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世界を滅ぼす方法(第3回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第3回/全6回)

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 彼は叶わざる者だった。


第6章 目指す者達
 
 
 ジルコン村でハルカの祖父の足取りを調査していた葉月 ショウ(はづき・しょう)は、ザンスカールでジェイダイトを探していたハルカ達からの連絡で、彼が既にザンスカールを出てしまったという話を知り、イルミンスールに向かって彼等と合流するのではなく、ヒラニプラに向かうことに決めた。
 そのジープとやらよりも、自分の方が、ヒラニプラに近い位置にいるはずだ。
 ジープが途中で自分を追い越そうとする形で、彼等を補足することができるかもしれない。
 そんな可能性に賭けたのだが、街道を北上して行く冒険者達一行とすれ違った他は、ショウはジープと遭遇することなく、ヒラニプラに到着してしまった。
「おかしいな……」
 あてが外れて、がりがりと頭を掻きながらショウは首を傾げる。
 調べてみたところ、ジープはまだ到着していないらしく、途中で会えなかっただけではなく、自分の方が先に着いたとは予想外だ。
「どこかで寄り道でもしてんのかな」
 とりあえず、ハルカ達に、ジェイダイトはまだこちらに到着していない旨の連絡を入れる。
 上手く行けば、ハルカ達の方でジープに追い付くかもしれないな、とちらりと思った。


 ゲー・オルコット(げー・おるこっと)もまた、火山の調査から、ハルカ達に合流しないで、ヒラニプラへ向かうことにした。
 ジルコンの村まで戻ったところで、ジェイダイトに関する情報を聞いたからだ。
「どして?
 イルミンスールに向かって、ハルカ達と合流した方がいんじゃない?」
 パートナーの藤波 竜乃(ふじなみ・たつの)が訊ねる。
「ここからなら、イルミンスールより、ヒラニプラの方が近い気がする」
「そんな理由?」
「だけじゃない。
 勿論自分も、彼等と合流したいのは山々だが、イルミンスールに向かうより、ヒラニプラに向かった方が、爺さんを見付ける確率が高いと思うからだ」
 ふうん、と、首を傾げた竜乃は、内心では、でもハルカ達と合流した方がいいんじゃないかなあ、と思っていたが、
「ま、ゲーの好きにすればいんじゃない?」
と、言うだけに留める。
「それに、途中で会えるかもしれないし、先回りできるかもしれない」
 ゲーは、先回りできて、ハルカ達より先にジェイダイトを発見することができたらいいと考えていた。
 ジェイダイトがハルカと別行動をとっている理由は、一緒だとハルカに何らかの危険が及ぶから、と考えているのではないかと考えたのだ。
 ハルカより先にジェイダイトを発見できれば、その辺を問い、対応することができる。

 ……だが、先回りをしたつもりで、ジェイダイトは更にその先へ突き進んでいたようだ。
「一体何なんだ、あの爺さん……」
 話を聞いたゲーは、思わず呆然とそんなことを呟いたのだった。



「ザンスカールからの『不定期便』が、戻っていないそうですね?」
 不定期便、は正式名称ではなく、正式名称は存在しない。
 情報の類は通信で時差なく伝わるが、生の、リアルな感覚のようなものは、やはり現地に赴かないと得ることができない。
 シャンバラ教導団では特に用があるわけでなく、各都市に生徒を派遣することがある。
 一定期間の後、行って帰ってくるだけのそれは、大使館というシステムが未だ各都市に存在していない為のものなのだが、正規に認証されている活動ではない為、正式名称はなく、通称で呼ばれているのだ。
 事務官の女性が、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)の言葉に答えて言った。
「特に指導が必要なほど遅れているわけでもありませんが。
 何処かに寄り道でもしているのかもしれませんね」
 これが正式な任務なら、それは許されないことなのだが、そこまで厳しくしなくても、という暗黙の空気がそこにはある。
 何から何まで厳しいばかりでは、息が詰まってしまう。
『不定期便』担当生徒が持ち帰る、ザンスカール土産は、結構皆楽しみにされていたりするのだ。
「それより、面白い情報がありますよ」
 女は基本的に噂好きだ。
 楽しげな事務官の言葉に、アリーセは、どんな噂ですか、と訊ねる。
「南部氷雪地帯の調査をしていた、機甲科のルカルカ・ルーから連絡があったとかで。飛空艇が発掘されたんですって」
「それは……珍しいですね」
 飛空艇が発掘されることは滅多に無い。
「遺跡の方にも一応調査チームを派遣する話が進んでいるらしいけど。飛空艇は墜落してしまったそうよ」
 それは無理もない話だ。
 飛空艇の操縦は、誰にでも簡単にできるものではない。
「飛空艇の方には調査チームは編成されるのですか?」
「それはまだ、聞いていませんが」
 もし編成されるのであれば、加わりたいとアリーセは思った。

 しかし事態は予想外の展開に進むことになる。



 一旦砂漠から街道に出た後、イルミンスールに向かって北上するのではなく、近くの村で準備を整えた後、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は改めて砂漠へ赴き、アトラス火山を目指した。
 この火山こそが、聖地の要、地脈の中心ではないかと予測したからである。
「……恐らく、ヘリオドールの言っていた”鍵”と、コハクの持つ光珠は、同じもの……」
 だから、ヘリオドールの言葉と同様、コハクも光珠を本来”守り人”のみ持てるものと言っていたのだろう。

 だとすればつまり、光珠も、『アトラスの力を抽出したもの』だということだ。
 そしてそれはつまり、聖地の魔境化に深く関わる物を、コハクが持っているということ。

 アトラス火山周辺は、シャンバラで最も遺跡の類が多い。
 恐らくシャンバラが滅亡するより前、最も栄えていた都市のひとつがあったのだ。
 簡単に目につく場所は既に発掘され尽くしたか、放置されたような、砂に埋もれた、寂れたような遺跡を目にすることはできたが、聖地と思しき場所を見付けることはできなかった。
「聖地、というか……
 むしろ例の石を見付けたかったのですが……そう簡単にはいかないですね」
 聖地、もしくは聖地跡を見付けるのも簡単ではないだろうが、例の鉱石ともなれば、難易度は各段に上がっていそうだ。
 恐らくは、遺跡や聖地に落ちているものではないのだろう。
 あの鉱石がアトラスの力だと言い、この火山がシャンパラで唯一、アトラスと繋がる場所であるなら、どうやって、アトラスから力を抽出することができるのだろう。



「あー痛ってー。
 まさか墜落するなんてなあ。とんだ災難だぜ。
 ここは……砂漠地帯か……」
 がりがりと頭をかきながら、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が飛空艇を降りる。
「不幸中の幸いですか、飛空艇に殆ど傷が見られないのは、砂漠だったからこそでしょう」
 パートナーのオウガ・クローディス(おうが・くろーでぃす)が、飛空艇を見渡しながら言う。

 続けて、墜落時にぶつけたのか、後頭部をさすりながら飛空艇を降りたイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が、パートナーのパントル・ラスコー(ぱんとる・らすこー)と、飛空艇の外壁に絵を描くことはできないか、などという話をしている。
 とりあえずペンキを手に入れないことにはな、と、イレブンはパントルに苦笑していた。


「砂漠、と、街道、それと森、でございますか。
 桜はどちらからお進みになられますの?」
 アルト・アクソニア(あると・あくそにあ)に問われて、小牧 桜(こまき・さくら)は考えこむ。
「素敵な出会いが待っている方へ、進みたいと思いますわ」
 まあ、とアルトは微笑んだ。天使のような、どこか禍禍しい微笑み。
「大丈夫ですわよ。桜なら、きっと素敵な方に愛されますわ」


 飛空艇を降りる前に、と、牧杜 理緒(まきもり・りお)シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)は、それぞれのパートナーと共に、一通り飛空艇内を見て回った。
 保存食や水等の備蓄があればと思ったのだ。
「見事に全然何も無いですね」
 テュティリアナ・トゥリアウォン(てゅてぃりあな・とぅりあうぉん)が、冷静に結果を述べる。
「あの地底都市の人達は、この飛空艇を全く使うつもりがなかったんですね」
 持っていただけで。
 そうとしか考えられなくて、シャンテが呟く。
「だから燃料も入っていなかったというわけなのだな」
 納得したように、リアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)も言葉を継ぐ。


 そんな4人組を横目で見遣りつつ、一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は、飛空艇が墜落しようとも、備蓄が何もなくとも、持参の某バランス栄養食は死守した! もうそれだけで万事オッケイ! 何も怖いものは無い! と考えていた。
「まあたったの1ダースだけど」
「月実?
 また何を考えてるのか知らないけど、いや大体予想はつくけど、またアホなことしようとしたら、容赦なく延髄に蹴り入れるからね」
 パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)が、胡乱な目を向ける。
 もう本当、世話の焼ける。
 この先砂漠やら荒野やらの旅で、体力の無い自分はただでさえ気が重いというのに、全くどうしようもないパートナーだとリズは溜め息をついた。食べる? と差し出され、要らない、と答える。あっそう、と月実はスナック型栄養食をポケットにしまった。
「またって何よ、またって。
 だってバランス栄養食大事でしょバランス栄養食。
 別に、イルミンスール向かう途中で何かあったら、ちゃんと戦うし。
 とりあえず次はしんがり任せられないように前の方で戦うし。護るし」
「某バランス栄養食を?」
「うん」
 延髄斬りは勘弁してあげたリズのローキックが、地味に月実の足のふくらはぎをキメた。


「ご、ごめん……」
「大丈夫ですか?」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)に肩をかりて飛空艇を降りながら、心配そうなハンスに、椎名 真(しいな・まこと)は力無く笑った。
 聖地クリソプレイスが魔境化しかけた時に、大なり小なり殆どの者が瘴気にあてられていたが、長時間ではなかった為、殆どの者はすぐに回復した。
 しかし真は未だに具合が悪そうにしている。
 このまま皆と共に行くのは、足手まといなのではないかと真は考えていた。
 このまま砂漠を行く者同士、街道へ出ようとする者同士、何となく集まっているが、とりあえず砂漠を抜けて街道に出たいが、そこからは単独で行動しよう、と考える。
「荒野で単独行動は得策でないと思われるが」
 そんな心境を察して、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が言った。
「そうですよ、体調が思わしくないのであれば、だからこそ、一緒に行動すべきです」
 ハンスは真にキュアポイゾンを施しながら、そう言う。
「どうですか?」
「うん、すごく楽になった。ありがと」
 礼を言って、真は周囲を見渡した。
「……この場所、記録できないかなあ?」
 聖地で集めた情報、主に撮影した画像等を確認しながら、真は飛空艇の墜落場所であるこの場所を、記録できないかと考える。
 飛空艇をこのまま乗り捨ててしまうのは勿体無い。
 後で回収するにしても、場所が解らなくなってしまったら話にならないのだ。
「街道まで出れば、現在地の把握は可能かと思うが」
 クレアの言葉に、そっか、と真は頷く。
 記録媒体を見つめ「うん、できることを全力でやるしかないか」と、独りごちた。