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リアクション
第4章 遭遇
《工場》の内部では、鵬悠の他にもクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)とパートナーのクリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)とパートナーのゆる族うんちょう タン(うんちょう・たん)と皇甫 嵩(こうほ・すう)、相沢 洋(あいざわ・ひろし)、マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)とパートナーのアム・ブランド(あむ・ぶらんど)、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)とパートナーのレナ・ブランド(れな・ぶらんど)、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)とパートナーのクリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)とパートナーのアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)、昴 コウジ(すばる・こうじ)らが警戒に当たっていた。一応、リーダーは鵬悠ということになっている。
「制御室の前に検問所を設けて、入室者を徹底的にチェックすべきだ」
警備を行うにあたって、クレーメックはそう鵬悠に主張したが、
「いや、楊教官の話によると、守るべきは《黒き姫》が封印されている部屋だそうだ」
鵬悠はかぶりを振った。
「制御室の再起動は、古代の技術についての知識がなければ難しいらしい。もちろん、敵にその知識がないと断言は出来ないが、スイッチ一つで再起動するようなものではないそうだ。それに、万一再起動されても、我々には既に対抗する手段がある」
例の魔法攻撃に強い盾は生徒たちに配られているし、生徒たち個人個人の装備や戦力も、《工場》を探索していた最中より上がっている。『恐れるに足りない』とまでは行かないだろうが、以前よりも脅威とは感じないはずだ。
「それにしても、なぜ《黒き姫》なんだ? 例の人型兵器の方がよほど危険そうに見えるが」
クレーメックは首を傾げる。
「彼女は、おそらく、この《工場》を動かしている動力源だ」
「……彼女、一人でか?」
鵬悠の答えを聞いて、クレーメックは思わず尋ね返す。もしそれが本当なら、どれだけの力が《黒き姫》の中に眠っているのだろうか。クレーメックは背筋が冷えるのを感じた。
「そうらしい。古代人の警告文が残っていたことは聞き及んでいるだろう? 彼女を覚醒させたり、鏖殺寺院に渡してはならないと、楊教官からきつく言われている」
鵬悠はうなずく。
「と言うことで、配置は入口付近と《黒き姫》の部屋を重点的に行う。むろん制御室も警備の対象にはするが、これだけの面積がある場所だ、あまりあちらにもこちらにも兵を置くことは出来ないし、万一入口を突破された後、内部で散らばられると後が面倒だ。工場内での検問も、本校からの道路が開通して、本格的な調査が再開されて、人の出入りが増えてからで良いだろう。俺は工場の入口付近に詰める。何かあるとしたらまず入口だ。奥に居たんでは状況がわからん」
「……わかった」
明花の命令であり、現場のリーダーの鵬悠の判断であれば、クレーメックたちも従わざるを得ない。結局、制御室の入口で検問を敷くつもりだったヴァルナとハインリヒ、ヴァリア、ケーニッヒ、アンゲロが《黒き姫》の部屋の守備に回ることになった。
《工場》はとにかく広い。人が入れる部分については既に地図の作成が終わっているが、入口から《黒き姫》の部屋がある最深部まで、徒歩なら訓練された生徒たちが最短ルートを通っても半日近くかかる。朝《工場》に入って、最深部に着くのが夕方近く、という感じだ。
「バイクではなく、自転車を持って来るべきでしたねぇ……」
入口から制御室に続く通路を歩きながら、皇甫 伽羅はため息をついた。バイクは持っているのだが、分解して運んで来ても燃料の問題があるため、《工場》の内部で使うことができるようになるのは道路が開通し、トラックが直接遺跡まで入れるようになった後になるだろう。《工場》内部からも乗り物は発見されているのだが、制御方法が不明で、まだ稼動には至っていない。
「ロードレーサーでもあれば、かなり巡視が楽になったかも知れません。馬でもいいかも……。あ、そう言えば、ヒポグリフ部隊の方はどうなったでしょうねぇ」
(上手く行っていれば『白騎士』の評価が上がるでしょうしぃ、かと言って、失敗を望むのは教導団の利益に反することになりますしぃ……)
「どうした、義姉者。また何か消費期限切れの糧秣でも毒味されたのでござるか?」
うんちょう タンに声をかけられて、伽羅は自分が胃のあたりに手をやっていたことに気がついた。
「伽羅よ、節約も程々にせんと、かえって身を害するぞ」
皇甫 嵩が嘆息する。
「お二人とも、そんな理由で体調を崩してると思うなんて、ちょっとひどいですぅ」
伽羅は頬をふくらませた。その時、非常事態を知らせるベルの音が鳴り渡った。
「な、何ですぅ!?」
伽羅は慌てて周囲を見回した。現在《工場》内ではまだ携帯電話はパートナー同士以外使えない。要所要所に有線の電話と非常ベルを設置してあるだけで、館内放送のようなものもないのだ。
「状況がわからないと話になりませんな」
一緒に巡回に当たっていたマーゼン・クロッシュナーが舌打ちをする。
「最寄の電話機まで行って、状況を確認して来ましょう」
ゴットリープ・フリンガーが駆け出す。
「と、とにかく、気をつけるですぅ」
伽羅は雅刀を構え、きょろきょろと周囲を見回す。
非常ベルを鳴らしたのは鵬悠だった。《工場》の外から、ヒポグリフ用厩舎付近で爆発が起きたと連絡があったのだ。
『消火作業が必要なので、外で警備している人員の半数をそちらへ向かわせます。その分入口が手薄になりますので、内部を警備中の生徒を、入口付近へ向かわせてもらえませんか』
「了解した」
鵬悠は答えると、非常ベルのボタンを押し、周囲に居た風紀委員たちに入口に向かうように指示した。
『何かありましたか』
ゴットリープや、最深部にいるクレーメックが問い合わせて来る。
「ヒポグリフ用厩舎付近で爆発が起きた。陽動かも知れん。入口付近の警戒を強めるが、そちらも気をつけてくれ」
鵬悠はそう指示して、自身も入口へ向かった。しかし、彼が駆けつけた時には既に、《工場》の扉は破られかけていた。
「大丈夫か!」
倒れている水原ゆかりに向かって叫ぶ。
「敵が来ますっ……!」
ゆかりは叫んだ後、意識を失った。それと同時に、黒い怒涛が工場の中に雪崩れ込んできた。高速飛空艇だ。
「奴らをこれ以上奥へ入れるな! 壁際まで後退して、通路を塞ぐ形で横列を組め!」
鵬悠は冷静に指示する。
「くそ、何だあれは!?」
まさか飛空艇で突っ込んで来られると思っていなかった相沢 洋は目をむいた。すぐに気を取り直してトミーガンを構えるが、狭い場所を高速で飛び回っているので、狙いをつけにくいことおびただしい。
「ちょろちょろするなぁッ!!」
昴 コウジもアサルトカービンを構えて飛空艇を狙う。だが、引金を引く前に飛空艇は高度を上げつつ、機銃を撃ちながら突っ込んで来た。
「うわっ!」
さすがに、機銃の弾では避けざるを得ない。洋やコウジがひるんだ隙に、飛空艇は生徒たちの頭上を天井すれすれに飛び越して、通路に飛び込んでしまった。十機ほどが三〜四機ずつに分かれて、三本の通路それぞれに突入する。
「待て!」
洋もコウジも、飛び去る飛空艇に後ろから銃撃を浴びせたが、曲技飛行部隊なみの操縦でそれをかわし、飛空艇は通路の先に消えた。
制御室に向かう通路を警備していた皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)とうんちょう タン(うんちょう・たん)と皇甫 嵩(こうほ・すう)、マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)とアム・ブランド(あむ・ぶらんど)、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)とパートナーのレナ・ブランド(れな・ぶらんど)は、鵬悠からの連絡が受けやすいように、電話機の近くに移動して警戒していた。
「何ですって、高速飛空艇!?」
入口を突破された鵬悠から連絡を受けたゴットリープは、思わず聞き返していた。
「何があったの?」
レナが心配そうに、受話器を置いたゴットリープに尋ねた。
「敵は高速飛空艇に乗っているそうです。入口で三方向に分かれたので数は少ないが、機銃を搭載している上に非常に高速で運動性も高く、注意が必要とのことです」
ゴットリープは他の生徒たちを見回して言った。
「あの、それってあれのことじゃ……」
アムが通路の入口側を指差す。
「え、え、ええーっ!?」
ものすごい速度でこちらへ向かって来る飛空艇を見て、皇甫 伽羅は悲鳴を上げた。
「あんなのアリですか!? アリなんですかぁ!?」
「何をうろたえておるのだ! 実際に目にしているのだから、ありもなしもなかろう!」
ライトブレードを構えて皇甫 嵩が叱責する。
「そ、そうでしたぁ!」
伽羅は雅刀を構え直す。
「あなたがたは後ろに!」
ゴットリープは、レナとアムを後ろに下がらせた。二人の前を、マーゼンが固める。
飛空艇が問答無用で機銃を撃って来た。アムが立て続けに攻撃魔法を使うが、いずれもあまり効いた様子がない。
「接近戦になるとばかり思っていましたから、飛び道具の用意がないのは痛いですな!」
跳ね返る銃弾からレナとアムを守りながら、マーゼンが歯噛みする。彼らの班に居るのは、魔法を使えるアムの他は接近戦用の武器を持つ者ばかりで、機銃に対しては避けることや防ぐことは出来ても、反撃の手段がない。銃器があれば、いくら巾が広く天井が高いと言っても通路の中なら、一方的にやられることはない筈なのだが……。しかし、生徒たちが手をこまねいているうちに、飛空艇は彼らの頭上を通り抜け、さらに奥へと飛んで行ってしまった。
「……私たちを殺すのが目的ではない、ということかしら……」
他の生徒たちが機銃掃射で受けた傷を癒しながら、レナが呟くように言った。
「馬鹿にされているようで、良い気分はしませんが」
マーゼンが憮然として言う。
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