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ファイナルイコンファイト!

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ファイナルイコンファイト開幕



「旧型もここまで並ぶと壮観ね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は薄暗い格納庫を見渡しながら呟いた。
「こっちですよー」
 先導するのは【大会運営スタッフ】の腕章を点けた女性整備士で、ちらちらとセレンフィリティとセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の様子を窺う。というのも、露出度の高い水着のような衣装を二人がしているからである。
 二人は今回、ラウンドガールというかキャンペーンガールとしてこの大会に関係しており、整備士と同じ運営スタッフの一員である。腕章は水着に似合わないのでもちろんつけてない。
「操縦をお願いしたいのはこの子です」
「テスト機って、どう見てもクェイルなんだけど?」
 セレアナ達の前には、膝をついたクェイルの姿があった。
「中身は別物、とか?」
「いえ、中身もそのままです」
「テスト機なんじゃないの?」
「えーっとですね」
 ぺらぺらと資料らしきものをめくる整備士。
「えーとですね、今回の大会は全部AIで動いてるのがご存知ですよね。このクェイルはそのAIの中継用にカスタマイズされています」
「あの頭の上にちょこんとついたアンテナがそれ?」
「はい、そうです」
「中継ってどういう事?」
「えっとですね、実はまだイコンサイズにまで自律行動装置を小型化させるのはできていないのです」
「それって、どうゆう事?」
「そのため、会場にスーパーコンピューターを運び入れて、演算の八割はそちらで行ってるんです。その電波の送受信の補助的な役割を担ってもらう感じです」
「つまりこれは、能力としてはただのクェイルと同等って事ね」
「はい、装置の小型軽量化によってクェイルの性能は百パーセント発揮できます!」
「でも、クェイルなのよね」
「えぇ、ですが整備は万全です。あと乱入機が乱入してくるまでは絶対に撃墜されないでください」
「……え?」
「でも、教導団出身の現役軍人ですからイコンの扱いなんてお手の物ですよね。いやぁ、助かりました。運営スタッフは乗り手なんていなくてほとんど整備の人ばっかりで、私も動かすぐらいはできるんですけど実戦なんてとてもできはしませんから」
「唐突に早口になったわね」
 当然であるが、運営スタッフは今回の参加者を全員把握している。スタッフの中でこの修羅場にもろ手をあげて参戦する者などいなかったのだろう。例え戦うのが目的でなくとも、イコンに乗って戦場を駆け回るのは大変だ。そもそも、なんでイコンにそんなのを載せたのだろうか。
「あたしもペーパーテストで辛うじて単位を取得しただけなんだけど」
 呟きは、しかし整備士には届かない。
「ねぇ、今乱入機が出てくるまで言ったわよね?」
 セレンフィリティよりは落ち着いた様子のセレアナが確認する。
「はい」
「つまり、私達は最初から最後まで出ずっぱりって事?」
「はい、乱入機が入ってくれば参加者さんもそちらに気を取られると思いますから、AI機の負担が減ればこの子のお役目もおしまいです。そこから先は、乱入機として活躍していただければと思います」
 屈託の無い笑みで整備士は答えると、「それではよろしくお願いします」と小走りで去っていった。
「逃げたわね」
「ねぇ、この機体のパイロットは風邪で急遽病欠したんだっけ」
「逃げたわね」
「でしょうね……」



「ふっふっふ…!」
 会場、観客席に不敵な笑い声が響く。
 中央に設営された巨大なモニターは真っ黒なままだったが、ぽんと文字が浮かび、間もなく映像が中継された。
「このNO1アイドルラブちゃんが来たからにはもー安心よ!」
 ラブちゃん専用インカムを装備したラブ・リトル(らぶ・りとる)がでかでかと移されると、ラブは大きく手をあげながら、
「ファイナルイコンファイトの実況は皆のアイドルラブちゃんにまかしとけー♪」
 と観客にアピールした。
 それからすたっと席につくと、隣を手で示しながら、
「解説はロボット研究一筋! どけちロボットマニアの高天原鈿女女史でお送り致します! あたっ!ちょっと鈿女ー!小突かないでよー!」
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)を紹介した。
「誰がどケチよ」
 呟きを綺麗にマイクが拾う。
 そこでカメラを向けられた事に気付いて姿勢を正す。
「解説しろって言われてもねぇ…。私はイコンのデータ収集に来たんだから、各機体の説明は想像や予測、発表されてるカタログスペックの範囲でしか説明できないわよ。切り札や必殺武器なんかはもっての他ね」
「いや、そこは軽くよろしくお願いしますぐらいでいいんじゃないかな?」
 あはは、とラブはとりあえず軽く流して軽く紹介しなおしておいた。
「はーい、それでは改めまして、この大会、ファイナルイコンファイトについての説明と連絡を行います。ところで、鈿女、なんでいきなりファイナルなの?」
「最初っからクライマックスって事なんでしょ。知らないわよ、大会運営じゃないもの、この中継だってあなたがジャックしたようなものじゃない」
 元の運営の予定では、淡々とイコンの戦闘映像を流す予定だったのだが、「そんなのつまーんなーい!」とラブがこの席を用意した(させた)のである。なんでそんな唐突な事になったかといえば、まだ始まっても無い応援にラブが飽きてしまったからで、鈿女は完全な被害者である。
「カメラカメラ、中継中継。え、えと、では最初っからクライマックスなファイナルイコンファイトについての説明をしますね。この大会は三十分一本勝負、用意された広大なフィールドには大量のエネミーイコンが解き放たれています。これには色んな種類がいて、種類ごとに得点が違います。そう! 一番得点を稼いだパイロットが優勝です! あとの細かいところは会場のあちこちで配られてるこーんな冊子を見てくださいねー」
「ざっくりとした説明ね。あと少し補足すると、今回の会場は有限なためイコンの武装に制限が架ってるわ。具体的には射程制限で最高有効射程に制限がかかってるわ。強力なビームで会場全体をなぎ払う、みたいな事はできないから注意ね」
「さらに重要なポイントとして、終了五分前になると乱入機がやってきます。これはエネミーイコンと違って、なんと中にパイロットが入っていますのでポイントも桁違い!」
「パイロットといえば、今回のエネミーイコンのAIを稼動させるために空京が誇るスパコンがフル稼働しているそうよ。イコンにAIを積み込んで実戦投入には、まだまだ時間がかかりそうね」
「ラジコンみたいな感じ?」
「大体そんな感じらしいわよ。さすがに機体制御と戦闘を同時に行うのは無理だったらしいわ」
 映像にかがんだ小さい影が映り、こそこそとラブに何か耳打ちするのが流れた。
「えー、間もなく試合が始まるそうです」
「準備らしい準備もしてないからグダグダね」
「いいのいいの。それじゃあ、会場のみなさんにも、カウントダウンをお願いします。十秒前―――ごー、よん、さん、にい、いち、試合開始!」
 中継映像に大量に映し出されたイコンに対して、とってもささやかな花火が数発、ぱんぱんと撃ち上がって試合開始の合図が行われた。