタンを預けたぬりかべ お父さん(ぬりかべ・おとうさん)の上で、アリス・ドロワーズが火山性ガスの検知の為に連れていたパラミタカナリアがもがき苦しみ始め、
「この辺は危険ネ!」
と警告したところで、女騎士達は理由に気付いた。
 暑さや熱さは凌ぎようもないが、息苦しさが全くない。
 ハルカの周囲が毒素から、結界のように護られていた。
 最も、ハルカの結界は無意識のもので範囲も広くない。オリヴィエがハルカをアイシャの傍に置いたのはその為だろう。

 オリヴィエには、アキラ・セイルーンを始めとした数人が護衛についていたが、アキラはこの場に、エリュシオン、カンテミールのドワーフ達を誘い出していた。
「炭鉱とか洞窟って言ったらやっぱりドワーフだよな!」
「そんな理由で呼び出したのか? まあ暇だったので構わんが」
 アンドヴァリが呆れ、その言葉にアキラも呆れる。
「暇って、遺跡の修復はどうしたよ」
「お前が言うか?」
「ま、それはともかく手伝ってくんない。
 依頼主が女王だからね。報酬も思いのままだからさ。
 ところで、この内部のこととか何か知ってる?」
「詳しくは知らんのう。
 わし等の坑道が、此処の地下遺跡に繋がっている場所があるが」
「え、そうなの?」
「掘って行ったら地下遺跡に出てしまったらしいぞ。
 そこで引き返して別の道を掘ったと言うが。まあともかく、来たからには手伝おうかの」
 ドワーフ達は魔法のつるはしを手に、前衛の者達に混じって、邪魔な突起や危険な足場などをガンガン崩しながら突き進んで行く。
 幸いにも、お父さんが通れない程に天井の低い場所は少なく、頭をがりがりと引っ掛けて、上にいたアリスが悲鳴を上げて避難したのは、二回程で済んだ。


 内部は、特に迷宮のような構造ではないので、気をつけていれば迷うこともなさそうだが、
「何かあった時の為に、退路の確保はしっかりしておかないとネ」
と、お父さんの上でアリスはマッピングに余念が無い。
 “場の召喚”の維持がいつまで持つか解らないし、最悪、『核』を生成する前に時間切れとなる可能性もあるのだ。
「ダリルのHCのオートマッピングを使って、なるべく無駄道を行かないようにしましょう。
 博士の判断も頼りにするわね」
 ルカルカの言葉に、オリヴィエはハルカを見た。
「いや、道はハルカが知っているよ」
「えっ?」
 ハルカは、かつて此処に来たことがある。
 別の存在に乗っ取られて同化し、別人と化してしまった祖父に此処に連れられ、そして、最深部のマグマ溜まりに落とされて、『核』となったのだ。
 狭間の状態で存在していた時、自分が死んだ時の記憶は無かったが、今、再び生き直すことのできたハルカは、その時のことを憶えている。