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世界を滅ぼす方法(第3回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第3回/全6回)

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 溜め息と後悔しか浮かばない。
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の自責の念は、いつも陽気で快活なパートナーのテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)の表情も曇らせるほどだった。
「私が、もっとしっかりしていたら……」

 『ツチ』との戦いの時、最後の一撃を与えたのはロザリンドだった。
 あの時、もっと違う戦い方をしていたら、聖地は魔境化しなかったかもしれなかった。
 皆に、そしてヘリオドールに、何度謝っても足りないと思う。
 テレサは、下手な慰めの言葉も言えず、黙ってそんなロザリンドを見守っていた。

「え?
 何を言っているんだ、あの戦いは皆で戦ったんだ。
 ロザリンドだけが自分を責めるのはおかしいし、ロザリンドだけのせいじゃない」

 意気消沈しているロザリンドに、理由を知った村雨 焔(むらさめ・ほむら)が言った。
「そぉだよ。皆で戦ったんだし、皆で頑張ったんだし、悪いなら皆だし、でも皆、悪くないって私は思うよ?」
 アリシア・ノース(ありしあ・のーす)も当然のような表情で頷く。
 結果として聖地は魔境化してしまったが、それがロザリンドのせいだとは、誰も思っていない。
 自分達は、『ツチ』との戦いに勝利したかもしれないが、魔境化を避けられることはできなかった。
 ロザリンドの攻撃だったからこそ、『ツチ』に致命傷を与えられたのかもしれないが、それでも、最後の一撃がロザリンドのものだったのはたまたまだった。
「ミスは取り戻せば良い」
 クレアが静かに呟いた。



 砂漠を進むという一行と別れ、荒野に出て街道に辿り着いたところで、シャンバラ教導団に連絡をしようと、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が携帯を取り出した。
 飛空艇の通信機能は無いのか生きていないのか、砂漠では連絡がつけられなかったが、街道沿いなら携帯電話が通じる。
 聖地に関することを報告して、上手く話をつけて、移動手段として、全員を一度に運べるトラックを貸し出して貰えないかなあ、という思惑もなきにしもあらずだったが、それはあっさりと一蹴されてしまった。
「何よ〜、まあちょっとは解ってたけど、ちょっとくらい貸してくれたっていいのに〜自力で頑張れって何よう」
「まあ、まさか車両を貸し出してくれるなど、無いだろうと思ってたがな」
 黙って電話させていたくせに、そんなことを言うパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を何よう、と睨み付け、
「ま、仕方ないか! 自力で頑張るわよ」
と前向きに決意した。



「シャンバラ荒野の各地では、パラ実生が団体で略奪行動に走っているという。
 対策を整えておかねばなるまい」
 クレアは、一行の斥候となるべく、パートナーのハンスと打ち合せる。
「ハンスの『禁猟区』を用いて気配を探り、物見役を発見したら、物陰から威嚇射撃を……」
 そんな2人の相談を、ラルクがぽかんと見ている。
「……何だ?」
「いや、えらい細かい打ち合せしてんなあと思って。
 基本的に、荒野を走り回ってカツアゲなんぞしてる連中だろ?
 何つーか、もっと単純に馬鹿だぜ、奴等」
 きっぱりとそんな風に言われて、クレアは虚をつかれたような顔をする。
 行き当たりばったりで追いはぎをしているだけの連中ならいい。
 しかし組織立ったプロの強盗団だとしたら、何の策もなく街道を進むのは得策ではない、と判断したのだが。
「とりあえず、備えあれば憂い無し、と言いますし」
 ハンスが苦笑して言えば、そんなもんかね、とラルクは場を離れた。
「それにしても、カツアゲ団って……
 やってて恥ずかしくないのか聞きたいもんだぜ」
 同じバラ実生徒である、アイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)が肩を竦めながら苦笑する。
「そりゃお前……『てっとり早く効率的な時給自足はパラ実生の基本理念』だろうが」
 お前パラ実生徒のくせに奴等を解ってないな、と言うラルクに、
「それ自給自足って言わない!」
と、アインより先に、周囲で聞いていたルカルカ達が突っ込みを入れた。


 そんなわけで、とにかく斥候として先行していたハンスが、やがて焦ったように戻ってきた。
「パラ実生徒のバイクがこちらに向かっています。数は5」
 成程、逃げも隠れも策も労しない、堂々とした暴走族だった。
「5って随分少なくないか」
 視界に見えてきたバイクを確認して、ロイ・エルテクス(ろい・えるてくす)が言うと、ばっかやろ、とラルクが言った。
「パラ実生は1人見付けたら30人いると思えが鉄則だぜ!」
「ゴキブリですか」
 ロイのパートナーであるミリア・イオテール(みりあ・いおてーる)が小声で突っ込むと同時、正面中央にいるリーダーらしき男が、下卑た笑い声を上げた。
「よぉくココまで来たなあ! さあ、団体さんのお付きだぜ、野郎ども!! 貴様等、ここを通りたきゃあ通行料を置いていって貰おうか!」
 ざざん! と、一行の両側と後方から、群れのバイクが近づく。
 その数、総勢約150。「ビンゴ!」アインがラルクを見てぱちりと指を鳴らした。
「しかし何という年代もののセリフ」
 ミリアが呆れる。
 あのリーダーのセリフには、失笑するしかない。

「しんがりは京に任せるのだわ!」
「後ろの奴等は俺達がやるぜ!」
 九条院 京(くじょういん・みやこ)が、パートナーの文月 唯(ふみづき・ゆい)と共に、真後ろを振り返りながら叫ぶ。

「それじゃあいっちょ、やってやるか!」
 ロイも横から攻めてくるパラ実生徒を見ながら言った。
「……加勢する」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)が、パートナーのユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)と共にその横に立ち、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)も、パートナーのアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)に目配せした後、ロイとは反対側のパラ実生徒に向かい、ものも言わずにアシッドミストを叩き付けた。
「弱い者は群れるものだな。邪魔だ。散れ」
 すっと目を細めて、口の端を吊り上げる。

「あなたは下がっていてください」
 アルゲオは、フェリークスを戦闘に参加させずに下がらせた。
 彼女は戦闘に参加しないよう、イーオンに指示を受けていたのだ。
 頷いて、フェリークスは下がる。
 一方、
「行くわよ、テュティ!」
 牧杜理緒は、テュティリアナを伴って、前方中央に突っ込んで行き、
「続くわ!」
とルカルカが、そしてロザリンドが続く。
「リアン、後方の人達の援護をしてあげてください」
「よかろう」
 シャンテはリアンを後方に回して、自分は前方の支援に入る。
「いーい度胸だ。
 パラ実四天王に続く、十二神将が6! アルマンディン様の実力を思い知らせてやるぜぇ!!」
 アルマンディンは、パラ実伝統の武器、釘バットを振り上げて叫んだ。
 6/12。
「それは何というか、微妙なところですね」
 ひっそりと村雨焔が、呆れたように呟いた。


 結果的に、
「この世に悪の栄えたためしなし!」
と叫びながら、手当たり次第に魔法を放った京や、容赦無く魔法を使いまくったミリアを始めとして、力を使うことを極力抑えたリネン以外は、それぞれスキル使いまくり、SP使いまくり、暴れまくりと全力を尽くし、彼等はパラ実カツアゲ部隊に圧勝した。
 所詮、数を揃えようと、チンピラごときにやられる彼等ではなかったのだ。
「そんなことより、折角の出会に感謝して、私達の役にたってほしいんだけど」
 地に伏して、苦しげな呻き声を上げるカツアゲ部隊に、ルカルカがにっこりと笑った。

「これだけあれば充分だろう」
 奪い取ったバイクの数を確認して、クレアが頷いた。
 奪わなかったバイクに積まれていた、水や携帯食料も
「多分これで全部だよぉ!」
 まるで遊びの一環のように、嬉々として作業に励んだアリシアが、代表して手を振る。
「て……てめえら、血も涙もねえ略奪者か!」
 カツアゲ部隊のリーダー・アルマンディンが、ぐったりと倒れ伏しながらも、その見事な接収の手際に、反抗の叫びを上げようとするが、
「何を言いますか。『パラ実生徒はカモ』というシャンパラ共通の掟を知らないのですか?」
と、ミリアが絶対零度の笑みを浮かべる。
「そうそう。ていうか人聞き悪い。これは正当防衛よ」
 実は過剰防衛っていうか私達の方がカツアゲ部隊っぽいよね、と思わないでもなかったルカルカだが、そんなことはすっぱり忘れることにして、満面の笑顔を浮かべた。
 やれやれ、と、そんなルカルカを見て、ダリルは肩を竦めるが何も言わない。
「さてと、それじゃ行きましょうか。
 バイク運転できない人は誰かと同乗してね」
 一行が颯爽と立ち去ったのだった。

 これで移動手段も得たし、一刻も早くイルミンスールに向かい、向こうの仲間達と合流しようと先を焦るリネンに、
「ちょっと待ってください、聖地からの脱出と、街道までの移動、パラ実生徒との戦闘と、立て続けで皆疲れています。
 まずは一番近い村へ行って、体を休めることが先です」
と焔が反対した。
「……でも」
「賛成だな。
 万全の状態で先に進むので無ければ意味はない」
 イーオンが冷ややかに言い放つ。
 そもそも、全員、あの後で休むことを見越して、全力使いまくって戦ったのだ。
「……しかし、情報を一刻も早く、皆に伝えなくては……次の魔境化を防ぐためにも」
 力説しかけて、はっと我に返る。
 何をむきになっているのか。自分らしくもない。
「……いいえ、何でも、ないわ。休みましょう。確かにその方がいい」
 ふる、と頭をひとつ振って、リネンは主張を変える。
「リネン……」
 心配そうなユーベルに、何でもないわ、と、無表情を向けて答えた。