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世界を滅ぼす方法(第3回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第3回/全6回)

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 第7章 大海嘯


 速やかに行動する必要がある。
 レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)五条 武(ごじょう・たける)の決断は素早かった。
 つまり、ジープで移動したというハルカの祖父、ジェイダイトを追う為に、ハルカ達とは別行動をとって先行することにしたのだ。
「朗報を待ってるネ、ハルカ!」
 そう言って、すぐさまザンスカールを出て行くレベッカ達をハンカチを振って見送り、改めて旅支度をするハルカ一行である。


 また、影野 陽太(かげの・ようた)は、更にその先のジェイダイトの行動を予測した。
 ジェイダイトは確かに、ヒラニプラへ戻るジープに同乗した。
 だがそれは、ジープがたまたまヒラニプラに行くものだっただけで、彼自身の目的地がヒラニプラということではないのでは、と感じたのだ。
「だとしたら……おじいさんは何処に向かっているんでしょう……」
 何となく。空京ではないか、と陽太は思った。
 スタート地点に戻る、というのは少し確率的に低いような気もしたが、けれど、そんな気がしたのだ。
 駄目で元々、という感じでもあるが、追うなら、少しでも早く出発した方がいい。ジェイダイトがヒラニプラを経由して空京に行くなら、先回りできるかもしれない。
 陽太は、ハルカに置手紙のみを残して、早々に出発した。


「……彼は、一足先に行くそうですわ」
「よーたさん、行っちゃったですか……」
 残念そうに言ったハルカに、置手紙を読んだ高務 野々(たかつかさ・のの)も、
「せめて本人に一言言って行けばいいですのにね」
と肩を竦める。
「でも、合流するまでに、空京で美味しいお菓子を探しておくと書いてありますよ。
再会が楽しみですね」
と言った野々に、そうですか! とハルカの表情も明るくなり、それを見て、ふふっと笑って野々はハルカの頭をくしゃりと撫でた。

「さて、何だか既に恒例になっとる感じじゃけど」
 光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が、ハルカにパラ実生もかくやという得意の半眼の強面で「お守りを出せ」と迫った。
 『禁猟区』の掛け直しの為である。
「はいです」
 しかし既に彼の外見を恐れる者はここにはいない。
 ハルカが笑顔で差し出したお守りを手に取って、翔一朗は首を傾げた。
「……何じゃあ?」
 そのお守りは、また前回と、少し違うような気がする。
 こう、心なしか、ボリュームが増えたような。
 それに何だか、妙な匂いがするような。
「妙な、とは失礼ですね。
 ポプリを仕込んで匂い袋仕立てにしたんですよ。可愛いでしょう?」
 野々が横から得意げに微笑む。
「ああ……まあ、ええんじゃねえの」
 そういうことのよく解らない翔一朗は曖昧に答えたが、ハルカが喜ぶならいいことだと思いつつ、『禁猟区』を施したお守りをハルカに渡した。
「ほれ。持っとけえ」
「ありがとなのです」
「敵襲に備えるのも勿論大事ですが」
 そんなハルカに、樹月 刀真(きづき・とうま)が念を押すように言った。
「くれぐれも勝手にいなくなっては駄目ですよ?
 あと男湯脱衣所にも入ってはいけません」
 人差し指を上げながら言うセリフの、男湯脱衣所、が心なしか強調されていることに、ハルカは全く気付かずに
「はいです」
と頷いたが、聞き捨てならない、と口を挟んだのはベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)だった。
「おいおい、何でこっちをチラリと見るんだよ。
 俺は無実だ! 何もしてない!」
「ハルカを脱衣所から出した後、密かに『惜しいことした……』みたいな感じで舌打ちしていましたよね」
 ハルカがいつの間にか男湯の脱衣所に入り込んでいたのには気付かなかったが、その後の騒ぎは勿論見ていた。
 そして男性故に男湯の脱衣所に居残っていた刀真は、女性陣は誰も見ていないがベアがひっそり悔しがる様を見ていたのだった。
「ロ……ロリコンですか?」
 野々と共にハルカを両側から抱えてベアと距離をとらせようとしながら、ここがパートナーから学んだ突っ込み所!? とソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が言えば、心外だ! とベアは力強い握り拳と共に叫んだ。
「俺はロリコンじゃない! ただ小さい子が好きなだけで!!!!!!」

 ――――――――――――。

 沈黙がその場を支配した。

「………………それを」
「はっ、マナ!? 何だその手のホーリーメイ……」
「ロリコンと言うのよッッッッ!!!」

 パートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)によって、ベアは撲殺された。


「もーホント、しっかりハルカの横を固めてなきゃ。
 女風呂に乗り込んでくる馬鹿はアレだけじゃないしね!」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、そんなやりとりに決意を新たにする。
 何しろ相手はハルカだし、それこそ、寝る時もトイレも一緒に行くくらいの気構えでないと、自分が安心できない。
 不埒な輩に対しては、光条兵器のモーニングスターの一撃をお見舞いだ。
「おいおいセッシー、言っておくが俺は裸見る為に女風呂に行ったんじゃない!
 あれは不可抗力ってやつだぜ」
 パラミタ刑事・シャンバランは常に正義の旗の下に行動するのだ。
「お風呂入ってる女性の前に正義関係ないわ」
 セシリアはビシリと言い放った。



 そんなやりとりはともかく、ヒラニプラに戻るためには改めて旅支度をしなくてはならない。
 買い出しに出た先で、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は大発見をした。
「こ……これは、『熊が乗っても壊れない! 万能自転車』じゃないかっ!」
 実際は特に万能なわけでもなく普通の自転車なのだが、この巨体が乗れる自転車というのは貴重なのだ。
 ほくほくと購入し、パートナーのソアに見せようと乗って帰る。
「うむ、空飛ぶ箒もいいが、やはりこの自転車の疾走感というのは良いよな。あっ、ご主人!」
 前方に、ハルカと共に歩いている、目指すソアを見付け、声を上げる。
 振り返ったソアは驚いた顔をし、ハルカは
「わあ!」
と感嘆の声を上げた。
「ベア……自転車……?」
「おう! かっこいいだろう、ご主人!
 こいつさえあれば、ヒラニプラまでひとっ飛びだぜ!」
 得意げなベアに、ソアは困った顔をした。
 言いたい、しかしこれは、突っ込んでもいいのだろうか……? でも…………。
「まるで動物園で曲芸している熊ですね」
 そこへ、背後から、にっこり笑ってそう突っ込んだのは、支倉 遥(はせくら・はるか)だった。
「違ぅわ!!」
 振り向き様、ベアは猛然と怒鳴り返す。
「怒っちゃ駄目ですベア! 可愛いですから!」
「くまさんかわいいですから!」
 思わず宥めようとするソアと楽しそうなハルカの言葉は勿論、ベアにとって追い討ちである。

 ここでの正しい突っ込みは「自転車は空飛ばない」であるのだと指導を受けたソアは、突っ込みって難しい……と痛感するのだった。



「真希様、ひとつ、調べておきたいことがあるのですが、ヴァイシャリーへ戻る前に、イルミンスール図書館に立ち寄っても良いですか?」
 ユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)の言葉に、遠鳴 真希(とおなり・まき)
「勿論、全然オッケーだよ?」
と快活に笑った。
 ユズは噂にハルカの話を聞き、彼女の持つ”アケイシアの種”という物の話を聞いて、気になったことがあったのだ。
「何調べんの?」
 手伝うよ、と言う真希に、そうですね、とユズは説明する。
「”アケイシアの種”というものが、記憶操作に関するアイテムなのでは、と思ったのです」
 ハルカの記憶に欠落した部分があるのは、それのせいなのでは、と。
 考えていることの詳しい部分は説明せず、それだけを言ったが、真希はなるほど! と言って、特に不審にも思わなかったようだ。
 ユズはそれに内心で安堵した。

 しかし”アケイシアの種”という物を説明した書物は見つからなかった。
 アケイシア、とは、何を指した名前であるのだろう。
「……”種”……ですか」
 ふと横を見ると、共に書物を調べていた真希が、眠ってしまっている。
 ふにゃ、と寝言を漏らす真希を見て、ユズはふっと微笑んだ。
 ハルカは、どうやってあの”種”を手に入れたのだろう。
 何処でなら入手することができるのか? 真希に向けたものとは質の違う溜め息をふっと漏らし、ユズは書物を閉じる。
 ――もしも、仮説の通り、”アケイシアの種”が、記憶操作系のアイテムであるのなら、ハルカが色々なものを忘れてしまっているように、真希の心の深いところにある苦しみを、忘れさせてあげられるのに、と。



「大海嘯?」

 ダイイングメッセージが
「ハルカ結婚してくれ……がくっ」
であった為、ハルカの同行が許されなかったベア・ヘルロットは、マナと共に、何か、彼の目的などを知ることができないかと、改めてジェイダイトが宿泊したという宿を訪ねていた。
 その辺の情報を得ることはできなかったが、代わりに、宿の女将からその話を聞いた。
「南の方へ旅をするんでしょう? この季節、大海嘯に巻き込まれないよう気をつけな」
と。
「……何だか、展開が読めてきましたね」
 マナはぽつりと呟いた。