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世界を滅ぼす方法(第3回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第3回/全6回)

リアクション

 
 
 轟音が響き渡る。それが何を意味するものなのか、オレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)にはすぐに解った。
「さあ、見届けさせて貰いますよ」
 いや、違うかもしれない。
 正しくは、『観察させて貰います』か。


 『ヒ』が来たのだ。


 炎が上がっている。
 メラメラと燃える巨木が倒れ、他の樹に燃え移ろうとしている。
「また火攻めですか。芸がありませんね」
 聖地内に入るなり、『ヒ』は、手近なところにある一本の樹を火ダルマにした。
 その炎が、異常な勢いで、どんどん大きくなって行く。
 聖地内を見回っていた菅野 葉月(すがの・はづき)が、真っ先に駆け付けて、『ヒ』に対峙した。
「こうなることが解ってて、何の備えもしてなかったんだから、間抜けなんだか呑気なんだか」
 期待には応えないといけないだろうが、と、『ヒ』はけらけら笑う。
「……じゃあ、ついでに訊くけど、ワタシ達を聖地に呼んだのは何で?」
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が訊ねると、ああそのことか、と、『ヒ』は肩を竦めた。
「ヒラニプラの聖地はさ、町だの何だの、人種的に凝り性でいじりたがりな奴等が守りで、結構気が乱れてるから、『ツチ』も簡単に入り込めてたが、ここの聖地はなるべく手を入れないようにとかしててさ。
 清浄過ぎて、入り込めなかったんだよな」
「……僕達が来ることによって、聖地の気を乱し、君が侵入できるように図った、と、いうことですか」
「アタリ。どうもありがとうお疲れさん」
 『ヒ』はくつくつと可笑しそうに笑う。
 そして当然、インカローズもそのことに気付いていた。
 追い出さなくては、と知りつつ、放置していたのだ。
「もういいだろ。じゃあな!」
 葉月に構わず、『ヒ』は森の中へ消えて行った。


 インカローズは最初から、『ヒ』が”柱”を狙っているだろうことに気付いていた。
 『ツチ』が”鍵”を”柱”から地脈の流れに落としたように、この聖地にも、力溜まりの場所が存在する。
 ”種”を狙うのなら当然、”力場”も狙うに決まっていた。
 けれどそれについて、インカローズはついに触れなかった。
 それが、自分達をその場所に近づけないように護る為だったのか、それとも『ヒ』の行動を邪魔しない為だったのか、知る由はない。

「『ヒ』が襲撃に来てからその場所を探す、とか、我ながら手際が悪すぎですね」
 久沙凪 ゆう(くさなぎ・ゆう)は失態に苦笑した。
 森は広い。そして聖地とその外の森の境界が解り難い。
 ウィザードなら空気を読み取れるのかもしれないが、生憎と自分はソルジャーで、パートナーのカティア・グレイス(かてぃあ・ぐれいす)はセイバーだ。
「でも、”種”がなくては、”柱”に行っても無意味でしょう?」
「多分、それは自分で動かなくても向こうから来る、と思っているんじゃないですか」
 何度か『ヒ』と話していて、彼ならばそう考えるのではないか、と、ゆうは感じていた。
「火事も広がってきました……」
 ヴァルキリー達が、上空で消火に当たっているのが見えるが、火の勢いがあまりにも強い。
 まるで生きているかのように暴れ狂う炎は、みるみる村を覆いつくそうとしている。
 とにかく、そちらは彼等に任せて、森を進んで行くと、沼地に出た。
「ゆう、何かいます」
 言う間に、沼の水面が揺れ、その下から何かが飛び出した。
「何ですか、これは……」
 巨大な胴長イソギンチャクというか、触手のついたナマコというか、形容し難い形の魔物だ。
「しまった、ここは聖地の外か……」
 びゅる! と伸ばされた触手がカティアの体に絡み付き、痛みのような痺れが全員を貫く。
「きゃあああ!」
「カティア!」
 ゆうは、カティアに届かない範囲内で、胴長イソギンチャクにスプレーショットで全身にダメージを与える。胴長イソギンチャクは、胴体を仰け反らせながら、カティアを解放した。
 カティアはすぐさま剣を抜き、ゆうの乱射で沼の中へ戻ろうとする胴長イソギンチャクに、とどめの一撃を放った。
「無事ですか、カティア」
「大丈夫です」
「これは他にも色々いそうですね。気をつけて行きましょう」




 イルミンスールの森の木々は平均して巨大だが、背界樹には勿論叶わないものの、中でもずば抜けた巨木だった。
 が、びっしりと蔦やシダに覆われ、木の幹が見えないほどだ。
 蔓を掻き分けて行くと露になる幹は石のように固く、木というよりは、既に化石のようだった。

 『ヒ』はぐるりとその木の周りを巡って、それから周囲を見渡した。
「……一応、待ってるのは”種”なんだが。
 お前等が持ってきてんのか?」
「お前に、それは必要ない」
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が、静かに『ヒ』を睨みつけた。
「今日は貴様が絶望を味わう番だ! 行くぞ、ユニ!」
「はい!」
「いいね! 絶望は大好きさ」
 笑う『ヒ』を前に、クルードはパートナーのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)から光条兵器を受け取る。
 身の丈ほどもある野太刀を構え持つクルードに、ユニは更に、パワーブレスの援護をかけた。

 辺りは特に開けた場所という訳でもなく木々が乱立して死角だらけの、普通の森の中だった。
 御弾 知恵子(みたま・ちえこ)は物陰から『ヒ』の様子を窺っていた。
 後方から支援するつもりでタイミングを計っているのだが、隙がない。
 クルードもそれで攻めあぐねているのだろう。
 いや、ここは自分が撃つことによって『ヒ』の緊張を散らせれば、とどめはクルードがやってくれる、と銃を握りしめた時、
「知恵子、後ろっ!」
とパートナーのフォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が叫んだ。
 振り向くのと、フォルテュナが知恵子の背後に飛び込んだのは同時だった。
 どかっ、という音と共に、フォルテュナが構えた腕に、巨大な魚が飛びついている。
「森海魚ってやつ!?」
 すいっと距離を置いて、再び攻めてこようとする。
 そこに出来た滞空時間に、知恵子は銃を撃ちまくった。
 一匹は倒したが、既に別の森海魚がクルード達の背後に回っている。
 知恵子は物陰から飛び出した。

「間に合ったっ!」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、パートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)と共にその場に到着した時、太い木々が乱立するところに森海魚がひしめいている事態だった。
 アメリア・レーヴァンテイン(あめりあ・れーう゛ぁんていん)がユニに援護されながら、森海魚を切り捨てている。
 密集地帯である為に、森海魚も一斉に襲いかかったりはできないようだった。
 ユニ達は上手に木の影を使って魚の数を減らしながら、悠然と立っている『ヒ」の様子を見る。
 『ヒ』は自分から手出ししようとせず、森海魚の大群に追われる知恵子達を笑いながら眺めていた。
「くっそう、キリがない!」
 フォルテュナが叫ぶ。

「ここは、多少のダメージを受けても、肉を斬らせて骨を断つ、の方法で行くしかあるまい。
 ロージー!」
 ミルディア達がいてくれているので、多少負傷したところで、回復して貰えるだろう。
 それよりも、ブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)は、『ヒ』に受けた借りを返さなくてはならなかった。
「ああ、お前か」
 『ヒ』はブレイズに気付いて笑う。ロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)が、ブレイズの撃った魔法と同時に飛び込んだ。
「はは!」
 『ヒ』は、クロスにした腕でロージーの攻撃を受け止めると、圧し返す勢いで弾き飛ばす。
「うっ……!」
 それだけの接触でも、ロージーの腕には、赤く火傷がこびりついている。
「大丈夫ですか!」
 真奈が走り寄ろうとしていたが、
「後で!」
と言うなり、呪文詠唱中のブレイズの前に、盾となるために飛び込んだ。
「無駄だぜ!」
 『ヒ』の攻撃を受け止めたロージーは、受け止めた状態のまま投げ飛ばされた。
 そして『ヒ』は、ブレイズとの間に空いた距離を、一気に詰める。
「同じ手は、食わん!」
 しかしブレイズは、伸びてきた『ヒ』の腕を、こちらから掴まえる。
 あの素早い『ヒ』を、捕らえた! と内心で叫んだ。

 ジュッ、と肉の焼ける音がして、ブレイズはうめいたが、しかし準備していた氷術の魔法を、『ヒ』の体に叩き付けた。
「ぐっ……!」
 ダメージ、というよりは、不快感、という顔だった。
「やってくれるなあ!」
「そのまま! そいつを捕まえていろ!」
 その時、森海魚の群れに囲まれていたクルードが、突破口を作り出し、走り出しながら叫ぶ。
 噛み付いて来た森海魚を腕に噛み付かせて払い飛ばし、全力で向かって来た。
 『ヒ』は、顔をクルードに向けて舌打ちし、ブレイズに蹴り入れて無理やりその手を引き剥がしたが、逃れるより一瞬早く、クルードの一閃が決まった。

「終わりだ、『ヒ』!!」
「がっ……!」

 鮮血が散る。
 がく、と膝を付き、ばたりと倒れた。

「……くくっ……」
 倒れたまま、『ヒ』は顔を歪めて笑った。
「ああ……負けた。終わりだ」
 くつくつと、不気味な笑い声が、やがて哄笑になった。
「残念だったな! 俺に絶望はない。絶望は、お前等にくれてやるぜ!」

 ぼっ、と『ヒ』の体が発火した。
 炎はあっという間に全身に広がり、『ヒ』は炎に呑まれるようにして燃え尽きた。

 最後に腕輪だけが残されたが、それもやがて火を吹き、燃え尽きてなくなった。

「ブレイズさん、無事っ!?」
 すっかり名前を憶えていて、ミルディアが走り寄った。
「あ、ああ……」
 気まずそうに目を逸らすブレイズに、ミルディアは構わず、
「今度は勝った負傷なんだから、大威張りで治療されなさい! ほらっ見せて見せて!」
 治療をしようとして。

「きゃああああ!」

 ユニが悲鳴を上げた。
 ユニの方を見ると、ユニは”柱”と思しき巨木を見ている。

 ――――――――――――黒く染まった、その木を。

 ミルディアも愕然と目を見開いた。
「えっ、どうして!? だって勝ったんだよ!? 倒したのに!」
 聖地は、森は、救われたのだと、安心したのに。
「これは……これが、魔境化……!?」
 真奈が呆然と呟いた。背筋を一瞬で冷やし、全身を覆う悪寒は、危機感だった。
 黒い、昏い、禍禍しい、邪悪なものが、その直後、爆発的に広がった。
「ひいっ……!」
 肺を握り潰されたような瘴気に激しく咳をしながら、アメリアやユニが倒れる。

 森が、死んじゃうっ……!

 ゼエゼエという呼吸が、やがてヒューヒューと漏れるようなものになり、意識が虚ろになりながら、ミルディアは呟く。
「チエ! しっかりして、チエ!」
 比較的、瘴気の侵食速度が遅いらしいフォルテュナが、蹲る知恵子を抱え上げたが、どこに運んだらいいのか解らなかった。
「くそ、どうすればいい――」




 ビク! と、まるで痙攣するかのように体が震え、激しく咳き込んで膝が崩れ折れた。
「な、何ッ……」
 一体何があったのか。清泉北都は、咳の中で呟こうとして、諦める。
 知識では解らなくても、本能で解った。
 この森は、死の森になろうとしている。
 クナイは霞む目で、ホクトにキュアポイゾンを施そうと試みるが、それは不可能に終わった。


「……………………」
 インカローズは、手を”種”に沿え、空を仰いで、少しの間、微動だにもせずに立ち尽くした後、目を伏せた。

 ああ。
 ――――――――――逃げられない。

「インカローズ!」
 呼び声に振り向いた。
 鈴木周が、苦しげなレミの手を引きつつ、咳をしながら走ってくる。
「何かヤベえ! 早く逃げようぜ!」
 インカローズは微笑んだ。
 全てを諦めた、絶望した、微笑み。
「ありがとう」
「あ? えっ??」
 近づいたインカローズの唇が自分のそれに触れて、周は驚く。

「……誰かに、好きと言って貰ったのは初めてだった。
 貴方だけが、私に何も訊かず、役目も何も、強要しようとしなかった」

 嘘でも、冗談でも嬉しかった。ありがとう、さようなら。

「インカローズ!?」
 光の翼を広げ、インカローズは飛び去って行く。
「何処行く! おい、戻れ!!」
 叫ぼうとして、肺が瘴気を吸い込み、激しく咳きこんで言葉にならなかった。


 世界を嫌っている。
 滅びてしまえばいいと、今この瞬間にも思っている。
 けれど、逃げ出せない。
 使命が自分の魂を、芯まで縛り付けている。
 ああ、だから、欲しい言葉を沢山貰えて、嬉しかった。
 きっと私はあれが欲しくて、あなた達を村に入れたまま、拒絶せずに留めたのだ。
 ありがとう。嬉しかった。
 好きと言ってくれたあの言葉を、最後に思い出す記憶にしよう。




 目が覚めると、そこは森の中だった。
 魔境ではない。
「……ゆ、夢だったの? 違うわよね。助かった……?」
 起き上がりながら、アメリアは呆然と周囲を見渡す。
 仲間達が気を失って倒れていた。
 魔境化が始まり、魔境に変わったと思われた森は、何もなかったかのように、元に戻っていた。
 ただ、巡る視界の何処にも、あの巨木は無く。

 一体何が起きたのか、何も解らなかった。
 
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

ハルカ「間に合わなかったのです…………!」
コハク「えっ、何その地を這うような呻き声。な、何が?」
ハルカ「今回の展開は、最初、マスターの
『この回でPCさん達にがっぽがっぽアイテムをあげよう!』
という思惑で作られたものだったらしいのです」
コハク「あ……ああ、マスターによるアイテムの贈与奪システムの話……?
 そっか、まだ実装されてないね。折角砂漠に色々あったみたいなのに」
リシア「ちょっと待ちなさいっ! 
 それじゃ何、あたしがまるであの連中のカモになる為に登場したみたいじゃんよ!」
ハルカ「………………」
コハク「………………」
リシア「黙るなあ!!!」
ハルカ「そんな訳で、マスター的には『砂漠ルートがアタリ、荒野ルートがハズレ、森ルートはオマケ』という感じだったらしいのです」
コハク「くじびき? ……でも、PCさんにとってのアタリハズレはそれぞれ違うと思うから……。一概には言えないけどね」
リシア「どっちにしろ、お宝はあげないわ! 全部あたしのよ!!」
ハルカ「それはともかく、今回もご参加ありがとうなのです」
コハク「今回もまた、前回より多数の皆様に参加して貰えました」
ハルカ「でも締切日には定員割れしてたです」
コハク「そういうこともあるよ」
ハルカ「……折角予約してくれた人はポイントが勿体無かったのです……」
コハク「そんなミもフタもないこと言わないで……」
ハルカ「でもでも絶対来たいって思ってくれた皆、ありがとなのです!」
コハク「物語も佳境に入ってきました」
ハルカ「コハクは大変なことになってきたのです」
コハク「………………」
ハルカ「泣いちゃダメですよ?」
コハク「…………ハルカも頑張って……。何か皆、獣の波? に流されてたみたいだし……」
ハルカ「大丈夫なのです。
 ハルカレベル1ですけど自由設定でしょうりんじもくじんけんの免許皆伝なのですよ?」
コハク「……誰も元ネタ知らないよそれ……。
 ていうか前回刀3本持ってたのはどうなったの?」
ハルカ「必殺技はおにぎりなのです」
コハク「…………不可だから…………」
ハルカ「でも、自由設定なのにです?」
リシア「ばっかねー、『言うだけなら何言っても自由だけどね!』ってやつ?
 でも何言っても通るわけじゃないのよ? 自称で最終奥義持っていようができるのはスキルで持ってることだけよ!」
ハルカ「だからさぞくさんはボコボコにされたですね?」
リシア「うっさいわ!!! そして砂賊言うな!!」
コハク「…………えー、えっと、皆頑張ってスキル育ててください…………。
 ちなみに、今回入手したアイテムはとりあえず現在、皆の共有財産という形で、誰かが持ってることになってます。
 ここが使い時! と思ったところで、使いたい人はアクションをかけてみてくださいね」
ハルカ「というわけで、3回目のリアクションをお届けでしたのです!」
コハク「よろしかったらまた、次のリアでお会いしましょう」