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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●海と柚の五年後

 高円寺 海(こうえんじ・かい)はその後、バスケットボールのプロの道に進んだ。
 一流チームと契約し、一年目こそぱっとしなかったものの、以後はめきめきと頭角を現して、今ではチームの主戦力としてめざましく活躍している。ルックスが良いこともあって人気も抜群に高い。オールスターゲームのようなものがあれば毎回、二位と大きく得票差を開けてトップ選出されるほどだ。
 そんな彼を甲斐甲斐しくサポートするのが、妻である高円寺 柚(こうえんじ・ゆず)だった。
 シーズン中の海は忙しい。
 週に一日しか休みがないばかりか、アウェーのときはあまり会えない。そのための柚は労を厭わず、全国どこでも応援に行っていた。
 海は人気選手ゆえ、妻としては心配なこともある。
 ――海くんのファンって可愛い子多いし……。
 どうもそのことが心配なのだ。根が真面目な彼に浮気の怖れはないと思うのだが、ひょっとするとひょっとするということもあるので。
 結婚してから五年が経つものの、相変わらず彼女と海の身長差は縮まっていない。彼の練習相手だってしているのに、伸びない。彼女は少し、このことを気にしている。
 ただその一方で、胸は大きくなった。
 それはやはり海のおかげ……なのだろうか。

 今日はホームでの開幕戦、今季のチームを占う大事な一戦だ。
 柚はいつものように、二階席の後方で海を応援していた。
 コートサイドのプレミアシートはもちろん、一階の自由席であっても前方には熱狂的な海のファンたちが密集しているためだ。彼の一挙一動にファンたちは黄色い声をあげ大騒ぎするため、ちょっと柚には近づきづらいものがあった。
 いや、それよりも、ヤキモチを焼くことになるからかもしれない。なにせ前方にいる女子たちは、みんな目がハートになってしまっているのだ。その中で心穏やかでいられる自信がない。
 ――海くん、カッコいいから仕方ないんですけど……。
 自分の夫が女の子に大人気なのは、妻としてはなんとも複雑な心境だ。嬉しくないわけではないが、なんともモヤモヤするというか。
 ともかく、応援に集中するためには後方の席がいい。
 試合後はカフェで待ち合わせする。
 ――なぜなんでしょう?
 一人? とかなんとか言って声をかけてきた男性に、「連れがおりますので」と断りを入れて柚は小首をかしげた。最近、一人で海を待っているとこのように男性から声をかけられることが多い。なにかそういうのが流行っているのだろうかと、そんな風に考えている。
 ……それはこの数年で、柚がぐっと魅力的になったせいだということに、当の本人だけが気づいていないのだった。
「海くん!」
 彼の姿に気がついて、柚は手を振った。
 静かな自然公園で、肩を並べ歩く。
 公園デートというべきだろうか。これが夫婦の、ホームゲーム終了後の習慣になっている。
 波打ち際の砂浜を眺めたり、四季の移ろいに心ときめかせたり。
 雨が降っていても、それはそれで、相合い傘を楽しめるからいいものだ。
 そうしてずっと、恋人同士の続きを楽しむ。
 公園を一通り歩けば三十分ほどかかる。ぐるりと一巡りして元の場所に戻ると、ベンチに海を座らせて柚は、彼の手を握りヒールをかけた。
「お疲れ様です」
「ありがとう」
 微笑みあって、一連のデートを締めくくる。
 ささやかだけど大切な習慣だ。
「海くん」
 ベンチにならんで腰掛けたまま、柚は言った。
「うん?」
「これからもこうして一緒に歩んでいけたらいいですね」
「そうだな……でも」
「でも?」
「オレたちの間にもう一人、小さい人がいるともっといいかもな。いや、二人とか三人でもいいんだ。柚さえよければ……」
「それって……」
 柚は目を輝かせた。海は少し、気恥ずかしそうに言う。
「そろそろ、子どもを作ること、考えないか?」
「素敵です!」
 柚は彼の手をしっかりと握った。子どもと一緒に彼の試合を応援する光景を想像すると、それだけで胸が温かくなる。
「海くん、愛してます」
 ちょっと照れながら柚は言った。
「オレも愛してる」
 やはりちょっと照れながら、海も言った。