First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
正面から戦って倒せる相手ではないのでは。
モルダヴァイトを見て、そう感じ取ったのは、クレア・シュミットだけではなかった。
あんなとんでもないものと、どうやって戦えというのだろう。
「ど、どうしよう、どうしよう、コユキ!」
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、パートナーのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が、次々と仲間が倒れて行くのをおろおろと見て泣き声を上げるのを聞きながら、『カゼ』が封印を解く為に”核”を利用したように、また逆のこともできるのではないかと考えた。
核は、『カゼ』に奪われたコハクの物の他、ハルカとジェイダイトが持っている。
ハルカの持つ物を使うわけにはいかないから、ジェイダイトから奪うしかない、と考えていた。
そこへ、目的は違うが、呼雪より先に、ジェイダイトの持つ”核”が奪取される。
あらかじめジェイダイトの背後の岩陰に待機していた呼雪のパートナー、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は、ゲー・オルコットがジェイダイトのところに飛び出した時と、退却の時に、援護の攻撃を仕掛けていたのだが。
そして、ソア・ウェンボリスを経てハルカの手に渡されたそれを、使うのは待て、と言おうとしたが、コハクが先に、それをハルカの手から取り上げた。
「コハク、その”核”、蛇に対して使えるんじゃないのか」
呼雪の言葉に、リネンから”核”を受け取ったコハクは、はっとして目を見開いた。
「これが、手にする者の心に左右されるものなら、コハク、お前になら、『カゼ』と逆のことが、できるはずだ」
まるで不死身のごときモルダヴァイトの前に、仲間達は次々と倒れ、倒す方法を見失いつつある。
自分に、できることがあるのなら。
コハクはぎゅっと唇を引き結んだ。
「でも、この”核”、穢れちゃってるんだよね?」
ファルが言った。
だから、ハルカの復活に使うことはできないと、コハクがそう言っていた。
コハクは、手の中の”核”を見つめ、それをハルカに差し出した。
「ハルカ、これを浄化して」
コハクに頼まれて、ハルカは驚く。
「ハルカに、できるのです?」
「うん、今の君になら、きっとできるよ」
ジェイダイトが媒体に選び、”核”と成すほどの純粋さを持つハルカになら、この穢れを浄化することが、できるはず。
「わかったのです」
どうすればいいのかは解らないが、ハルカは笑って頷くと、それを受け取る。
両手で包み込まれた”核”の、見た目の変化は、呼雪やリネン、野々達には解らなかったが、やがてにこっと笑って顔を上げたハルカは、
「はい」
とそれをコハクに手渡した。
「ありがとう」
受け取ったコハクは、蛇を見、覚悟を決めるように小さく息を吸い込む。
その背中、有翼種の翼が無い左側に、光の翼が閃いた。
飛んで行くコハクを見送って、
「頼む」
と呼雪は呟く。
「がんばって――!」
ファルが叫んだ。
蛇の頭に向かって行くコハクを見て、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)も翼を広げた。
邪霊は空にもいる。
蛇自身から放たれる瘴気の塊も脅威だ。
コハクを護る為に、レイナはコハクの側につく。
レイナの援護や、地上からの攻撃魔法での援護に助けられ、何とか蛇の頭上に降り立ったコハクは、その額に、”核”を押し付けた。
”核”が吸い込まれていく。
封印ではなかった。
これだけのものを封印できるだけの力は、コハクにはない。
「――わかったわ。次は、あそこね」
けれど、ルカルカには、すべきことが解った。
気を取り直して、ソードオブバジリスクを握りしめる。
「怪我はもういいのか」
案じる夏侯淵の言葉に、
「大丈夫! ありがと、イリーナ」
と、ルカルカは力強く笑う。
「今度こそ!」
ダリルと共に、箒に乗って飛び立つと、ザカコやフィルラントらの魔法援護を受けながら、蛇の頭上背後から近づいた。
「――しかし、また頭だけで切り捨てられたりはしないのか?」
フェリークス・モルスが案じて言った。
まるでトカゲが尻尾を捨てるように、蛇は頭を捨てた。
もうひとつ頭があったからできたのだろうが、今回もまた、そういうことにならないだろうか。
「大丈夫なのです」
そう言ったのは、ハルカだった。
「皆で一緒に斬ればいいのです」
「え?」
「ハルカも、皆で一緒に願ってくれたから、助かったのです」
”核”を使って助けてくれたのはコハクだが、それは、コハクだけではできなかったことだった。
同じことをすればいい、とハルカは言う。
「でも、ここから祈ったからって……」
ふらつく頭で、駿河北斗が言いかけ、
「そうか」
とクレア・シュミットが呟いた。
「あそこに、”核”がある」
意志を受け止めて、反映し、力とするものが、蛇の額から、コハクによって埋めこまれている。
ルカルカは、両手でソードオブバジリスクを握りしめて、大きく振りかぶりながら、そこを目がげて上空から飛び降りた。
狙いは、コハクが”核”を埋めた場所。
「いっけえええええええええ!!!!!!」
ビシ!
剣が突き立てられた場所から、石化が広がって行く。
オオオオオオオ!
蛇が、頭を振り回して嘶きを上げたが、ルカルカは、振り落とされまいとぎゅっと柄を握りしめて剣にしがみついた。
石化が、頭から胴体へと進んだ。
蛇の尻尾――最初に頭があった方が持ち上げられ、ばくっ! と横に裂ける。
裂けた内側に牙が生え始め、上部には2つの窪みができ始め、くびれができて、先が膨らみ始めた。
「頭を作っていやがる!」
ラルク・クローディスが叫ぶ。
「不死身なのか、奴は!?」
「大丈夫だ、石化の方が早い!」
イレブン・オーヴィルが言った。
「頑張って! 頑張って! ルカルカ!」
ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)が叫んだ。
「負けない。一人じゃない。戦える。
絶望なんか追い返しちゃうんだから!!」
「ああ、そうさ。
負ける訳にはいかねぇ!」
ラルクも、ぎゅっと拳を握りしめて言い、
「絶望なんかしねえ。世界も滅ぼさせねぇ! 絶対だ!」
届け、と願って、北斗も叫んだ。
蛇の口が、大きく開く。
瘴気を放つのではなく、一帯の瘴気を吸い込もうというのだ。
オ、オ、オ
断続的な嘶きと共に、足元がミシミシと歪むような音を上げる。
目に見えない空気の流れのようなものが、蛇の口に吸い込まれていくのが感じられた。
――――例えば、世界を滅ぼす方法は、幾らでもあるのだろう。
だが、世界は滅びることはない。
何故なら
「何故なら世界には、世界を滅ぼす者以上に、世界を救おうと思うお人よしが多いからだ。
我々は何度でも、滅びに立ち向かい、そして勝利する」
レオンハルト・ルーヴェンドルフが大喝した。
「世界を護りたいと願う、ただの人間を、我等の意地を、舐めるなあ!!」
オ、ッ――――、
嘶きが止まった。
ピシ、と、石化が、できかけていた新しい顔の先まで到達して、天を仰いだ状態のまま、蛇は固まって動かなくなった。
「やったっ……!」
エース・ラグランツが、歓喜の表情を浮かべた。
「……やった?」
ルカルカは、動かなくなった蛇の上で、持ち上がっている尻尾、頭になろうとしていた部分を見た。
安堵して、それからはっとする。
石化が、剣の方へ上がってきているのだ。
慌てて抜こうとするが、ぎっちりと埋めこまれてしまっているからか、それとも石化して同化していまっているのか、動かない。
「抜けないっ……!」
「手を離せ、ルカルカ!」
ダリルが叫んだ。
「掴んだままでは、お前にも石化が!」
「でも!」
ルカルカは言ったが、箒から飛び降りたダリルが、ルカルカの手を剣から引き剥がした。
それと殆ど同時に、柄の先までが石化する。
ダリルは、ルカルカの無事を確認してほっと息をついた後、石化した剣を見て、沈痛な表情を浮かべた。
「……ダリル」
ルカルカは、そっとダリルを抱きしめる。
「ごめん」
剣の花嫁であるダリルが、剣というものに対して同族感情を抱いていることを知っている。
知っているのに、自分を助ける為に、こんなことをさせてしまった。
亀裂の走る音がして、2人は、迎えに来た夏侯淵から、飛ばした箒を受け取って地面に降りる。
割れた頭が地上に落下して粉々になり、尻尾の方でも同様に、重い部分から落下して砕け始めていた。
「無事でよかった、ルカルカ!」
蛇に突撃してとどめを刺したルカルカを称えるべく、エースは真紅の薔薇の花束を持って迎えようとしたが、密かに持って来た花束は、瘴気にやられて全て腐り落ちてしまっていた。
気落ちするエースに
「気持ちが嬉しいよ」
と言ったルカルカだが、逆に慰められてしまったことに、更に落ち込むこととなったのだっだ。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last